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シンデレラボーイ

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シンデレラボーイ

1 - シンデレラボーイ

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2025年10月12日

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いつからだろう、分かっているのに気付かないふりをする様になったのは。いつからだろう、りうらから付き合う前なんか吸いもしなかったタバコと一緒に甘い香りがする様になったのは。


…いつからだろう、りうらの隣にいる事が苦しくなったのは。


一緒に買い物に行った時の事だった。

色んな店を回る中とある雑貸屋で綺麗なピンクと赤色が組み合わさったブレスレットを見つけた。俺は自分とりうらの眼の色をしたそのブレスレットに惹かれ、それが大層気に入ってしまった。


「ねえ、りうら。これどうかな?」


「んー、いいんじゃない?この前一緒に買った赤い服とか合いそう」


嬉しそうに顔を見上げる俺と反対にりうらは興味なさ気にスマホを弄りながらそう呟いた。


「…そっか!」


俺はわざとらしい程明るく笑いながら返事をし、手早く会計を済ませると別の店行こ!と言うとりうらの手を引き道へと歩き出した。

馬鹿だなぁ、りうら。


俺さ、りうらと買った赤い服なんて持ってないよ。



午後10時半。今日もりうらはまだ帰ってこない。すっかり冷めてしまった夕飯をぼんやりと見つめ俺の中で静かに怒りが蓄積するのが分かる。

其処から暫くしてりうらが帰ってきた頃には時計が0時を回っていた。

俺は夜遅くに帰ってきたりうらを問い詰める。


「…何でこんな時間に帰ってきたんだよ」


「仕事だよ。ないくんこそまだ起きてたんだ」


りうらは問い詰める俺に心底めんどくさそうにそう答えると持っていた荷物を床に下ろす。俺の気持ちなんか何一つ考えもしない様子のりうらにただでさえ怒っていた頭が爆発しそうになる。


「ふざけんなっ!俺がどんな気持ちで!?」


「もう良いじゃん。それより起きてるならヤろうよ」


怒る俺を落ち着ける様にベッドに押し倒し服を脱がせるりうらに唇を噛み締める。

酷い、最低。何で俺の気持ち分かってくれないんだよ。怒ってる俺が全部悪い訳?付き合う前なんか絶対吸わなかったタバコを吸う癖に。お前が俺に好きって言った癖に。


俺はお前の玩具でも性処理でも何でも無いちゃんとした恋人なのに。


心の中で悪態を吐き、今にも泣き出しそうに顔を歪める俺の唇にりうらは優しくキスをおとす。


「好きだよ、ないくん」


付き合った当初と同じ様に優しくキスをして甘い言葉を囁くりうらが心底嫌いだ。大嫌いだ。

好きなんて言うくらいなら、そもそも気付かないふりをして腕の中で俺を泣かせんなよ。頬に涙が伝いシーツを濡らす。

りうらが最低な奴だってそんな事頭の中では分かりきってる、筈なのに。

でも、それでも俺はりうらの事がどうしようもなく好きだから甘い言葉にもキスにも抗う事が出来なかった。





***********************





濡れたままのバスタオルを浴室にかけた8時。

脱いだ服が散らかった部屋には俺1人だけが残されていた。


「…あぁ、またカラダ許しちゃったな」


朝、俺は痛む頭を抑えため息をつく。

結局、俺が聞きたい事は聞けないまま。日々香るあの甘い香水について何も分からないまま。りうらの甘い言葉に流され体を許してしまう俺に自分ながら心底腹が立つ。机に置いていたスマホを見ると一件の通知が来ていた。りうらからだ。


『俺仕事で呼び出されたから先行くね』


そう書いたメッセージと共にりうらが好きなひよこのスタンプが添付されているLINE画面が視界に映る。

俺は『分かった。仕事頑張って』と返事を書いた後送信ボタンを押した。

今日は気分転換に買い物にでも行こう、俺はそう思い付くと重い体を起こし、出かける準備を始めた。



大丈夫俺たちは大丈夫。


「流石に買いすぎたかな。…でも全部欲しかったものだし」


俺は服や雑誌様々な物が入った紙袋を両手に抱えながら長い交差点を歩く。こんなにゆっくり買い物をしたの久しぶりだな。最近、ライブの練習とかで色々忙しかったし。

また、空いてる日にいむ達と遊びたいな。思い付いたが先。

スマホを片手にLINEを開くといむに『今度の休み一緒に遊ばない?』

とメッセージを送信した。

すると、いむも丁度スマホを見ていたのかすぐに既読が付き返信が来た。


『うん!!遊ぼ遊ぼ!僕初兎ちゃん達も誘うね!!』


文面から嬉しいと伝わってくる程元気な返信に思わず笑いが漏れる。

久しぶりに笑ったな。最近りうらの事で悩み過ぎて笑えてなかったからな、。少し元気出た。

今日はりうらの誕プレも買えたし、気に入ってもらえるといいな。話もまたゆっくりしたいし。

張り切って顔を上げると不意に横目にりうらの姿が見えた。


「りうら…?仕事じゃ、」


俺が戸惑っていると元気な声を上げりうらに近づく女性が居た。その女性の姿を見てりうらは顔をほこらばせた。

その女性は長い黒髪がとても綺麗ででも顔立ちは可愛らしくて。

それでいて…俺はそれを見て片手に持っていたスマホを手落とした。



“赤い”ワンピースを着ていた。





***********************




夜、月が真っ暗な部屋を灯す。

ドアが開く音がし、部屋にりうらが足を踏み入れる。


「ないくん?」


俺は自身の名前を呼んだりうらを床に押し倒し首元に手をかける。

勢い良く押し倒されて痛いのかりうらの穏やかな表情が苦し気に少し歪む。


「りうら、俺の事好き?」


震える声で名前を呼ぶ俺の瞳からは大粒の涙が溢れ、りうらの頬をゆっくりと濡らしていく。りうらは泣いている俺をいつもと変わらぬ穏やかな表情で見つめた。


「…ちゃんと好きだよ」


嘘つき。じゃあ、何で俺の前だけで弱さを見せてくれないんだよ。

何で付き合った当初と同じ様に無邪気な顔で俺の事呼んでくれないんだよ。

じゃあ、何であの日呟いたのと同じ赤いワンピースを来た女の人と歩いてたんだよ。

嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき。俺の事なんて何とも思ってない癖に。

俺にりうらの瞳を独占させて。俺以外見ないで。


ずっと、俺だけを好きでいてよ。


一粒の涙が伝うと共に俺は手に力を込めると静かな声で呟いた。


「死んで」


俺の言葉が部屋に響きわたると同時に時計の針が0時を回った。




「はっ…、」


目を開けると1番に目に入ったのは真っ白な天井だった。

上がる呼吸を整え俺は隣で眠るりうらの背中を見つめる。

横目に時計が0時を回ると見慣れたはずのその背中が何だかとても知らない人に見えて気持ち悪かった。

俺は気持ち悪さに耐えられず最低限必要な持ち物だけを手に持ち真夜中に家を飛び出す。


走っている最中、りうらと買ったブレスレットが何だか凄く重く感じて。

そう感じると俺は途端に耐えきれなくなり歩道橋の途中で座り、涙を流す。



「俺じゃないなら好きって言わないでよ」



もっと もっと 遠くに行かないと




りうらが好きだという魔法がとけてしまう前に

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