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場面が変わり、風鈴高校に戻ったところからになります!
それでは、いってらっしゃ~い(^_^)/
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_風鈴高校 1ー1_
チリン…
昼休み終了の合図のように、窓の外で風鈴が鳴った。
雑談の声でいっぱいの教室に、桜が静かに戻ってきた。誰とも目を合わせず、部屋の隅にある自席に座る。
ちらちらと皆が桜に視線を送る中、ミモザ色の髪をした少年が彼に近づいた。
楡:「ちょっと質問いいっすか!?」
椅子に腰を下ろすタイミングを待ってましたと言わんばかりに、食い気味に声を上げた。教室が一瞬にして凍り付く。
桜:「はあ…。」
微かに漏れた低い声のため息に、クラスの数人が息を呑む。
だが楡井だけは、㊙と書かれた手帳とペンを取り出してうずうずしていた。
桜:「…何が聞きてえの?」
楡井の目が一気に輝く。
楡:「えーっと、まず身長は何センチっすか?」
桜:「…169。」
楡:「169cmっと。体重は?」
桜:「59。」
楡:「なるほど、では血液型は何すか?」
桜:「AB。」
淡々と答える桜だが、そんな声でも楡井はめげない。
楡:「えっと、あとは~。!?それは…。」
楡井の目線が桜の胸元で目が留まった。
それは、学ランの下からちらりと見えるループタイ。黄緑色のガラスの中に、桃色の二種類の桜が描かれたものだった。
楡:「すごく奇麗っすね!どこで買ったんすか?」
質問が変わった瞬間、桜がビシッと固まる。
桜:「これは…。」
桜はループタイを僅かに震えた手でぎゅっと握った。
桜:「兄貴が。…刀輝が、オレの誕生日にくれた。その年に兄貴は、死んだ。」
教室の空気が、一瞬にして色を失った。
桜:「兄貴は『横浜と遥のことが大好きだから』って。タバコ買ってる時になんか見つけたからとかも言ってて。よく分かんねえやって笑ってたんだ。」
彼は少し目を伏せ、静かに言葉を繋いだ。
桜:「似合うかなんて、知らねえ。兄貴がくれたから付けてる、そんだけだ。」
その声は微かに震えていた。
彼の右肩に、人の手の皺が浮かぶ。縫櫻が主人の揺らぎに反応した証。
?:「オレは似合ってると思うよ。」
柔らかな声が、楡井の後ろから聞こえた。
怪しげな眼帯を身に着け、紅いサンゴの珠が特徴の、タッセルピアスを揺らした少年、蘇枋隼飛。
桜の次に噂が絶えない男だ。
蘇:「そのループタイに描かれているの…河津桜と山桜、だね?」
桜を含めるクラス全員が困惑の表情を浮かべていた。
蘇枋はそっと近づき、ループタイを見つめた。
蘇:「河津桜の花言葉は、”思いを託す”。山桜は、”あなたに微笑む“。」
その言葉で、少しだけ教室に色が戻った。
蘇:「これはオレの推測に過ぎないけど、お兄さんは未来を真っ直ぐに生きる君に少しでも笑っていてほしいという『思いを託そう』としてたんじゃないかな?」
桜:「…。」
蘇:「自分があげたループタイをつけて、弟が少しでも美しく輝くのなら、それを見て”微笑む“つもりだったんだと思う。」
蘇枋は目線を桜に移して、ふっと優しく笑った。
蘇:「だってそれが、”山桜“の意味だもの。」
シャラリという清らかな音が、蘇枋の耳元から響いた。
それはまるで、よどんだ空気を浄化するような、優しく透明な音だった。
桜は何も言わなかった。ただ、ループタイを優しく握りしめる。
そして、ほんの僅かに。
誰も気づかないほど小さく、唇の端を上げた。
チリン…と、静かに風鈴が鳴る。
まるで、『誰かさん』が笑っているかのように明るい音だった。
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今回はここまで。
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