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#ローファンタジー
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22-1◆仕組まれた舞台(ステージ)◆
その日の放課後。それぞれの部活が始まる時間。
俺は一年生の校舎が、見える渡り廊下の窓際に立っていた。
ここからなら、一年校舎から体育館へと向かう、全ての人間を観測できる。
俺はただ待っていた。
脚本の主役たちが、舞台に上がるその時を。
やがてチャイムが鳴り、一年生の教室から生徒たちが出てくる。
その中に長峯昌吉の姿を見つけた。
彼は一人、バスケ部の練習着を抱え、体育館へと向かう道を歩き始める。
そしてその数秒後。
俺の予測通り、三好央馬が二人の取り巻きを引き連れて現れた。
彼はまるで、待ち伏せていたかのように、長峯の前に立ちはだかる。
「おい!そこの1年。ちょっとツラ貸せや」
三好は、チンピラのような口調で言い放つ。
しかし長峯は怯えない。
彼はただ不思議そうな顔で、首を傾げた。
そして静かにこう言った。
「すみません。どちら様でしたっけ?」
その瞬間、三好の顔から血の気が引いた。
彼の周りの取り巻きたちも、凍りつく。
三好は震える声で、名乗るしかなかった。
「二年、Elysionの三好だ!」
「三好先輩?俺に何か用ですか」
長峯のその悪意のない無関心。
それが三好のちっぽけなプライドを、ズタズタに引き裂いた。
彼は必死に、話題を探す。
「お前、最近、天宮くんと仲良いらしいな。調子に乗ってんじゃねえぞ」
「尊敬するキャプテンです。それだけです」
「チッ」
彼の威嚇も彼の地位も、この一年生の前では無意味だった。
追い詰められた三好は最も醜いカードを切る。
彼が俺からのメモにより、手に入れたばかりの悪意のナイフ。
<長峯は奨学金野郎>
「しょせん、お前は金で買われた才能だろうが。奨学金野郎が調子乗るなよ!」
三好の下劣な挑発が、静かな放課後の空気に響く。
その一言で、長峯の穏やかだった表情が一変した。
長峯はただ静かに三好を睨みつける。
その瞳には、悔しさと怒りの炎が燃えていた。
「今、なんて言いました?」
「ああ?だから奨学金で」
「それ以上、言うな!」
長峯が怒りに、声を震わせる。
「俺の努力を馬鹿にするな!」
「黙れ!貧乏くさい奨学金野郎が」
三好の言葉に、長峯の顔色が変わっっていく。
三好は、その反応を楽しんでいる。
「ああ?なんだその目は。図星か?」
「あんたに何が分かる」
長峯が低い声で絞り出す。
「俺は、あんたみたいに親の金で、この学校に来てるわけじゃない。毎日必死で!」
「うるせえ!」
三好が長峯の言葉を遮る。
「努力だ?才能だ?そんなもんで天宮さんの隣に立てると思うなよ。あの人の隣は俺の特等席だ。お前みたいな貧乏人が、気安く近づいていい場所じゃねえんだよ!」
「俺は、ただバスケを頑張ってるだけだ。ほっておいてください」
「それがうざいんだよ!カスが!」
感情を抑えきれなくなった三好の拳が、長峯の頬を殴りつけた。
鈍い音が響く。
次期バスケ部エースの体が、その場に崩れ落ちる。
取り巻きたちが、その周りを囲み、さらに暴行を加えようとした。
その全てを、俺は窓ガラスの向こうから、冷たい瞳で観測していた。
22-2◆計算された「正義のヒーロー」◆
(かかったな)
俺のスカウターが、ミッションの完了を告げる。
【イベント発生:三好央馬による長峯昌吉への暴行を確認】
【計画達成率:フェーズ1完了】
俺は静かに、その場を離れようとした。
俺の仕事は終わった。
後はこの事件が、轟木剛造の耳に入るのを待つだけだ。
(いや待て)
俺の足が止まる。
(このままでは、長峯がただでは済まない。三好の暴行が続いたら、大変なことになる)
俺の計画では、彼はあくまで「火種」だ。
ここで、長峰に再起不能なほどの怪我を、負わせるわけにはいかない。
俺は、無我夢中で、三好と長峰の元へ駆け出した。
そして俺は三好のその醜い顔を、真っ直ぐに睨みつけそして言った。
「三好!!!やめろーーーっ!!!」
俺の一言で、俺は三好の動きが止まる。
彼は信じられないという顔で俺を見た。
「ああ?また、お前か!音無?てめえ、なんでここに」
「見ての通りだ。そしてこれ以上はやめておけ。お前のために言っている」
俺のその言葉が、彼の最後のプライドを刺激したらしい。
「俺のためだあ?ふざけんじゃねえぞ、この陰キャが!」
三好は俺が掴んでいた腕を振りほどくと、今度はその拳を俺へと向けた。
「こいつもだ!やれ!」
三好の号令で、富田と田原たちも、俺に襲い掛かる。
俺は殴られる。蹴られる。
だが俺のスカウターは、冷静にダメージを分析していた。
【被ダメージ予測:軽微】
【急所への攻撃:なし】
(そうだ。もっとやれ。お前たちのその愚かな暴力が俺を「悲劇のヒーロー」へと仕立て上げる)
その時だった。
「おい!何やってんだ、お前ら!」
「やばい人だかりが、できてきたぞ!」
渡り廊下の向こうから、一般生徒たちが集まってくるのが見えた。
その視線に気づいた三好の顔色が変わる。
三好を観測するスカウターの表示が【怒り】から【焦燥】へと変わるのを、俺は見逃さなかった。
【音無への社会的評価:急上昇中】
これ以上、騒ぎを大きくするのはまずい。
彼のその小物な保身の感情が、ようやく怒りを上回ったのだ。
「チッ。行くぞ!」
三好は吐き捨てると、取り巻きたちと共に、その場を去っていった。
「音無!長峯!お前ら二人とも覚えてろよ!」
その捨て台詞は、もう誰の耳にも届いていなかった。
俺は埃を払いながら、立ち上がる。
そして床に座り込む長峯へと手を差し伸べた。
「大丈夫か?長峯くん」
「あ。はい。ありがとうございます、音無先輩」
彼は俺の手を取り、おずおずと立ち上がった。
その瞳には、明確な感謝と尊敬の色が宿っていた。
周りの生徒たちが、囁き合っている。
「音無ってやつが、助けたらしいぜ」
「すげえじゃん。あの三好に逆らうなんて」
俺の株が上がっていくのを、俺はただ冷静に観測していた。
これで轟木一派と三好の火種は生まれた。
そして俺は「正義の味方」という最高の隠れ蓑を手に入れた。
俺は心の中で、静かにほくそ笑んだ。
(最高の舞台じゃないか)