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無機質な声を発する機械生命体――《観測者》は、静かに語りはじめた。
「ドリームコア。それは現実から“分離”したもうひとつの地球。誤って作られた、しかし決して“捨てられなかった”世界だ」
「分離……?」
リクが眉をひそめると、《観測者》は空中にホログラムを映し出す。
そこには二重に重なった地球のような球体。片方は現実世界、もう片方は奇妙な歪みを含んだ世界――ドリームコア。
「実験名:Project Ω(オメガ)。空間生成装置により、新しい生存圏を創造する計画。しかし装置は過剰に稼働し、既存の地球空間と重複。結果、“分離”が発生した」
アイビーがぽかんと口を開けた。
「それって……人が、別の世界に引きずり込まれちゃったってこと……?」
「正確には、“選ばれた”。あなたたちは、消去されるはずだった世界で、なお生き残った存在だ」
その言葉に、リクの心がざわついた。
「じゃあ……元の世界に戻る方法は?」
《観測者》は沈黙した。そして、こう答える。
「方法は存在する。ただし、その鍵は《果実》にある。ドリームコアの最奥、天を裂く塔の頂にて眠るものだ」
「……果実……?」
その言葉にだけは、なぜかロビンが反応した。
普段感情をあまり見せない彼が、少しだけ顔をしかめた。
「聞イタ、コト、アル……。昔、ここ来ル前ニ……」
その時、施設全体が揺れた。
上空から――黒い触手のような影が落ちてくる。
《観測者》が警告を発する。
「敵性クリーチャー《ナイトメア・ヴァイン》接近。交戦準備を推奨。ログアウト不可」
「来たか……ッ!」
リクは拳を握りしめた。
「今度こそ、逃げない……!」
今、過去の過ちと正面から向き合う戦いが始まる――!
「……なんだこれ。森でもないのに、植物……?」
乾いた砂の大地のはずなのに、リクの足元に黒紫色の蔓がぬるりと絡みついていた。
目を凝らすと、周囲の砂地からいくつもの蔓が蠢いている。
「ちょっ、やだ! これ、気持ち悪いっ!」
アイビーが叫びながら飛び退いたが、逃れ切れずに足首を一瞬で取られる。
「アイビーッ!」
リクが駆け寄ろうとしたそのとき、背後からいきなりロビンの声が飛んだ。
「動クナ。……オレ、撃ツ!」
風を切る音とともに、ロビンの矢が蔓を貫く。分裂矢が四方に飛び、次々と蔓を断ち切っていく――が。
「うそ……全然減ってない!」
アイビーが叫ぶ。切り落としたはずの蔓が、黒い霧を纏って再生していくのだ。
リクはすぐに叫んだ。
「分析!!」
⸻
解析結果
• 個体名:ナイトメアヴァイン
• 種族:擬似生態型悪夢捕食植物
• HP:8,900(本体) / 蔓1本あたり:150
• スキル:夢喰い・再生・感情感知
• 弱点:強い光 / 中枢部は地中深くに存在
• 備考:睡眠・恐怖・不安などの負の感情をエネルギー源とする。触れた相手に幻覚を与える。
⸻
「……感情感知……幻覚……!」
リクが顔をしかめた瞬間、蔓が絡みついたロビンの足元から、黒い靄のような影が上がる。
「やベェ……気持ち、ヘン。……コレ、マズイ」
ロビンの声に覇気がなくなり、目の焦点が外れていく。
「アイビー! ロビンを起こして! 俺、あいつの本体を――!」
リクは閃いたスキル“分析”の応用を使いながら、地面に向かって叫ぶ。
「そこかっ!!」
地面に走り込んで、再構築した分析データから導いた一点に短剣を突き立てる。
すると、大地が揺れ、巨大な黒紫の花弁のような口が砂から姿を現した。
「やっぱり本体はこっちかよッ!」
リクは短剣を深く突き立てた。
砂の中から咆哮のような轟きが響くと、ナイトメアヴァインの巨大な本体が砂を弾き飛ばして現れる。禍々しい花弁のような口が開き、中心にはうごめく黒い瞳があった。
「気持ち悪……」
アイビーが震えながら言うが、表情はもう恐れていない。すでに冷静さを取り戻していた。
「リク! 今よ!」
「ロビン、いけるか!?」
「……いけル。爆裂矢、込メル」
ロビンは震える手で矢を引いた。弦が悲鳴のように唸る。そして。
「撃ッ!!」
放たれた矢は途中で三本に分裂し、本体の花弁を固定するように突き刺さった。
次の瞬間――
ドォン!!!
耳をつんざく爆音とともに、爆裂矢が炸裂。本体の中枢が露出し、うねりながら悶え始める。
「いまだ! アイビー!」
「うんっ!」
アイビーは自分のスキル――強度増幅を両足に集中させ、跳ねるように駆け出した。
「とおおおおっ!!!」
そのまま宙を蹴り、中枢の黒い瞳に――拳を叩き込んだ!
「──!」
音もなく、黒い目玉がひび割れ、ナイトメアヴァインの全ての蔓がぐったりと崩れ落ちる。
砂煙が舞い、静寂が戻った。
⸻
「あっつ……なにこれ……」
リクの手元に、蔓の根元から出てきた紫色に光る欠片が転がっていた。
「また、XP?」
アイビーが顔を覗き込む。ロビンが頷く。
「オマエラ、拾エ。……キット、得ルモノ、アル」
リクとアイビーが触れると、またあの機械的な声が脳内に響く。
⸻
取得スキル
• リク:「記憶干渉(メモリー・リンク)」を取得しました
対象に触れることで、その者の記憶の一部を映像として再生することができる。
• アイビー:「自己修復(セルフ・リカバリー)」を取得しました
一定時間ごとに、自動で軽度の傷を回復する能力。
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「記憶……干渉……?」
リクは不安げに欠片を見つめる。
「触った相手の記憶が見れるってこと? そんなこと、俺に必要か……?」
そのとき。ふと、蔓の残骸の中に、何かが埋もれているのが目に入った。
「……ん? これ、なにかの……扉?」
砂を掘り返すと、石の台座と扉らしきものが現れた。そこには、古代文字でこう刻まれていた。
⸻
「アルカディア、深部への道。
選ばれし者のみが、果実に触れる資格を持つ」
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リクたちは顔を見合わせた。
「果実……? なんだ、それ」
ロビンの目が細くなった。
「ソレ……キイテハ、イケナイ。禁忌ノ、話ダ」
空気が変わる。
リクは、手のひらの記憶干渉スキルをそっと握りしめた。
「行こう。先に進まないと、何もわからない」