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俺たちは、口々に盟典へ返事を返した。
 そんな時、運がいいのか、悪いのか。典華が帰ってきた。
 「兄貴!なんで、消え掛かって、」
 典華の顔には絶望の色が浮かんでいる。
 「帰って来たのか」
 盟典は、予想外の事に少し驚いたように目を見開いたが、冷静な声でただ一言そう言った。
 どうやら盟典はもう、自身の死を受け入れてしまったらしい。
 「なんでそんなに冷静なんだよ!」
 盟典とお揃いのナイトグリーンの瞳に涙を浮かべながら典華は盟典に向かって叫ぶ。
 典華の視界に今は俺たちは居ないらしい。
 「…………典華、バイバイ」
 そんな典華の問いに盟典は答えずに、そっと不器用に、手を典華の頭に乗せて、不器用な笑顔を向けていた。
 硝子片が砕けて散り、空気に溶け込んでいくように、盟典は死んでいった。
 この結末は、余りにも悲惨だと思う。盟典にとっても、典華にとっても、勿論、俺たち幽霊にとっても。
 「兄貴っ!!」
 典華は、床に座り込んで泣き叫んでいる。泣く事しかできないのだろう。
 俺は、俺たちは泣かなかった。
 これから典華を支える者として。盟典の死をただ悲しいものにはしたくなかったから。それぞれ思う事は別だった。でも、ただ一つ共通しているのは、“典華の方が辛いはずだ”ということだ。
 あの日、あの時の痛みは決して忘れる事ができない。
 だが、そんな苦しみを俺の目の前で心地良さそうに寝息を立てている典華は、必死に今乗り越えようと足掻いている。
 穏やかな寝息を立てている典華を見つめながら過去の回想への扉を俺は閉じた。
 灰色のカーテンからもう、夕日の赤い光が差し込んでいる。
 ふと、カレンダーに目を移すと、明日の日付に赤ペンで大きく丸が書かれている。
 明日は、愛華の元へ行く日だ。
 俺の推測では、もうそろそろ典華の封印が解けても良いはずだ。
 『盟典の言付けは守らんとな』
 典華の穏やかな寝息だけが響く部屋に俺の独り言が響いた。