テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ほんとは、コンテストに出そうと思ったけど、だめ作になったんで、コンテストには出しません!
奇病パロ(月命病)
白×黒
白が多分女
『月が欠けても、君がいてくれたら』
初兎(しょう)は、月を嫌っていた。 満月の光を浴びるたび、命が削られていく気がした。実際、それは“気のせい”ではなかった。
《月命病》——月の満ち欠けと連動して身体機能が低下し、満月の夜に発作と共に命を落とす奇病。 日本でも症例が十指に満たないほどしか存在せず、完治例は一つもない。
「なんで、うちなん……」
彼女が病を知ったのは十四歳の夜だった。修学旅行の夜、京都の宿で倒れた。原因不明の高熱と意識障害。医者は首をかしげながら口をつぐんだ。結局、診断が下ったのは半年後だった。
それから五年。治療らしい治療はなかった。薬も効かない。希望もない。
十九歳になった今、彼女は病院の個室で、静かに余命を数えていた。
「もう、何度目の満月やろ……」
カーテン越しに見える夜空。あの月が、また彼女を削っていく。呼吸が浅くなる。指先が冷える。心臓が、軋むように痛む。
——その夜。
「失礼します。初兎さん、ですね」
ドアをノックして入ってきたのは、若い医師だった。白衣のポケットにペンが数本、胸元には新人研修バッジが光っている。
「俺、今日から配属された悠佑(ゆうすけ)言います。担当にしてもらいました」
「……ふうん。また新しい先生か。どーせすぐ辞めるやろ」
「せやろか。でも、俺はもう決めてる。あんたを助けるって」
「……は?」
「《月命病》、治す方法。俺、見つける」
初兎は笑った。
「なに言うてんの、あんた。ほんまアホやな。そんな夢みたいなこと……」
「夢やあらへん。俺の、信念や」
その目に、嘘はなかった。迷いもなかった。
それから、彼の治療が始まった。
——
実験的治療。 脳内の視交叉上核への刺激。 月齢に合わせた内分泌の周期制御。 電磁波干渉。
どれも前例がなかった。 危険性もあった。 でも、悠佑は言った。
「怖がらんでええ。俺が、全部受け止めるから」
「……ずるいなあ。そんなこと言われたら、うち……信じたくなるやん」
「信じてええよ。命、かけるから」
毎晩、彼は病室に来た。ノートを開き、データを解析し、ういの手を握って話をした。
ういはその時間が、次第に楽しみになっていた。 初めて、月の夜が怖くなかった。
——
春。満月の夜。
最大の発作が訪れた。
「しょうっ! 意識戻して! 脈が落ちてる!」
「……い、たい……さむ……い……」
手が氷のように冷たい。 眼が、虚空を見ていた。
「もう、間に合わんかもしれへん。せやけど——」
悠佑は決断した。
「緊急手術や。自律中枢にデバイスを埋め込む。……俺がやる!」
周囲のスタッフがざわめいた。
「無茶や! そんなの、成功例ない!」
「……せやから、俺が一人目になる」
——そして手術が始まった。
24時間。
脳への微細手術。 神経伝達遮断。 電磁バイオ波制御デバイスの埋め込み。
何度もモニターがアラートを鳴らした。 心拍停止3回。
「戻ってこい……しょう、お願いや……!」
——午前5時。
「……う、……ぅ……」
「しょう……!? 目、開けて……っ!」
「……あんたの、声……でかいわぁ……」
泣き笑いする彼女に、悠佑は号泣した。
「……生きてる、生きてるやんな……!」
「……さむいから、はよ布団かけてや……」
彼女の手は、もう冷たくなかった。
——
半年後。
初兎は回復し、少しずつ日常を取り戻していた。
髪を切った。ショートになった。また、大学に通うようになった。
悠佑は病院に残り、研究を続けていた。
《月命病治療成功》の症例は、今や全国の医療雑誌で取り上げられ、彼の名前は一気に知られるようになった。
「しょう、今夜……月、見に行かへん?」
「ええよ。今度は、悠くんと一緒なら……きっと、綺麗に見える思う」
夜の公園。風がやさしく吹く。二人は並んで歩いた。
見上げた夜空に、まんまるの月が、穏やかに光っていた。
「なあ、しょう。来年も、再来年も……その先もずっと、一緒に月を見ようや」
「……しゃあないなあ。悠くんが隣におるなら、月も悪くないわ」
二人に沈黙が流れた。
そして、、、
「…悠くん、ありがとな」
「……俺の方こそ。しょうが、生きてくれて、ほんまに……」
「なあ。これからも、ずっと隣におってくれる?」
「うん。絶対、どこにもいかん」
空にはまんまるの月。 けれど、もはやそれは、命を奪うものではなかった。 二人を照らす、希望の光になっていた。
コメント
4件
やばああああいすきいいいいいい!!!!!! え、ガチですき。やばい。しぬ…((