コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ひとしきり身支度を終えた後、ワイらは昼食をとった。ちゅうても、昨日の戦闘で食料庫も軽くやられとったからな。用意できたのは、あくまで簡易的な保存食。それに、いくつかのリンゴくらいや。
リリィはリンゴをナイフで器用に剥きながら、ちらりとこちらを見る。その横顔は淡々としているが、視線にはどこか探るような色がある。昨晩の戦いを引きずっとるんかもしれん。レオンは無言でパンをかじりつつ、時折、肩を回して軽く息を吐いとった。戦いの余韻が、まだ体に残っとるんやろう。ケイナは眠そうな目を擦りながら、もそもそと果物を頬張っとる。
静かな時間や。けど、平和ってのはこういうもんなんやろな。戦いの後の、ほんの束の間の休息。
食べ終えて一服したら、もう夕方や。昨晩はいろいろあったし、このままゆっくりするのもええ。せやけど、また新たな襲撃者がおらんとも限らん。多少の作業は必要や。ワイは立ち上がり、まずは果樹と壁を見回ることにした。
昨晩のうちに【戦後】能力で修繕はしたものの、夜闇の中やから見落としがあるかもしれん。陽が傾き、長く伸びた影の間を歩きながら、じっくりと壁を点検していく。ひび割れ、ゆがんだ箇所、細かな破損──やはり、いくつか見落としがあった。ワイはため息をつき、ひとつずつ念入りに直していく。
リリィとレオンも、なんや手伝ってくれとるわ。リリィは手慣れた動きで木の支柱を補強し、レオンは寡黙に石を積み直していく。ワイには【戦後】能力があるとはいえ、こうして修繕の下準備をしてくれたら効率はさらに高まる。正直、ありがたいわ。
二人の後ろ姿を見ながら、昨晩のピンチに駆けつけてくれたことを思い出す。あの時、土埃が舞う中で見えた二人の姿は、まるで光みたいやった。やっぱり、改めて何かしらのお礼はせんといかんな。
そんなことを考えつつ、ワイはふと視線を巡らせる。ケイナが果樹園の奥でしゃがみ込んどった。指先で丁寧に地面を探り、落ちた果実を拾い上げとるらしい。その仕草は慎重で、一つひとつを確かめるように触れていく。まるで宝石を選ぶ職人みたいや。
「ケイナ、何しとるんや?」
声をかけると、ケイナは手元のリンゴをそっと撫でながら顔を上げた。
「昨日落ちた果物、傷んでるのもあるけど、まだ食べられるのもあるから……。せっかくだし、無駄にはしたくないなって」
そう言う彼女の指先が、リンゴの表面をなぞる。光を確かめるように角度を変えながら、傷や汚れを丹念に見極めとる。その目は鋭く、けどどこか優しさがあった。傷んでいるかもしれん果実でも、ちゃんと価値を見出そうとしとるんやな。
「そうやな、無駄にはできへんわ」
一度でも地面に落ちたリンゴは、普通やったら商品にならへん。特に今回は戦闘の余波で落下したもんやしな。ワイらは気にせんけど、客から見れば印象が悪いやろ。とはいえ、捨てるにはもったいない。せっかく樹上で熟れたええ果実や。
ケイナは両手いっぱいに果物を抱えながら、顔を上げた。まだ戦いの疲れが残っとるはずやのに、表情にはどこか晴れやかな色が浮かんどる。落ちた果実を見つめる瞳は、戦闘とは別の意味での充足感を感じとるようやった。
「私たちで食べるなら問題ないよね? リリィさんとレオンさんもいるし、みんなで食べるのはどうかな?」
ケイナの声には、どこか弾んだ色がある。戦いの緊張がほどけて、ほんの少しでも日常を取り戻したような、そんな雰囲気やった。
ワイは少し考える。確かに、昨日の戦いは大変やったが、それを乗り越えたんや。なら、ここらでしっかり休んで、旨いもんを食う時間があってもええやろ。昼飯も食べたけど、普段と比べて簡素なモンになってしもうたからな。戦いが終わった後に、みんなで豪勢な飯を囲む。それもまた、大事なことなんかもしれん。そう思うたら、自然と口元が緩んだ。
「よし、宴や!」
ワイが勢いよく叫ぶと、少し離れたところにおったレオンとリリィが同時に顔を上げた。レオンは手にしていた石を落としそうになりながらも踏みとどまり、瞬きを繰り返す。一方、リリィは木の支柱を打ち込もうとしていた手を止め、小首を傾げた。
「宴だと?」
レオンが訝しげに眉をひそめ、鋭い目つきでこちらを見やる。まるでワイが妙なことでも言い出したかのような反応やった。まあ、突然の宣言やし、しゃーない。
「せや。昨日の戦いの打ち上げや。せっかく美味い果物もあるし、今日の晩飯はちょっと贅沢しよか」
「賛成!」
ケイナがパッと顔を輝かせ、手を叩く。無邪気な笑顔が、その場の空気をふっと軽くした。リリィは呆れたようにため息をつくものの、口元には微かに笑みが浮かんどる。
「まぁ、確かに……たまにはいいかもね」
「ここのリンゴは美味かったからな。マンゴーの方はどんなもんか、食べさせてもらうとするか」
レオンが腕を組み、果樹園の奥に目を向ける。風に乗って、熟した果実の甘い香りがふわりと漂ってきた。
「んじゃ、準備するやで!」
ワイは気合を入れ、果樹園の一角を宴の場として整えることにした。
ケイナとリリィは果物を選別し、レオンは薪を集めて火を起こす。ワイは木の板を使って即席のテーブルを作り、果物を並べるスペースを作った。空気の中に、少しずつ甘やかな果実の香りと、火がはぜる音が混じり始める。戦場の荒々しさとはまるで違う、穏やかな時間が始まりそうや。