翌日。
リヴァイとイリスが地下通路で心を通わせた翌朝。イリスは、いつも通りテキパキと職務をこなしていたが、その表情は心なしか穏やかで、緊張感が消え、内側から満たされたような光を帯びていた。
実験棟の廊下。イリスは、ハンジ分隊長が要求した巨人の解剖レポートを手に、急ぎ足で歩いていた。
突然後ろから、大きな手がイリスの肩を掴んだ。
「イリス〜〜〜!」
ハンジが興奮した顔で、イリスの肩を抱え込むようにして現れた。その顔は、何か面白いおもちゃを見つけた子供のようだ。
「分隊長!驚きました…どうかされましたか?」
イリスは平静を装うが、ハンジの鋭い観察眼が、すでに自分の**「変化」**に気づいていることを察していた。
「どうかしたかじゃないでしょう!聞かせてもらうわよ、イリス!」ハンジは、興奮のあまりイリスの肩を揺さぶった。「ちょっと、ちょっと!あんた、どうしたの!?顔に**『幸せな子猫のオーラ』**が出てるわよ!」
「は、はあ…何のことでしょうか。私はただ、分隊長のご指示通り、解剖レポートを提出しに…」
「レポートは後!いいからこっち!」
ハンジは、イリスの腕を掴み、誰もいない廊下の角まで引きずり込んだ。そして、目を皿のようにしてイリスの顔を覗き込んだ。
「ねぇ、あのチビとの間に、何かあったでしょう?!」ハンジは声を潜めるが、興奮で息が荒い。「昨日の団長室でのあの**『自己犠牲の聖女』のような顔はどこへ行ったのよ?今日のあんた、『彼氏の匂いがする』**わよ!」
イリスの顔が、一気に熱を持つ。
「匂い!?分隊長、何を…!そんなことはありません!」
「嘘をつけ!だって、見てよ、この変化!」ハンジは、指を立てて一つ一つ指摘する。
「まず、目元! いつもは鋭利なナイフみたいだったのに、今日は**『淹れたての紅茶』みたいに穏やか。次に、歩き方! いつもは戦場を歩く兵士だったのに、今日は『春の陽だまりで散歩する子鹿』**よ!そして決定的なのは…」
ハンジは、イリスの持っているレポートに目をやった。
「リヴァイが口を酸っぱくして言っている**『掃除』!あんた、いつも掃除道具の持ち方にまで殺気を込めているのに、今日のあなたの掃除道具からは、『愛し合った後の平和な静けさ』**が漂っているわ!」
ハンジは、あまりにも的確で、かつコミカルな指摘に、我慢できずにニヤニヤと笑い出した。
「それで?子猫ちゃん。とうとうあのチビは、**『人類最強の兵士の規律』の鎖を、『個人的な安堵と愛着』という名の『温かい毛布』**で破ったわけね?」
イリスは、もう隠し通すのは不可能だと悟った。彼女はため息をつき、周囲に誰もいないことを確認してから、小声で答えた。
「…分隊長。その…昨日、リヴァイ兵長と、正直に話をしました。そして、私たちは…お互いの感情を、否定しないことにしました。」
ハンジは、**「来た!」**という表情でイリスにさらに顔を寄せた。
「否定しないって、具体的にどういうこと?ねぇ、もしかして、あのチビが、あの**『お前を大切に思っているから離れろ』という建前を捨てて、『お前が俺の全てだ。俺の腕にいろ』**って言ったの?!どうなの!?」
イリスは、顔を真っ赤にしながらも、ハンジの追求に根負けし、リヴァイの言葉をそのまま引用した。
「彼は…『俺とお前は、一蓮托生だ。お前の**『脆さ』は、俺が守る。そして、俺の『安堵』**は、お前が守れ』と…そして…抱きしめられました。」
ハンジは、それを聞くと、ガッツポーズをした後、突然真面目な顔に戻った。
「そう…よかったわね、イリス。」彼女は、イリスの肩を優しく叩いた。「エルヴィンが言った通りよ。それは**『弱さ』なんかじゃない。あのチビを人間として繋ぎ止める、唯一の鎖。そして、お前たちが『人間として安堵』を得ることで、戦場では『倍の力』**を発揮する。それが、私の計算よ!」
ハンジは、再びニヤニヤとした表情に戻ると、イリスの耳元に顔を近づけた。
「で?あの**『人類最強の兵士』は、『個人的な感情』を晒した後、可愛らしいデレを見せたりしたの?例えば、お前の淹れた紅茶を三口**飲んだとか!チビが紅茶を三口飲むのは、愛のサインよ!」
イリスは、再び顔を赤らめながら、小声で訂正した。
「…あの…三口ではありません…彼は…私に、もう二度と俺から離れるな、と言いました…」
ハンジは、その言葉に耐え切れず、壁に頭を打ち付けて爆笑した。
「**『もう二度と離れるな』**だって!?うわあああ!あのリヴァイが!最高の研究対象よ!エルヴィンにすぐ報告しないと!」
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