「君なんか大っっっっ嫌いだよ
うじうじしてて気持ち悪い」
僕はその場で固まる
そりゃあ、この世の誰よりも寵愛している恋人から別れを越して罵倒を浴びせられれば誰でもそうなる筈だ
「分かりました。」
納得なんて出来る訳無い、無いのに身体が動かない
「じゃあね、二度と僕に姿を見せないで」
何故だろう。愛おしい彼の頬に光るものが見えた気がするのは
当にそうだ
彼の与えてくれた希望も夢も、全て消えたから
君へのこの思いが薄れる前に身を投げて仕舞おうか。
そう思い、近所の橋の柵に向き合う
ふと、夜が明けた時特有の雰囲気が好きだと彼が語っていたのを思い出して足を止める
「そうですね。なんて秀麗なのでしょう」
微風に漆黒に染まっている髪が靡く
柵の上に立ち。後は飛ぶだけ
其れだけなのにこんな時に限って彼との思い出が頸を絞めてくるかの様に溢れてくる
こんな物、全て偽りなのに
もう、飛び降りて仕舞おう。そう指先を先に伸ばす
「待ってくれ!!!!!」
とんでもない力で引き戻されたと思って後ろを見る
どうやら誰かが僕を止めたようだ
「何なんです?」
怪訝に眉を潜めても手を離してはくれない
「、、、、、私はシグマ。
急だが、お前の恋人に会って欲しい」
「は?」
唐突過ぎるその言葉に一瞬僕は思考停止する
何故ならば彼はもう姿を見せないでくれと言い残し僕の前から姿を消したのだから
しかし僕は最後の望みに賭けてシグマさんについて行ってみた
「なん、で、ヒョードル、くんが、」
「私が連れて来た」
コーリャは僕の姿に相当驚いている様で、普段は煩かった口を閉じる
「でてってよ、もう、ぼくなんて、みたくもないでしょ」
カーテン越しに見える姿は以前とは比にならない程窶れていて声にも覇気は無かった
彼から別れを言い出した筈なのに其の言葉の端々からは哀しみを感じるのは、どうしてだろうか。
「、、、、私は買い物へ行くから二人で話してくれ」
そう言ってシグマさんは出て行ってしまった。
「、、、、、、、、、、、、別に僕は貴方を恨んで居ませんよ
だから、ゆっくりで良いから話しで下さい。
貴方に何が起きたか」
コーリャは、俯いた
「こんなすが、た、みせたくなくて、めいわく、かけたくなくて、」
嗚咽混じりに話し続ける彼は泣いているようで話せば話す程聞き取りづらくなる
「みな、いでよ、だいきらい、だいきらいって、おもいたいから、さ、」
其れでも僕は耳を傾けた
「迷惑なんかじゃ無いですよ
最期くらい看取らせて下さい」
「やっぱり、き、らいにな、れ、ない、よ、」
彼の、コーリャの心拍数が一気に減少する
「大好きな儘でいいですから」
僕が彼の手を握ると弱々しく握り返してくれた
「もっと、一緒に居たかった、」
真っ白な病室に心肺停止のブザーが鳴り響いた
「シグマさん。何故僕を呼んだんですか?」
病院の屋上、僕はシグマさんと話していた
「、、、、、、、、、、最近、死期が近付いていたからか。
ゴーゴリがとある人の話をする様になったんだ
其奴は初恋の人らしくてな、大好きで大好きで仕方が無かったが、余命宣告されて想われた儘離れるのが怖かったらしい。」
「今朝、寝惚けてかその人と私を間違えたんだ、
心做しか私と居る時より嬉しそうで、会えてよかったって、
だからどうしても会わせてやりたくて、彼奴に見せて貰ったその人を探していたんだ」
シグマさんは眉を顰めた
「本当にいるかどうか分からない僕の為に身を引いてくれたんですね」
「私が世話をしたり、一緒にいても彼奴は誰かを思い続けた
だから、諦めきれないが、彼奴は私はどうでも良くて
そいつと居た方が幸せだと、思ってな、」
顔を隠すシグマさんは見ず、僕は口を開いた
「そういえば、貴方に伝言があるんです」
ピンと来ない様で呆然とするシグマさんを置いて話し続ける
「シグマ君、僕が君を嫌っていると勘違いしてるみたいだけど
君は責任感が強くて、努力家で、とっても優しいよ。
そんな君が好きだったんだ
だからこそ、僕より一緒に年を取って、笑い合える家庭を築ける人を選らんで欲しい
とのことです。」
「ゴーゴリ、本当に、莫迦だな」
僕らはただ一人を思い、あの花火のように砕け散った。
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