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冬の星々が飾る美しい夜空の下、明るく賑やかなクリスマスがその年の役目を終えると――、白んだ空が夜明けを告げては、朝陽と共に街々を照らした。

そうして、昨晩の余韻を感じさせるような静けさの中――、店仕舞いを終えた法雨みのりは、ざくりさくりと雪の音を奏でると、店の裏口を丁寧に施錠した。

すると、その施錠音に次ぐようにして、新たな雪の音が聞こえたかと思うと、それに続き、穏やかな声が労いを紡いだ。

「――お疲れ様」

法雨は、その声に長い尾をひとつ波打たせ、小ぶりな耳をぴんと立てては振り返ると、次いで、苦笑するようにして微笑んだ。



― Drop.029『 The SUN:U〈Ⅱ〉』―



「――もう。――先に帰って大丈夫って言ったのに……。――まさか、ずっと外で待ってたの?」

法雨は、そう言いながら、今しがた自身に労いを贈ったあずまに歩み寄った。

そんな法雨に、やや幼げな笑みを浮かべた雷は、寒さで赤らんだ法雨の頬を撫でながら言う。

「――街の雪景色が綺麗だったから、せっかくなら君と一緒に歩きたくてね。――それに、酔い醒ましの散歩で身体は大分暖まってるから、ご心配なく」

そんな雷に眉根を寄せた法雨は拗ねたようにすると、半目がちに言う。

「いいえ。それは“ご心配たっぷり”よ。――雪の中をお散歩なんて、“桔流きりゅう君”じゃないんだから……。――それに、せっかくの年末年始なんですもの。――風邪なんてひいてる暇は作らせてあげないわよ?」

雷は、その法雨に楽しげに笑うと、彼の腕にかけられていたマフラーを手に取るなり、その細い首に巻いてやりながら言う。

「ははは。――俺は丈夫に出来てるから大丈夫だよ。風邪をひく暇も必要ないから、安心して。――でも、――そういう君こそ、ちゃんとマフラーをしてから出てこないといけないな。――首を冷やすと良くないよ」

すると法雨は、大人しくマフラーを巻かれはしながらも、不服がちに案じる。

「――丈夫な人こそ、油断して大風邪ひいたりするの。――でも……、まぁいいわ。――貴方がそう言うなら、きっと大丈夫でしょうから。――有難う」

だが、案じはするも、その自信に根負けしたらしい法雨は、雷がマフラーを巻き終えると、笑顔を浮かべて礼を言った。

そんな法雨は、次いで、雷の隣に軽やかに移動すると、その腕を抱いて言った。

「――さ。――それじゃあ、二人で“桔流君のご先祖様”気分を味わいながら帰りましょ。――もうクタクタだわ……」

雷は――、そうして少しだけ寄りかかるようにした法雨に愛おしげに微笑むと、その髪を優しく撫ででは言った。

「今年もお疲れ様。働き者の“店長さん”。――流石の君もお疲れのようだし、早く帰って、ゆっくり休もう」

法雨は、その雷の声と髪を愛でる手の心地よさに浸りながら、

「――えぇ。そうしましょ」

と、応じると、またひとつ、その腕を愛おしげに抱きしめた。

そうして、それからゆったりと歩き出した法雨と雷は、二重奏の雪の音を楽しみながら、温かな住まいへと続く道標を残しては、帰路を辿った――。

💎

「――はぁ……。――“サンタ業”を終えた後のお風呂は、やっぱり格別ね……」

その声に極楽を滲ませ、どしりと重い疲労感を融かす湯の温もりと香りに浸りながら、法雨は言った。

そんな法雨の背をその身で預かるようにしていた雷は、それと共に、自身の大きな手に預けられた繊細な手を労うように撫でては言う。

「本当にお疲れ様。――君のクリスマスは怒涛だね」

法雨は、その雷の手をそっと握り返すようにすると、長い尾を湯の中で上機嫌に揺らし泳がせては言う。

「ふふ。本当にそうね。――空飛ぶサンタに負けず、夜の街のサンタも大忙しだわ。――楽しいけど」

雷は、そんな法雨に笑うと、その細身にやんわりと腕を回しては、しばし抱きしめるようにした。

そして、しっとりと濡れた小ぶりな耳に口元を寄せながら言う。

「――まさに天職だ」

法雨は、それにくすぐったげにすると、雷とじゃれるようにして耳をはたりと弾かせては、摺り寄せるようにして言う。

「ふふ。そうね。――本当、その通り」

そして、言いながら雷の肩に頭を預ける様にした法雨は、自身の手をやんわりと握るその手と指を絡めては、そっと瞳を閉じると、五感を喜ばせているすべての感覚に浸る。

そんな法雨を優しく抱きながら、滑らかな肌を愛でる様にしていた雷は、しばらくすると――、ふと思い立ったようにしては、法雨の濡れ髪の感触を楽しみながら言った。

「――そういえば……。――昨夜は桔流君もお店に居たけど……、常連さんのためだったのかい? ――彼、恋人が出来たばかりだったんだろう?」

すると、そんな雷の言葉に不満げな溜め息をついた法雨は、口を尖らせながら言った。

「――そうなのよ~。まったく……。――初めてのクリスマスくらいはお休みにして、一日中二人でたっぷりイチャついて過ごしなさいって言ったのに、“いや出ます”――なんて言っちゃって、全然聞かなくて……」

雷は、それに――、あの桔流の場合、“その諭し方”では、より一層意固地になるだろうなと思いながら、苦笑して言う。

「ははは。――彼らしいな」

そして、そこでふと、そんな雷からの先の問いを反芻した法雨は、その身に回された雷の腕をやんわりと抱くと、ひとつ零すようにして問うた。

「――……ねぇ。雷さん。――雷さんは……、――“お休み”にしてほしい……?」

すると、その問いの意図を難なく解した雷は、愛おしげに微笑み、法雨をそっと抱きしめる様にすると、ぺたりと濡れたレモン色に口付けて言う。

「いいや。大丈夫だよ。――有難う」

しかし、その雷の言葉を受けた法雨は、安堵とは程遠い様子で身を返すと、雷に向き合う様にしてはその胸元に手を添え、問いを重ねた。

「ねぇ、雷さん。――本当に? ――本当に“大丈夫”なの? ――それは、アタシの事を想って、我慢して言ってくれてるんじゃないの?」

――と、云うのも、雷と想いを通わせてから一年以上と経つにも関わらず、法雨は、雷と喧嘩らしい事をする機会が寸秒たりともなかったのだ。

それゆえ、法雨は――、雷が法雨のために我慢を重ねてくれているのではないかと案じる事が度々と増えていたのであった。

そして、そのような経緯があり、此度も、法雨は雷の本心を探ったわけなのだが――、当の雷は、やはり一滴の我儘すらも零してはくれなかった。

法雨は、その事もあり、酷く不安げに雷を見つめては返答を待つ――が、対する雷は、やはり穏やかに笑むと、その頬を優しく撫でては言う。

「本当さ。――それに、君はいつだって、俺に我慢なんてさせてくれないだろう。――だから、安心して大丈夫だよ」

そして、そう言いながら、法雨とそっと額を合わせると、雷は続ける。

「――俺はね、君が、その時に居たい場所で、その時にしたい事を、思う存分楽しんでいる姿が好きなんだ。――だから、今の在り方が幸せなのなら、それを変える必要はないよ。――それに、現に俺は、特別な日だけじゃなく、毎日、そんな素敵な君の姿をこの目で見ながら過ごせているし、――イヴも、クリスマスも、こうして君と一緒に居られてるんだ。――だから、今のままで、俺は十分満たされてるよ。――有難う」

そんな雷が紡ぎ終えると、法雨は、頬に添えられた彼の手に自身の手を重ねて言う。

「――それなら……いいのだけれど……。――でも、本当に、――こんな我儘に過ごしているのに、変わらずに愛してもらえるなんて……。――幸せすぎて、いつか罰が当たりそうだわ……」

雷は――、そんな法雨が苦笑すると、ふ、と笑み、その綻びに軽く口付けては、触れ合わせたまま紡ぐ。

「罰なんか当たらないさ。――君はこれまで、数えきれないほどの人々に喜びを与えてきたし、――そんな君に救われたと言うほどの人も少なくないだろう。――だから君が、“今”を幸せだと感じているなら、それは、君の過去の行いに対する報酬みたいなものだ。――だから、安心して受け取っていいんだよ。――……と、言っても、――清算分としては、まだ足りていないだろうけどね」

法雨は、そんな雷の言葉にようやっと肩の力を抜くと、そっと口付け返しては、くすぐったそうに笑う。

「――ふふ。――じゃあ、そうだとしたら、――まだ当たってもない罰に怯えてる場合じゃないわね」

雷は、その法雨に、片眉を上げながら悪戯っぽく言う。

「――そうとも。――神様からの報酬なんだから、取り逃そうものなら、それこそ罰が当たるかもしれないよ」

法雨は、それにわざとらしく驚いては言った。

「まぁ、大変。――じゃあ、天に向けて大きな酒樽でも用意しておこうかしら」

そして――、そんな法雨の言葉を機に、ひとつ間を置いた二人は、それからしばし、楽しげに笑い合った。

そうして、すっかりと法雨に笑顔が戻ったところで、雷はそんな彼を優しく抱き寄せると、またひとつ――、柔らかに口付けた。

💎

それから――、しばらくと心地よい湯の温もりに存分に浸った二人は、せっかく温めた身体が冷えてしまう前にと、手早く寝支度をしては、暖めておいた寝室へと向かった。

そうして、法雨と雷は、共にその暖かな寝室へと足を踏み入れた――のだが、法雨はそこで、何故か難儀そうにして言った。

「ううん……。なんだか……、――お風呂に入ったら、少し目が冴えちゃったわね……」

それに穏やかに笑うと、ベッドを軽く整えていた雷は、ひとつ手を止め、未だドアの前に佇む法雨に歩み寄って言う。

「それも今だけだよ。――暗くして目さえ閉じてしまえばすぐに眠れるさ。――身体もかなり疲れてるはずだし、過信せずに寝てしまった方がいいよ」

すると法雨は、そんな雷の言葉にも、悩み鳴いて応じる。

「う~ん……」

雷は、その法雨に何故だか愛らしさを感じ、その頬を撫でては伺う様にして言う。

「おや。――君が駄々をこねるなんて、珍しい事もあるものだね」

そんな雷をしばし見上げるようにした法雨は、ぽつりと零す。

「――“溜まってる”のよ……」

雷は、それに眉と耳を上げては、毛艶の良い尾をやんわり揺らがすと――、ひとつ間を置いてから問うた。

「――“疲れ”が?」

法雨は、そんな雷の“悪戯”に、じゃれるようにして言う。

「――もう。――意地悪ね」

そんな法雨が、言いながら色を含ませた視線を返すと、それを受け止めた雷は、手触りのよいレモン色を弄びながら言う。

「――まぁ、“さっき”はちゃんと休ませてあげられなかったから。――君の身体にも、無理はさせたくないんだよ」

すると、そんな雷にゆっくりと瞬いた法雨は、視線を絡めたまま笑んでは、上目遣いに紡ぐ。

「ふふ。それなら安心して? ――アタシの身体も、“さっき”のだけじゃ癒され足りないって言ってるか、ら。――でも……、そんなコト言って……。――実は、雷さんがお疲れだったりするかしら……? ――いくら我儘なアタシでも、お疲れの雷さんにまで無理をさせたくはないわ。――だから、お疲れなら、そう言って? ――そうしたら、アタシも、アタシの身体も、きっと“良い子”に出来るから……」

そんな法雨に、やや目を細めた雷は、ふと視線のみを中空にやると、

「――ううん……それがね……」

と思案するようにした。

だが、すぐに法雨に視線を戻すと、今度は悪戯っぽく笑み、

「俺も、疲れはまったく――なんだ。――困った事に」

と続けた。

法雨はそれに、ふふと楽しげに笑うと、次いで、するりと雷の腰に腕を回すなり、その身を寄せるようにして言った。

「それは違うわ。雷さん。――それを言うなら、“幸いなコトに”――よ」

そして、腰に回した手で、雷のワイシャツの背をつんと引くと、法雨は甘い声で強請ねだる。

「ねぇ、雷さん。アタシ、あんなに頑張って働いたのに……、どうしてか眠くないのよ……。――だから、これは、そう……。――きっと……、――“もう少し疲れないと”駄目だと思うの……」

その法雨に、また思案するようにして中空を見やった雷は、しばしして“自身への”溜め息をつくと――、彼方から腕の中へと視線を戻すなり、苦笑して言った。

「――まったく……。――“さっき”と云い、今と云い……、――俺も、とことん意志が弱いな……」

法雨は、その雷に幼く笑うと、悪戯っぽく言う。

「ふふ。いいえ。――それも違うわね」

「ん? ――じゃあ……?」

それに雷が首を傾げると、法雨は得意げにして言った。

「――雷さんは、――“アタシに”、弱いのよ」

そんな法雨に、雷は大いに納得がいった様子で頷く。

「ははは。なるほど。なるほど。それは確かに、――その通りだ」

そして、それに法雨が楽しげに笑うと、雷はその頬を優しく愛でては、ひとつ口付けて言う。

「――それじゃあ、――仕方がないね……」

そして、触れたばかりの艶をまたついばむと――、今度はゆったりと食む様にした。

そして、法雨がそれに応じるようにすると、雷はしばしと、その柔らかな感触を愉しんだ。

その後――。

法雨がいよいよと甘く零し始めたのを機に、その柔らかな艶からそっと離れた雷は、次いで、すっかりと赤らんだ彼を軽々と抱き上げると――、眠れないと駄々をするその愛し人を寝かしつけるべく、強請る艶を食み愛でてやりながら、暖かな寝床へと向かった。






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