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「成程。ジョブチェンジか…… 旨い事言うわね」
指導を受けたあの日から、顧客に関するデータを集め、個人的な顧客台帳を作り始め、今後の対応策と方針を自分に打ち立てた。
年齢、職業、学歴、身長、体重、靴のサイズ、血液型、スマホの種類、SNSのフォロー、住んでる地域、出身地、家族構成、持ち家か賃貸か、独身か否か、好物、好きな色、好きな言葉、好きな音楽、好みの女のタイプ、嫌いな女のタイプ、煙草の銘柄から趣味に至るまで。それこそ推しのアイドルの名前と活動状況迄と、多岐に渡り個人情報を接客の会話の中で自然と入手した。
するとどうだろうか、魔物《お客》の攻略方法が簡単に自然と頭に流れる…… 何を言えば喜ばれるのか、何を言えば怒らせる事が出来るのか、そして今この客は何を求め考えているのかが具《つぶさ》にわかる。
挙動一つ一つを逃さず、目線の動きすら逃さない。深く腰を掛ければテーブルとイスとの距離が近い事を示し、浅く腰掛ければテーブルとの距離が遠い事にも気が付いた。
―――今まで何をやっていたんだろう……
「すんません」
隣に腰掛けてる客が少し腰を浮かしボーイを呼び止めた刹那……
「ハイこれ。どーぞ」
「え⁉ うそ⁉ 何でわかったの? 」
「だって、お尻のお財布出そうとしたんでしょ? それ空箱だし。ハイどーぞ、この銘柄で良かったんだよね? 」
男はびっくりした顔で新品の煙草を受け取った。