皆さんこんにちは!葉月です!!
多分ほとんどの人がびっくりしてると思いますが、今回は葉月史上初!”ノベル”にチャレンジしてみようと思います!!
ちなみに、何で書こうと思ったのかですが・・・。
1回でいいから書いてみたかったので、良ければこの気まぐれストーリーにお付き合い下さいww
⚠︎︎ATTENTION⚠︎︎
この作品は夢小説となっています。地雷さんアンチさんは今すぐお帰り下さい。
今回が初ノベルなので下手くそだと思いますが、暖かい目で見守っていただけたら幸いです。
それでは、本編スタートです!!
これは、とある街の物語__。
モブ子「ねぇ、聴いた?あの噂!!✨」
モブ美「もちろん!怪盗レッドドッグでしょ!?✨」
モブ子「えぇ!また現れたそうよ!!✨」
モブ美「私も1度で良いから見てみたいわ・・・。」
モブ子「噂によると”美少年”らしいけど、実際どうなのかしらね?✨」
モブ美「え?私が聞いたのは”美声の少女”っていう噂なんだけど・・・。」
モブ子「えぇ!?どっちが本当なのかしら・・・?」
モブ美「さぁ・・・?」
「怪盗レッドドッグ・・・ね。」
視察中に聞こえてきた単語に思わず溜息が出る。
レッドドッグは、夜闇に紛れて姿を現し、悪い貴族や公爵から金品を盗んで貧しい人々に分け与える正義の怪盗。いわゆる”義賊”というやつらしい。
しかも、その貴族達の悪事は国にバラされ、公爵様や王家の方々によって公平に裁かれている。悪党を捕まえている”ヒーロー”と言っても差し支えはないのだ。
その影響なのか、最近毎日のように”彼”の話題が街中で飛び交っている。
「まぁ、大丈夫だと思うけど・・・。」
悪い貴族達の部下の手を焼かし、絶対に捕まらない怪盗とまで呼ばれているのだ。おまけに国を助けているので王家の方々も捕まえる気は無い。そう簡単には捕まらないだろう。
少なくとも、私の知っている”彼”はそんなヘマはしないはずだ。
モブ美「あ、葉月様!✨」
「っ・・・!?ご、ご機嫌よう。」
焦った・・・。雰囲気的に今の独り言は聴かれてないらしい。
モブ子「また視察ですか?伯爵令嬢って大変なんですね・・・。」
伯爵令嬢というのは私の地位。この領地を治めている七海伯爵の娘が私なのだ。
「えぇ・・・。少しでも早く、お父様の役に立ちたいので。」
相変わらず、思ってもいない言葉を並べる事だけは得意らしい。致し方ないことなのだが、やはり虚しくなってしまう。
モブ子「流石、葉月様ですね!伯爵様も葉月様のような娘がいて幸せですよ!!✨」
「本当にそうだったら、どれだけ幸せだったでしょうね・・・。」
モブ美「えっ?違うんですか?」
「・・・いえ、こちらの話です。」
少し本音を言いかけて、慌てて撤回する。お父様の評判を下げれば、私は生きられない・・・。今の私は
規則的な馬の蹄の音が聴こえてくる。数秒も経たない内に、落ち着いた色合いのよく見なれた馬車が目の前に止まった。
執事「葉月様。残念ですが、そろそろお時間です。」
馬車が止まってすぐ執事が降りてきた。やはり時間らしい。あまり気はのらないが、帰らなければきっとまた・・・。
「えぇ、分かりました。」
そう考えて素直に了承する。
「それでは、私は失礼します。」
モブ子「はい!お仕事頑張って下さいね!!」
モブ美「私達も応援しています!」
「ありがとうございます・・・。」
心優しい住民達に見送られて、馬車に乗る。少ししてから馬車が心地よいリズムで動き出した。
in七海伯爵家
「お父様、ただいま帰りました。」
父「そうか。」
この人が私のお父様である七海伯爵。人当たりも良く、住民からの評判はとても良いのだが・・・。
「で、では、今回の視察の報告を・・・。」
父「必要ない。部屋に戻れ。」
「で、ですが・・・。」
父「うるさい!💢父親の言う事を聞けないのか!?💢このクソ娘が!!💢💢」
「っ・・・。」
父「これ以上私の手を煩わせるな!💢今は仕事なんて考えたくない!💢分かったなら部屋にいろ!💢」
「・・・分かりました。」
もう、分かっただろうか。
そう。お父様は、”住民からの信頼を得るために善人を演じているクズ男”こっちがお父様の本性だ。お父様は、とんでもない暴君。しかし、自身の利益を得るために善人を演じて領地での政治を行い、そこで溜まった仕事のストレスを私に暴力という形でぶつけて発散している。
「失礼しました・・・。」
赤くなった頬を押さえ、涙を堪えながらお父様の部屋を出る。
「何で・・・、何で伯爵令嬢なんかに・・・。」
ここ数年・・・いや、少なくとも5年はこんな感じだ。長ければ10年くらいは続いているだろうか?
何よりもタチが悪いのは、この暴行は使用人達に見えない場所で行われており、尚且つ目撃者にはお父様が大金を払って外部に出さないように取引している。
それに応じない場合は容赦なく抹消されているため、私の味方はほとんどいないのだ。
母「あら、葉月。」
「お母様・・・。ご機嫌よう。本日は、どこかへ行かれるのですか?」
母「えぇ、そうなの♪今日はモブ太伯爵と出掛けて来るわ♬」
「っ・・・。そうですか、楽しんで下さいね。」
母「勿論よ♫最近いい感じだし、このまま行けばもっと貢がせられそうなの・・・!✨」
「・・・そうなんですね(苦笑)」
母「それじゃあ、いつも通りあの方には黙っておいてちょうだいね?」
「・・・かしこまりました。いってらっしゃいませ、お母様。」
母「えぇ♫」
軽い足取りで出ていった彼女が私のお母様だ。会話でわかる通り、お母様は”不倫している”のだ。しかも、1人や2人じゃない。”推定10人はいる”伯爵は勿論、王家や公爵家の方にまで言いよっているらしい。まぁ、結局はお金が目当てだそうだが。
「いつまで巻き込まれなきゃいけないんでしょうか・・・。」
私は1度現場を目撃して以来、お母様から黙っているように強く言われている。もし言えば、私を死刑囚として殺すつもりだとか。生憎、顔だけが良いお母様に惚れ込んだ男共の中には、王家の方や公爵家の方もいるので、私を死刑囚に仕立て上げるくらい容易いのだろう。
「ホントにクズしかいないのね・・・w」
金のために善人ぶってストレスで娘に八つ当たりするお父様、金のために多くの男共を誑かして弄ぶ顔だけは綺麗なお母様、そして権力と金で真実をねじ伏せられる操り人形のような多くの使用人達…。分かりきっていた事なのだが、改めて考えると酷い惨状だ。
「やっぱり、あの子だけは守らなきゃ・・・。」
そう思い、自室と真逆の方へ向かう。
コンコンッ
目の前に現れた扉を軽くノックする。
??「どなたですか・・・?」
「私よ。入ってもいい?」
??「お姉様!✨うん!入って!!」
部屋主の了承があった事に安堵し、扉を開ける。
「ご機嫌よう、凛華。」
凛華「ご機嫌よう、お姉様!」
私とは対照的な明るい声の正体は、7つ下の妹である凛華。今年で11歳だ。性格と社交性は何も問題ないのだが、礼儀作法が全く覚えられず私のお付の執事とメイドから教わっているのだ。
「今日はどうだった?」
凛華「お姉様とリヌヌさんが視察に行った後も、メアリーさんが教えて下さったおかげでテーブルマナーを覚えられたの!!」
メアリー「えぇ。凛華様、とても頑張っていましたよ。」
「本当?良かった・・・。メアリーもリヌヌも本当にありがとう・・・。」
メアリーは私の専属メイドで、リヌヌは私の専属執事だ。この屋敷で唯一私の味方でいてくれる。先程の視察の際、迎えの馬車から降りてきていた執事もリヌヌだ。
メアリー「とんでもないです!💦あんなの、周りがおかしいのですから!何があっても、私はお2人の味方ですよ!!」
リヌヌ「僕も同意見です。何があっても、僕は葉月様を支えます。」
メアリー「ちょっと、リヌヌ!?💢いい加減、自分の事を”私”と呼びなさい!💢💢葉月様と凛華様に失礼でしょ!?💢」
「そんなにカリカリしなくても、別に気にしていませんよ?w」
リヌヌ「ほらな?w」
メアリー「そういう問題じゃないわよ!!💢」
見て分かる通り犬猿の仲だが、いざという時は頼りになる本当に頼もしい2人なのだ。しかし、メアリーは私の前でのリヌヌの一人称が気に入らないらしい。私は気にしないと言ったのだが、『無礼ですので!』と言われてしまい”無理やり俺から僕に矯正されたのだ”一体、いつ行われたのだろう・・・?
「それでは、私はそろそろ戻りますね。」
凛華「お姉様、もう行っちゃうの・・・?」
凛華が名残惜しそうに呟く。
「長居がバレたら、凛華が危ないからね。」
メアリー「じゃあ、指導役交代ですね。」
リヌヌ「いや、僕は葉月様の手当てをしないといけなくて・・・。」
メアリー「えっ・・・。あ、ホントじゃないですか!?💦頬が腫れてしまってますよ!?💦💦」
凛華「お姉様、ホントに大丈夫なの・・・?」
どうやら、リヌヌは気づいていたみたいだ。頬の赤みが引いてきたので、大丈夫だと高を括っていたが・・・リヌヌの目を誤魔化すには詰めが甘かったらしい。
「隠していましたが、バレてしまいましたね・・・。」
リヌヌ「当たり前です。ほら、手当てしに参りましょう。」
そうリヌヌに促され、素直に凛華の部屋から出る事にした。
「それでは失礼します。凛華、頑張ってね。」
凛華「うん!」
メアリー「凛華様、もう一度頑張りましょうね。」
凛華「はい!メアリーさん、もう一度よろしくお願いします!」
メアリー「ふふっ、お任せ下さい。」
やる気充分な凛華の返事とメアリーの優しい返事を聴いて安心し、私とリヌヌは凛華の部屋を後にした。
リヌヌ「それにしても、随分と腫れていますね・・・。」
自室へ向かう途中、リヌヌが独り言のように呟く。
「そんな暗い顔しないで下さい。これくらい大丈夫です。大した事ありませんよ。」
これくらいもう慣れたものなのに、今更何を言っているのだろう・・・。
「それに、私は凛華に危害が及ばなければいいのですから、これで構いません。」
これは紛れもない私の本心だ。凛華にだけは、お父様からもお母様からも愛情を貰えなかった私と同じ道を歩ませたくない。そのために、私は生きている。
リヌヌ「・・・葉月様は、もう少し自分の事を大切にして下さい。」
「分かってますよw」
リヌヌに何度言われたかも分からない言葉に空返事をしながら、2人で自室へと歩を早めて行くのだった。
in葉月の部屋
リヌヌ「それでは、失礼します。」
部屋に着くや否や、リヌヌによる手当てが始まった。相変わらず手馴れており、素早く触診を済ませ、アイシングを始める。
「本当に手馴れていますね・・・。」
よくされているからこそなのだろうが、本当にリヌヌの手当ては丁寧で素早い。1度自分でやったが、その時はこんなに上手くいかなかったので羨ましい限りだ。
リヌヌ「別に大した事ありませんよw」
氷を頬に当ててくれるリヌヌが応える。
「ありがとうリヌヌ。後は1人で大丈夫だから、仕事に戻って。」
いくら私の専属執事といっても、リヌヌは優秀なのでとんでもないくらい仕事が多い。普段から私に付きっきりなので、私がアイシングで動けない今の内に仕事を終わらせた方がリヌヌにとって楽だと考えたのだ。
リヌヌ「心配しなくても、もう仕事は終わらせてありますよw」
かなりの量があったのに、視察に行く前と凛華の部屋で合流するまでの間に全て終わらせたらしい。リヌヌはどこまで優秀なのだろうか・・・?
リヌヌ「・・・葉月様、1つだけお聴きしてもよろしいですか?」
手当てを終えたリヌヌが、真剣な表情でこちらを見つめてくる。
「どうしたの?」
リヌヌ「葉月様は・・・、どうして凛華様を守ろうとするのですか?」
「・・・何度も言ったでしょう?凛華にだけは、私と同じ運命を歩んで欲しくないのです。」
あの子はもっと愛されるべきだ。そもそも、礼儀作法が覚えられなかったのは、”凛華があまりにも物覚えが悪く使用人達が指導を諦めてしまったから”である。
「あの子には・・・、もっと幸せな運命を歩んでほしいんです。私みたいな、大人に振り回される人間にはなってほしくないの。」
私の人生は幼い時からこうだった。大人の指示に従わなければ命が危うい・・・。そんな世界で生きてきたのだ。凛華には、私と同じ状況になってほしくない。凛華には、あの純新無垢な笑顔が相応しいのだ。
「私は・・・。
リヌヌ「そうでしたね・・・。申し訳ありませんでした。無礼な事を聴いてしまって・・・。」
その言葉で、私は我に返る。
「そんな事言わないでください。私も熱くなりすぎましたし、お相子ですよw」
項垂れるリヌヌに、私は軽い調子で返す。
モブメイド「リヌヌ先輩、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」(扉越し)
リヌヌ「あぁ、すぐ行く。」
どうやら、後輩に呼ばれたようだ。後輩にも慕われるなんて、本当にハイスペックだ。
リヌヌ「申し訳ありません、葉月様。呼ばれたので席を外しますね。」
「大丈夫ですよwお仕事頑張って下さい。」
リヌヌ「ありがとうございます。それでは、失礼いたします。」
そう言って、リヌヌは部屋を後にした。
「さて・・・と。」
リヌヌが出てから、私は部屋の柱時計に目を向ける。
「19時30分・・・か。」
この後は勉強して、夕食を食べて、お風呂を済ませて眠るだけが普通なのだが・・・。
「今晩は来てくれるかしら・・・。」
そう言って、”彼”の顔を頭に浮かべる。
「まぁ、来てくれるかどうかは今晩まで分からないわよね・・・。」
“彼”は本当に不思議だ。毎晩は現れないが、かなりの確率で真夜中に会いに来る。そして、沢山の話を教えてくれたり、時にはプレゼントまでくれる。そんな”彼”に会うのが最近の密かな楽しみだったりする。
メアリー「葉月様、夕食の準備が整いました。」
「分かりました。今すぐ向かいます。」
夕食の呼び出しに思わず胸が踊る。夕食の席でお父様達と顔を合わせるのは嫌だが、終われば彼に会えるかもしれないのだ。楽しみで仕方ない。食堂へ向かう私の足取りはとても軽かった。
in葉月の部屋(真夜中)
「まだかしら・・・♫」
窓からは月光が差し込んでいて、真夜中でも仄かに明るい。柱時計の針は間もなく0時を指すところだ。
カツカツッ
静かな部屋に、私が待ちわびた音が響いた。返事を返す事も忘れ、思わず窓を開ける。
??「やっほ〜、葉月様。」
「その呼び方、やめてって言ったじゃんw」
??「念の為だよw誰か居るかもしれないでしょ?w」
「心配しなくても、来ないように言ってあるよw」
??「随分と入念に用意してるんだね?」
「あなたが見つかったら大変だもんw」
レッドドッグ「”葉月”の方こそ、その呼び方やめてくれない?w」
「ごめんごめんwでも、”莉犬君”も呼んできたしお互い様でしょ?w」
待ちわびていた”彼”というは街を騒がせているレッドドッグ本人。そして、彼の正体は私の幼馴染である莉犬君。正直、レッドドッグとして初めて会った時はすごく驚いたのを覚えている。
「ねぇ、今日は何の話を聞かせてくれるの?」
莉犬「う〜ん、あれにしよっかな!」
「どれどれ?✨」
実の所、莉犬君が怪盗をやっている理由は知らない。莉犬君の事情があると思っているので、今は聞くつもりもない。だけど・・・。
「いつか教えてもらえたらいいな。」(小声)
莉犬「ん?葉月、何か言った?」
「ううん。何でもないw」
莉犬「そう?なら、続き話すね?」
「うん!」
莉犬君の前でなら気を抜いても怒られない。だから、昼間とは全然口調が違うのだ。彼の前だからこそなんだろう。今日も2人で夜風に吹かれながら沢山の話を聞かせてもらう。この時間こそが、私にとってのささやかな楽しみなのだ。
side 莉犬
「それじゃあ、俺はそろそろ帰るね?」
東の空が明るくなり始めた頃、俺はずっと話していた君にそう伝える。
葉月「もう帰っちゃうの・・・?」
とても寂しそうに返してくる彼女の名は葉月。俺の幼馴染だ。ホントに、”寂しがり屋な所は姉妹で似た”んだから・・・w
「もうすぐ夜が明けちゃうから、流石に帰らないとバレちゃうよw」
葉月「そっか・・・、分かった。」
すごく名残惜しそうだったが、了承してくれた。物分かりが良くて助かった。
「じゃあ、またね。」
俺自身の寂しさを心の内に隠して、そう伝える。
葉月「うん!待ってるね!!」
彼女も美しい笑顔でそう返してくれた。その笑顔に幸福感を抱きながら、怪盗道具の1つであるグライダーで飛び立った。
1度屋敷から離れてUターンした後、同じ屋敷の自室へと辿り着く。開けっ放しにしておいた窓から室内へと滑り込んだ。常に持ち歩いている懐中時計が指していた時間は・・・午前4時すぎ。
「急がないとヤバいかも・・・。」
怪盗用の衣装を脱ぎ、着慣れた服を取り出す。素早くその服に身を包んだ後、鏡台と向き合った。
「前髪を下ろして・・・。うん、大丈夫そう。」
ケモ耳としっぽを無理やりしまい込み、大慌てで最後の身支度を済ませる。
コンコンッ
メアリー「入るわよ〜。」
「あ、あぁ。入ってくれ。」
思ったとおりの時間に同僚のメアリーがやって来た。これは分かってたから、”事前に役が作れる”。それでも、少し焦ったのはここだけの話だが。
メアリー「ねぇ、準備出来てるの?そろそろ使用人全員での朝礼よ?」
「わぁってるよ。」
そう、俺はこの屋敷の使用人”リヌヌ”でもある。訳あってこの屋敷に潜入中なのだが、葉月は気づいてないらしい。あんなに顔を見てるのによく気付かないなと呆れを通り越して感心してしまう。まぁ、こっちからすればその方がありがたいけどw
「ん、終わった。行こうぜ。」
メアリー「そうね。行きましょ。」
メアリーと朝礼を行う集会所へ急ぐ。今日もまた、”使用人リヌヌ”としての普通の1日が始まる・・・はずだった。
in葉月の部屋
メアリー「こ、婚約ぅ!?」
真横にいたメアリーが、突然大声で叫ぶ。集会が終わり、俺とメアリーはいつも通り葉月を起こしに来た。まぁ、いつも自分で起きているから意味は無いのだが・・・。そんな事がどうでも良くなるくらいにはインパクトのある話が飛んできた。
葉月「はい・・・。お父様が受けてしまったので。」
数時間前まで話していた人物とは打って変わった葉月が丁寧な口調で答える。本当、どうやったらそんな簡単に切り替えれるんだろう・・・。
だが、今はそんな事は全く関係ない。もっと聴きたい事がある。
「・・・お相手は誰なんですか?」
葉月を渡したくないのが本音だが、良い人だったらまだ検討してもいい。・・・そんな淡い期待を抱きながら質問した俺が馬鹿だった。
「・・・氷川公爵家のご長男です。」
氷川公爵家・・・。どこかで聴いたことあるような・・・。
メアリー「氷川公爵家のご長男って、”氷川雪”様ですよね!?」
“氷川雪”。その単語を聴いて全てを思い出し、真っ青になった。氷川公爵家は確か・・・。
俺が全てを世に晒し、前公爵は処刑されたから間違いない。氷川雪はその後継者である。彼は・・・。
何より、氷川雪は頭が良い。中々ボロを出さず、思うように証拠が掴めないのだ。何とか少しは掴んだが、今の証拠だと訴えるには弱い。だからこそ、必死に証拠を集めているのだが・・・。
メアリー「ねぇ、リヌヌ?氷川公爵家のご長男の名前って、氷川雪様であってるわよね?」
「あ、あぁ・・・。」
メアリー「雪様といえば容姿端麗で文武両道!そんな素晴らしい方と婚約だなんて、あのクズ伯爵にしては良い相手を選びましたね♬✨」
さり気なく七海伯爵の悪口が聴こえた様な気がしたが、何言ってようが事実だし言わなくていいだろう。
ついでに言うと、全くいい嫁ぎ先ではないのだが・・・。指摘でレッドドッグとバレたりしたら元も子もないので、大人しくしておく事にした。
少し話は逸れたが、とにかくあの家は危ない。そんな危ない家に葉月を嫁がせるなんて、あのクソ伯爵は何を考えているんだ・・・?
「・・・俺、仕事あるので行きますね。メアリー、葉月様の事よろしくな。」
メアリー「え?えぇ。・・・というか、せめて葉月様に対しては僕って言いなさいよ!!💢」
メアリーが何か言った気もしたが、そんな事に意識を向ける余裕は無い。大急ぎで葉月の部屋を飛び出し、気を紛らわすために仕事に向かう事にした。
「あんな奴に葉月を渡さなきゃいけないの・・・。あのクズ男にだけは渡したくないんだけど・・・。」
仕事中なのに、真っ黒な本音が溢れて止まらない。あんなクソみたいな奴に、葉月を渡すわけないでしょ。だけど、訴えて婚約破棄出来る程の証拠は無い。
「絶体絶命じゃん・・・。」
あのクズ公爵の元に葉月を嫁がせるしかないのだろうか?そんな事、死んでも許せない。一体どうすれば・・・。
七海伯爵「──────えぇ、そうですねw」
「っ!」
部屋の中から微かに声が聞こえる。恐らく、声の主は七海伯爵だろう。誰かと話しているようだ。
「今日は来客の予定は無かったはず・・・。」
となると、電話だろうか?一体誰と話しているのだろう?
「少しだけなら・・・。」
そう思い、録音しながら会話を盗み聞きする事にした。もしかしたら、何か分かるかもしれない。
七海伯爵「そういえば、婚約の件伝えさせていただきました。」
雪公爵「伝達が早くて助かる。これで、新しい実験が始められるよ。素晴らしい実験体を提供してくれてありがとう。」
七海伯爵「とんでもない!寧ろあんな役立たずの娘を1億円で買い取ってもらえるなんて、ありがたい話です!!」
雪公爵「あんなに素晴らしい実験体を手に入れるにしては、安いもんだw」
七海伯爵「明後日に引き取りでしたよね?」
雪公爵「あぁ。それまでは管理よろしくな。」
七海伯爵「は、お任せを。雪公爵の実験の成功をお祈りしています。」
雪公爵「勿論だ。まぁ、成功しようがしまいが娘さんは亡くなりますがねw」
七海伯爵「な〜に、彼奴なんて役立たずのゴミ娘。亡くなったってなんとも思いませんよw」
「嘘・・・でしょ?」
確かに情報は得られた。いや、求めてた以上の情報まで聴けてしまった。普通の状況ならとても喜ばしい事なのだが・・・。
「嫁がせたら葉月が死ぬ・・・?」
そんな真実、受け入れたくない。あのクズ伯爵は金のために自分の娘を売ったのだ。それも、危険な人体実験を行う家系に・・・。
「やっぱり、あんなの婚約じゃない・・・!婚約って名前の人身売買じゃん・・・!!」
だけど、いつまでもここで熱くなっている場合じゃない。俺に出来ることは目の前にあるのだ。手元にあった録音機を確認すると録音データも撮れている事が判明した。
「さてと、」
「伯爵様、失礼します。」
七海伯爵「おぉ、リヌヌか。どうした?」
「こんな物が届いていましたが・・・。送り主の心当たりはありませんか?どこかで見た事ある気がするんですけど・・・。」
そう言って、自分で書いたカードを渡す。当然だが、カードを見た伯爵の顔は真っ青に青ざめていた。
七海伯爵「リヌヌよ、これは怪盗レッドドッグからの予告状では無いのか・・・?」
すっかり怯えきった伯爵がそう答える。その言葉が出てくるなら、隠す意味無いよね。
「なるほど。確かにそうですね・・・だから、最後の送り主のイニシャルがR(レッド)D(ドッグ)となっていると・・・。」
俺が予告状に書いたのはこんな感じだ。
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まぁ、ほとんど普段使ってる文章なんだけどねw
「とは言っても、どうしましょう・・・。”1番価値のあるもの”と言われても、これでは何か分かりませんね。」
さぁ、どう出る?七海伯爵?
七海伯爵「いや、私には分かるぞ。」
「本当ですか!?」
七海伯爵「あぁ。おそらく、天空のダイヤモンドの事だろう。売却すれば、軽く兆を超えるだろうからな。」
天空のダイヤモンドというのは、この家の家宝の名前だ。代々受け継がれている幻のダイヤモンドで、とてつもなく貴重な代物だ。お金の話が出てきて娘が出てこない辺り、本当に捻じ曲がってしまったのだろう。まぁ、初見で”娘”っていう答えに辿り着くのは不可能に近いけどねw
「確かに、その可能性が高いですね。」
七海伯爵「うむ、金品室の守りを固めておかねば。報告感謝する。仕事に戻ってくれ。」
金品室は、この家の中で価値のある物が沢山保管されている。そのため、守りも厳重なのだが・・・。
お世辞にも趣味が良いとは言えないし、あんなギラギラしてる部屋には入りたくない。警護担当じゃなくて良かった・・・。
「かしこまりました。それでは失礼します。」
予想通りに捻じ曲がった性格をした伯爵に感謝しながら、俺は伯爵の部屋を出ようとした。
七海伯爵「あぁ、忘れる所だった。娘2人に明後日まで部屋から出ないように言っておいてくれ。」
おそらく、取り引きのためだろう。まぁ、ターゲットが部屋から出ない方が俺からすれば都合が良い。
「かしこまりました。明後日までですね。」
伯爵の命令に答え、今度伯爵の部屋を出ていく。
side 葉月
「暇だなぁ・・・。」
婚約が決まったから新郎の元へ挨拶にでも行くのかと思いきや、”明後日まで部屋から出るな”というお父様からの指示。一体どういう事なのだろうか・・・?
「凛華の様子でも見に行こうかしら?」
真逆の方向にあるとはいっても私と凛華の部屋は比較的近い。すぐ行って戻る位なら問題ないはずだ。
「10分くらいで戻って来れば大丈夫よね?」
そう言い聞かせて、凛華の部屋へ行く事にした。
「後ちょっと…。」
やはり、凛華と私の部屋は近い。ここまで来るのに5分もかからなかった。そ凛華の部屋が目前に迫った時、部屋の中から聞き慣れた音が聞こえてきた。
ドゴッ!ボカッ!!
「っ!凛華!!」
危機感なんて働かず、思わず凛華の部屋へ駆け込む。
「お父様!辞めてください!!」
やはり、部屋にいたのはお父様だった。お父様の服や手には僅かに血が滲んでいる。そして、部屋に居るはずのもう1人を探す。
少しして、部屋の奥に見慣れた人影が横たわっているのが見えた。凛華だ。安堵したのもつかの間、彼女の様子がおかしい事に気がついた。さっきから凛華が動かない。全く動いていないのだ。よく目を凝らすと、その異変に気づいた。
「凛華っ!」
お父様が何か言おうとしたが、なりふり構っていられず、妹に駆け寄る。どうやら息はあるようだ。
「良かった・・・(泣)」
お父様に話を聞こうと振り返ると、もう姿はなかった。どうやら逃げられたらしい。
メアリー「お2人ともご無事ですか!?」
メアリーの酷く慌てた声が聞こえる。騒ぎを聴きつけて来てくれたようだ。
「私は大丈夫です。ですが、凛華が・・・!」
リヌヌ「っ!これは酷い・・・。」
リヌヌも来てくれたらしく、凛華の傷を診ている。
「リヌヌ・・・。凛華は助かるの・・・?」
震える声で、リヌヌにたずねる。
リヌヌ「気を失ってるだけなので大丈夫です。重体ですが、命に別状はありませんよ。」
「本当ですか・・・!良かった・・・!!(泣)」
リヌヌが言うなら間違いないだろう。本当に無事で良かった・・・。
メアリー「そういえば、葉月様はどうしてここに居るのですか?」
メアリーがそう質問してきた。当たり前といえば当たり前だが、実際につかれると痛い。
「実は、凛華の様子が気になって見に来たんです。」
これは事実なので素直に答える。
リヌヌ「それで見に来たら、凛華様が伯爵様に殴られていたと・・・。」
「はい・・・。」
メアリー「あのクズ伯爵!💢葉月様だけでなく、凛華様まで手に掛けるなんて・・・!💢💢」
今まで見た事が無いくらいに怒っているメアリー。リヌヌも口にこそはしないが、静かに怒りを燃やしているようだ。
「やはり、お父様は”あの言葉”を覚えていなかったのですね・・・。」
メアリー「あの言葉・・・?」
メアリーが聞き返してきた。リヌヌも目を見開いている。独り言のつもりだったが、聴こえてしまったらしい。
リヌヌ「教えて下さい。僕らの知らない所で何があったんですか?」
2人が真剣な眼差しで見つめてくる。言い逃れ出来る空気ではない。
「・・・分かりました。」
__覚悟を決めて口を開く。
「これは、凛華が生まれる直前の話です・・・。」
~~~~~~~~~~~回想~~~~~~~~~~~
ドゴッ!ボカッ!!
この日もいつものように殴られていた。当時の私にとって、これは日常の一コマ。この頃には心が壊れかけていて、もう何も感じられなくなってしまっていた。
私の心を変えるきっかけは、そんな非日常のようで日常であるなんて事ない日だった。
「妹・・・ですか?」
突然呼び出されて告げられたその言葉に困惑する。
父「あぁ。これで矛先が増えて楽になる。」
どうやら、お父様は妹にまで暴力を振るうつもりらしい。 という事は、妹も私と同じ運命を歩むのだろうか?妹も私と同じように、味方が居ない苦しい日々を送るのだろうか?
___そんな運命、歩ませたくない。そう思った時思うままに口は動いていた。
「お父様、お願いがあります。」
父「なんだ?」
父「・・・分かった。約束しよう。」
「っ!ありがとうございます!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「と、言うことです・・・。」
メアリー「そんな事があったんですか・・・。」
メアリーが唖然としている。相当驚いたようだ。よく見ると、彼女の瞳には涙が滲んでいる。
「だから、私が暴力を振るわれるのは仕方のない事なんです。」
さも当然のように答える私に、リヌヌとメアリーが言い返す。
メアリー「どこが当たり前なんですか!?💢こんなの間違ってます!💢」
リヌヌ「僕も同感です。確かに葉月様にも責任はあると思いますが、どちらかと言うと娘とした約束すら守れない伯爵様に非があると思いますね。」
若干こじつけな所があった気もするが、2人は本当に私の味方でいてくれるようだ。
「2人とも・・・ありがとうございます。」
本当に・・・、この2人が私の専属で良かった。
リヌヌ「とにかく、葉月様は自室へお戻り下さい。」
流石に長居しすぎたので、素直に従う事にした。
「メアリー、凛華をよろしくね・・・。」
メアリー「お任せ下さい。葉月様。」
リヌヌ「交換が必要な包帯とかは、全部その箱に詰めてあるから頼んだぞ。」
メアリー「本当に助かるわ。ありがとう。」
いくら執事と言っても、凛華だって年頃の女の子。仕事より罪悪感が勝ったリヌヌは、メアリーに交換などを任せる事にしたようだ。
こうしてメアリーの言葉に安心した私は部屋に戻り、リヌヌは仕事に戻る事になる・・・はずだった。
「大丈夫だと言ったじゃないですかw」
リヌヌ「何かあってはいけませんので。」
なんと、すぐ仕事に戻ると思ったリヌヌが部屋まで送ると言い出したのだ。仕事が大変なのにここまでしてもらうとなると、申し訳なくなる。
リヌヌ「僕の仕事の1つなんですから、そんなに申し訳なさそうにしないで下さいよw」
「・・・やっぱり、リヌヌには敵いませんねw」
私の心を見透かし、1番欲しい言葉をくれるリヌヌ。辛い時も、苦しい時もいつだってそうだった。そんな彼の横にいると、無意識に”莉犬くんと重ねてしまう。”
「居心地がいいからでしょうか・・・?」
リヌヌと2人の時は、莉犬くんと窓辺で話すあの時間のように落ち着く。この感覚は、莉犬くんとリヌヌにしか作り出せないのだ。
メアリーも落ち着くといえば落ち着くのだが、やはりここまで安心出来るのはリヌヌと莉犬くんの2人だけ。それでも、メアリーにしか言えない事もあるので、その点ではメアリーの方がいい時もあるが。
リヌヌ「葉月様、お部屋に到着しましたよ。」
リヌヌにそう言われ、我に返る。リヌヌと居ると本当にあっという間に時間が過ぎてしまう。
「ありがとう、リヌヌ。お仕事頑張って下さいね。」
リヌヌ「お気遣いありがとうございます。葉月様も、ごゆっくりなさって下さい。」
そう言って、リヌヌは仕事へ戻っていった。私も扉を開けて入ろうとしたのだが、メイド2人の話から聴こえた言葉に阻まれた。
メイドA「ねぇ聞いた?」
メイドB「え、何を?」
メイドA「知らないの!?
メイドB「あぁ〜!それね!確か、天空のダイヤモンドを狙ってるって話でしょ?」
メイドA「そうそう!あれ、本当なの?」
メイドB「本当らしいよ!先輩達が話してたもん!」
メイドA「やっぱり本当なんだ!」
メイドB「でも・・・レッドドッグが宝石を盗むのって初めてじゃない?」
メイドA「確かに・・・。じゃあ、嘘なのかも・・・?」
メイドB「すぐ意見変えるじゃんw」
メイドA「だ、だって・・・!」
「・・・嘘、でしょ?」
そう呟いた自分の声は吐息にしかならず、周りはほとんど聴き取れなかっただろう。まぁ、今回はその方が都合がいいので良しとしておく事にした。
しかし、そんな悠長な事を言ってる場合では無い。
「莉犬君が家宝を盗む・・・?」
彼は怪盗なんだから十分有り得るのだが・・・、何故か認めたくなかった。彼がそんな事をするなんて思いたくなかったのだ。
莉犬『俺、そういう宝石系興味無いんだよねw』
いつだったか、彼が言っていた言葉が脳裏によぎる。
「結局、全部嘘じゃん・・・。」
お父様もお母様も・・・莉犬君もそう言ってまた嘘を重ねて隠すのだ。もう分からない。私は誰を信じればいいんだろう・・・?
結局真相は分からず、暗い気持ちのまま自室に戻ることになった。
in葉月の部屋(夜)
「眠れない・・・。」
この日はいつも以上に眠れなかった。莉犬くんの事やお父様の事や昨日から帰らないお母様の事、凛華の容態などが頭の中でグルグルしていて、寝付こうにも寝付けなかった。
「・・・今日は絶対来ないもんねw」
1番来て欲しい彼の名前を呼ぼうとしたが、今晩は忙しいから来ないだろう。そもそも呼んだ所で聴こえる訳がない。
「嫁ぐ事・・・伝えたかったな。」
正直な事を言うと、嫁ぎたくない。私はわたしで”好きな人が居る”のだ。その状態で嫁いでこられても迷惑でしかないはず。私だって望んだ人と付き合ったり結婚したい。だから今まで断り続けてたのだが・・・。
「この事を伝えたら、嫉妬してくれたのかな?///」
なんて、ワガママな願いが口から零れる。そもそも彼は私の事が好きなのだろうか?
まぁ、その可能性はないだろうけど。最後に1度でいいから、彼に会ってこの事を伝えたかった。
・・・欲を言うなら、自分の思いを伝えてこの恋にケリをつけたかった。
だけど、そう願うには遅すぎたらしい。彼の仕事の都合上、もう会えない気がする。きっと彼は下調べとして私に近づいていたんだ。
「ねぇ、最後にもう1回会いに来てよ・・・。」
カツカツッ
聞きなれた音が、暗い部屋に響く。
「・・・まさか、ね?」
淡い期待を抱いて窓を開ける。美しい満月の月光を背に、目の前の人物は私に微笑みかけている。
月光に照らされていた彼は、私が1番会いたかった人__莉犬君だった。
「な、何で・・・、あっ。」
少し考えたら分かってしまった。悲しくなるが、これならここにいるのも説明が着く。
「まさか、ここにダイヤがあると思ったの?」
莉犬「えっ?ダイヤ?」
何の事か分からないと言わんばかりに、とぼけた声を出す莉犬君。
「とぼけなくても、全部知ってるから大丈夫wそれに、この部屋にお目当てのダイヤは無いよ?」
演技派な彼の演技力に飲み込まれると本当に信じてしまいそうなので、嘲笑う様な雰囲気で返す。こうした方が言い返しやすくてちょうどいいのだ。
莉犬「いや、何言ってるの!?💦俺、宝石なんて興味ないよ!?💦💦」
彼の必死の弁明も聞き入れた所で、私は決定打を言う事にした。
「メアリーが言ってたよ?レッドドッグが、”この屋敷で1番価値のあるもの”を頂くって。」
「この家で1番価値がある物と言えば、家宝のダイヤだからねw」
ここまで言えば言い逃れ出来ないはずだ。彼がダイヤ目当てなのは間違いないので、これで本性を出すだろうと思った私はかなり単純だったらしい。
そこまで自信満々に言った私が彼の方を見ると、彼はクスクスと笑っていた。
莉犬「いやぁ、そんな勘違いしてたなんてねw」
「か、勘違い?」
莉犬「だって、俺目線で1番価値のあるものを頂きにきたんだよ?」
「・・・?だから、あのダイヤじゃないの?」
莉犬「違う違うw」
もう訳が分からない。彼の狙いは家宝である”天空のダイヤモンド”では無かったのだ。となると、何が目的なのだろう?
そう考えながら目の前にいる彼を見つめる。すぐに視線に気づかれたようだが、目が合った途端逸らされてしまった。髪の合間からのぞいた耳は、何故か赤く染まっている
・・・まさか、嫌われた?
彼といて、こんなに気まずかったのは初めてかもしれない。大好きでいつもなら話せるはずなのに、今はお互いに無言だからだろうか?言いたい事があるのに何もまとめられず、話せない私も私なんだろうが。
必死に他の話題を探していた私の横で彼が口を開く。
莉犬「葉月。俺が盗りたいのは”物”じゃないよ?」
「物じゃない?じゃあ、何を盗りに来たの?」
直球に聞き返すと、彼は再び顔を真っ赤にして目線を逸らす。
少し考え込む素振りを見せた後、意を決したように顔を上げ真っ直ぐ私を見つめてきた。
莉犬「俺は・・・。」
「私のため?」
どういう事だろう?
ゴーンッゴーンッゴーンッゴーンッゴーンッゴーンッ
突然、部屋にある柱時計が鳴り響く。何事かと思って時計を見ると、どちらの針も12を指していた。寝る時にうるさくないのかと聞かれるが、基本的に眠れないので気にしていない。
ゴーンッゴーンッゴーンッゴーンッゴーンッゴーンッ
きっちり12回鳴り終わると、再び静寂が戻ってきた。ある事を思い出した私は、ある事を尋ねる。
「そういえば今夜は仕事でしょ?行かなくていいの?」
夕方に、今夜0時にレッドドッグが来るという事をメアリーが教えてくれた。予告状の内容を教えてくれたのもその時だ。
莉犬君はと言うと、驚くほど目を見開いていた。特徴的なオッドアイが月明かりの反射で照らされ、綺麗に輝いている。『まだ気づかないの?』と彼がボヤいたようにも聴こえたが・・・幻聴だろうか?
莉犬「そうだね。今夜の仕事済ませようかな。」
沈黙を破ったのは彼の言葉だった。別れは名残惜しいが、仕事だし仕方ない。ここで言わないと、絶対に後悔する。そう思って言おうとしてた事を言おうとした瞬間、窓の縁に立っていた彼が手を差し出してきた。
「えっ・・・?」
莉犬「・・・あぁ、あれ言わなきゃ伝わんないか。」
そう呟いた彼は私に向き直って、こう返す。
『どやぁ✨』と効果音が付きそうなドヤ顔でそんな事を言い出した彼。レッドドッグの決め台詞なんだろうが、普段のイメージと違いすぎて笑ってしまった。
莉犬「ちょっと!?💢そんな笑わなくても良いじゃん!!💢」
「ごめんごめん!あまりにもドヤ顔で言うからつい・・・あははっ!!w」
まだ笑いが収まらず、笑い続けている私。これでは話が進まないと思ったのか、彼は私が落ち着くまで待っていてくれた。穏やかな笑顔で撫でてくれた辺り、思ったよりも怒っていないらしい。そんな彼の横で遠慮も申し訳なさも忘れて笑い続けていた。
莉犬「・・・どう?落ち着いた?」
「うん。おかげさまでねw」
ようやく笑いが収まり、待たせていた彼に向き直る。
「それで・・・、聴きたいことがあるんだけど///」
莉犬「うん?」
「その・・・///」
聴くのが恥ずかしすぎて、そこまで言って言葉に詰まってしまった。
莉犬「ゆっくりで良いから。」
相変わらず、彼は優しい。優しくてカッコよくて笑顔を欠かさない。・・・これで恋人が居ないっていうのが、彼の話した内容の中で唯一信じられない事だ。
その優しさに甘え過ぎてはいけないと気づき、勇気を出して言う。
「その・・・///私が1番価値のあるものっていうのはどういうつもりで言ったのかなって・・・///」
莉犬「・・・ここまで言って分かんないの?///」
いい加減気づいてよと言わんばかりの声色でそう返された。・・・ご察しどおり、意味は全く分からない。
どういう事なのかとあれこれ考えている間に、痺れを切らした彼の方から答えを教えてくれた。
「・・・ふぇぇ!?///」
言葉を理解した瞬間、何も考えずに声が出た。おそらく、私史上最高に情けない声だった気がする。私からすれば、それくらい信じられない話なのだ。
「ほ、本当に私の事好きなの!?///」
未だに信じられず、彼にそう尋ねる。ここで嘘だと言われた方が納得いったのだが・・・。
莉犬「俺だって、本心じゃなきゃ告白しないよ///」
その言葉が何よりの証拠となり、私に”告白された”という現実を突きつけてきた。
私があたふたしている間に、全て吹っ切れたらしい莉犬君が、どんどん話を進めていく。
莉犬「婚約させられてるんでしょ?」
「そ、そうだけど・・・。」
莉犬「相手って氷川雪公爵だっけ?好きなの?」
「・・・。」
どうやら、言いたかった事も全部知っていたようだ。私が勇気出して言おうとした意味って何だったのだろう・・・?そういえば、婚約の件に随分と詳しいが噂でも出回っているのだろうか?
それ以前に、仮にも婚約者に好きじゃないなんて言っていいのだろうか?流石に申し訳ない気がする。
莉犬「大丈夫。ここでは何言っても怒られないよ。」
彼の優しい誘いで、我慢していた物が全部零れた。
「正直に言うと・・・、好きじゃないんだ。」
やっぱりとでも言いたげな顔で彼がこっちを見つめる。もう、隠さなくてもいいよね・・・。
「本当は、この婚約も受けたくない。私だって本当に愛してる人と幸せになりたいよ・・・。」
そんな我儘が許されないのは分かってる。それでも、視察の際に見かける同い年くらいの子達が幸せそうに話す恋バナは羨ましかった。
「・・・私も好きな人が居ても、都合がいい様に結婚させられる事がない恋がしたかったな。」
ずっと堪えていた本音を零した時、私の視界が僅かに歪む。そこで初めて自分が泣いていた事に気がついた。歪んだ視界の中で、ずっと隣で話を聴いてくれた莉犬君が辛そうな表情になるのが見えた。本気で私を心配しているんだろう。
本当に愛している彼と結ばれるのなら、どれだけ幸せだろうか・・・。考えれば考えるほど辛さは増すだけだ。
口を開いたかと思えばそんな事を言い出した莉犬君。
「莉犬君と・・・?」
莉犬「知っちゃったんだよね。七海伯爵家の闇。レッドドッグとして放っておけないなって。」
そういえば、彼は義賊だったという事を思い出した。まさか、それで私を盗みに来たのだろうか?
莉犬「ねぇ、葉月。この歪みきった家系を俺達の力で変えてみない?」
『俺を信じて。』そう聴こえてきた気がするくらい、安心する声だった。
・・・私も答えないと。
「・・・うん、連れてって!」
その答えを待っていたと言わんばかりの勢いで、彼に手を掴まれる。
・・・もう迷っている理由はない。掴んできた彼の手を握り返し、2人で屋敷の窓から飛び出した。
in星空と海が見える崖
「わぁ・・・✨」
連れ出されるや否や、莉犬君に『着いてきて。』と言われてここまで歩いてきた。見せたいものがあったらしい。
彼が見せてくれたのは、満天の星空と月光が反射して微かに光っている美しい海だった。
追っ手を撒きながらかなり長い距離を歩いたが、こんなにも美しい夜景が見られるのなら、歩いた甲斐があった。
莉犬「やっぱり、こういうの好きなんだ。」
そう言って、満足気に微笑んでいる彼。私の好みを熟知している彼からすれば、分かりきった反応だったのだろう。それでも嬉しそうな顔をしてくれる彼は本当に優しい人なんだと実感する。
王家に証拠提供に行く前に、ここに連れてきた彼。まさか、私の心を癒すために・・・?
莉犬「どう?元気でた?」
考えていた矢先にそんな事を言い出す莉犬君。
莉犬「って、見たら十分かw」
言っておいてすぐに取り消す彼。彼には全部バレているようだ。そういう
・・・やっぱり、好きだなぁ///
莉犬「えっ///」
驚いた様な声を漏らす莉犬君。顔も耳も驚く程真っ赤に染まっている。最悪の可能性が頭によぎり、恐る恐る尋ねる。
「もしかして・・・、声に出てた?///」
顔も耳も真っ赤にして目線を逸らす彼。その彼を見つめ続ける。頼むから違うと言って・・・!
少し間が開いて、彼が頷く。という事は・・・。
「嘘でしょ・・・?///」
彼への想いが見事にバレてしまったらしい。いくらなんでも恥ずかしすぎる・・・///
顔が熱くなるのを感じてしまい、より恥ずかしくなる。これが羞恥心ってやつなのかな・・・?///
莉犬「あれに対しての返事でいい・・・よね?///」
聞かなくて良いから、察してくれと思いながらコクコクと必死に頷く。
「ひゃっ!?///」
突然腕を引かれ、気づいたら彼の腕の中にいた。抱きしめられたようだ。
莉犬「やばい・・・、めちゃくちゃ嬉しい///」
嘘偽りなさそうな声が頭上で響く。しっかりと、だけど優しく抱きしめられる。ここまで人肌に触れたのは物心ついてからは初めてだ。
「あったかい・・・///」
素直な感想だった。愛する人の腕の中にいられるのはこんなにも嬉しい事なのかと強く感じた。
莉犬「そんな可愛い事言わなくても良くない?///」
「またそうやって口説く・・・!///」
莉犬「口説いて無いよwちゃんと本心だからww」
またそうやって私を照れさせる彼。本心だって言われるのが1番効くんだってば・・・///
莉犬「それじゃあ、そろそろ行こっか。」
そう言って私の手を取った彼。照れながらも、何とか握り返しす事が出来た。
莉犬「葉月。」
王城へ向かおうとしていた足を止め、急に声色を変えた彼。告白してきた時のテンションにそっくりだ。
「どうしたの?」
芯のある、しっかりとした声でそう伝えてくれた彼。 やっと・・・やっと求めてもらえた。その嬉しさで胸が満たされる。
「・・・うん!」
嬉し泣きを堪えて笑顔で答える。今泣き出したら、きっと彼を困らせてしまうだろう。
莉犬「ホントに・・・///そういうとこだよ?///」
一体何の事かと頭を悩ませていると、突然掴んでいた私の腕を引っ張ってきた。予想外の動きに対処出来ず彼の方へ倒れ込む。
莉犬「葉月、こっち向いて。」
受け止めてくれた彼にそう言われ、何も考えずに彼へ視線を向ける。すると、
チュッ___。
唇に柔らかい何かが触れた。
「・・・へ?///」
莉犬「ほら、行こ///」
頭が理解するよりも先に、彼に手を引かれる。あの時と同様に、彼の耳は真っ赤に染まっていた。
そこまでの情報を得て、ようやく全てが分かった。だけど、気づかない方が幸せだったかもしれない。
・・・そのせいで、彼の方をまともに見られなくなってしまった///
「ファーストキス奪ったんだから、ちゃんと最期まで愛してよ・・・?///」
莉犬「っ・・・!///当たり前でしょ///」
悪戯のつもりで言った真実に顔を赤らめ、欲しい言葉をくれた彼。
ここまで『当たり前』を過信したのは、一体いつぶりだろう?それくらい、彼の言葉には信憑性があった。
彼と一緒に幸せに余生を過ごせるなら、どんな運命でも悪くない。そう思って2人で王城へ歩き出した。
数日後、七海伯爵とその妻である伯爵夫人。そして、氷川公爵家の者が捕まりあちこちで話題になっていた。
モブ美「今回の事件、レッドドッグが情報提供したんでしょ?✨」
モブ子「そうらしいわよ✨」
モブ美「そういえば、どういう経緯で捕まったの?」
モブ子「レッドドッグの情報曰く、七海伯爵が娘2人への虐待。七海伯爵夫人が不倫。氷川公爵家が人体実験による大量殺人だって。」
モブ美「え、怖っ・・・。もしかして、葉月様も被害者なんじゃ・・・?」
モブ子「そうらしいんだけどね・・・。」
モブ美「何かあったの?」
モブ子「実は・・・。凛華様は別の家に養子として迎えられたらしいけど、同じ家に居たはずの葉月様が行方不明みたいなんだよね・・・。」
モブ美「え?じゃあ、ここの領主は誰になるの?」
モブ子「政治が出来るようになるまでは、凛華様を引き取った家系の主人がやるんだって。」
モブ子「政治に関わった事がほとんど無い人らしいから、正直治安の維持が危ういらしいよ?」
モブ美「結構大変な事になってるのね・・・。」
モブ子「まぁ、良い方みたいだし大丈夫よ。」
side 莉犬 in馬車
行者「お、お客さん達。見えてきたぞ!かなり距離があるが、右奥の方に見えるのがあんたらが目指している街だ。」
葉月「あ!見つけた!!へぇ〜!結構大きな街なんですね!✨」
行者の言葉に笑顔ではしゃいでいるのが、晴れて付き合う事になった恋人の葉月。
証拠提供を終えた後、ひたすら馬車を乗り継いで、元いた街からかなり離れた街へ向かっていた。
この辺りにはレッドドッグの噂も知られておらず、今回の騒動を知っている人も居ない。事件の主犯格である俺と、事件後から行方不明扱いされている葉月が逃げるには都合がいい。
逃亡費用と生活資金は、俺が過去に潜入した貴族共の家から盗んだ物を全て売って稼いだ。あれは非正規ルートで手に入れられた物ばかりだから、盗んでも悪くはない・・・はずだ。
そのおかげで、仕事が見つかるまでの一時資金にしては十分過ぎる金額が手に入り、仕事を見つけるまでの猶予が出来た。
ちなみに、葉月も自身が持っていたアクセサリー等を売って資金援助をしようとしていたが、流石にバレかねないので全力で止めた。
そこまで思い返して、ふと自分の左手に視線がいく。
薬指につけた大好きな恋人とお揃いの指輪。俺の着けている物には特に何も付いていないが、葉月が着けている物には小さめの宝石が付いている。一見すると、お揃いに見えないが実は指輪の内側には俺と葉月のイニシャル(R.H)が掘られている。
葉月はそこまで派手な物は好まないので、お互いの指輪を用意するのは容易かった。
俺はというと、キラキラした物を付けているのは落ち着かないのですごくシンプルなデザインにした。正直これくらいの方が着けてて気楽なのだ。
葉月の指輪に付いているのはエメラルドとペリドット__俺と葉月の誕生石でどちらの宝石言葉も夫婦円満や末永い夫婦愛らしい。
そういう意味を込めた指輪だったのでピッタリだと思い、速攻でデザインを決めて購入した。
出来上がった指輪は、この世で1番綺麗な指輪なんじゃ無いかと思うくらいには完璧な出来だった。
実質プロポーズになった指輪のプレゼント。緊張しすぎて何言ったかも覚えてないけど、彼女が泣きながらOKしてくれた事だけは覚えている。
ふと彼女に目をやると、首筋に痣が見えた。あの父親にやられたのだろうか?
___葉月が生きていて、本当に良かった。
そう思った瞬間、彼女を抱きしめる。
葉月「わっ・・・///どうしたの?///」
「何となく・・・、こうしたくて///」
葉月「な、なるほど・・・///」
行者の人に生あたたかい目で見られた気がするが、そんな事はどうでも良かった。
小柄な彼女をもう一度抱きしめる。すると、華奢で折れてしまいそうな腕で抱き返してきた。俺の事を考えた、葉月なりのやり方なんだろう。
ゆっくりでも良い。俺は葉月を幸せにしたい。
「すみません、後どれくらいで着きますか?」
行者「ちょっと道が悪いからなぁ・・・。何事も無けりゃ、20分くらいで着くぞ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
そんな事を聴いていると、腕の中から規則正しい寝息が聞こえる。
腕の中を見ると、葉月が眠っていた。
「彼氏の前とはいえ、無防備過ぎない・・・?」
昔からそういう所はあったが、どうやら今も変わってないらしい。
「まぁ、昨日の夜も寝てないし当たり前か。」
そんな事を考えたせいで、昨日の夜の一部始終を思い出してしまった。
嬉し泣きしそうになりながらも、笑顔で手を取ってくれた葉月。信じられないが、あの子は俺を選んでくれたのだ。
その笑顔を裏切らないため、心の中でもう一度誓う。
🕊 𝕖𝕟𝕕 𓂃 𓈒𓏸 ♡
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈••✼••┈┈┈••✼
久しぶりの更新が、こんなので良いのかな・・・?
ちなみに、別エンディングもありますので見たい方はコメントして下さい!
❤、コメント、フォローお待ちしています!
それでは、おつはづでした!
コメント
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いやぁね、もう最高すぎる めちゃゞ良かった。これは感動の名作だね もうね泣くしかない 読み切りも情景とか書けば上手く書けるんだなぁ。私もいつか読み切り書いてみよっかな〜なんてね はーちゃは情景も色々と書くのいつもゞ 上手すぎて羨ましいよ。。
めっちゃ良かったです!! 初ノベルで投稿120個目ですよね! いつもおつかれさまです(。ᵕᴗᵕ。)🍵 これからも応援してる!! 頑張ってね❤️🔥
めっっっっちゃ良かった感動しかないもう泣ける😭😭✨✨ チャットじゃない分、情景とかが想像しやすいし、はーちゃんの文章がうますぎて、ストーリーがキラキラしてた!! ほんとにすんごく良かったよ! 雪くん…wいつも悲しい役になるね…w