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「ちょっと、あの植え込みはいつ直るのよ」
次の日、そう言いながら、寿々花があかりの店にやってきた。
「なにかちょっとした手土産みたいなの、見繕ってちょうだい。
この間、あなたと貴之様を見に行った人のおうちに行くの。
あなたなら会ってるから、雰囲気わかるでしょう?」
「寿々花さん」
あかりは微笑み言う。
「満島大吾さんをご存じですよね?」
寿々花は美しい眉をひそめ、
「いやだ、あなた探偵?」
と言う。
その顔を見ながら、あかりは思う。
ぐずってるときの日向と似てるな、と。
……性別が違うから、あんまり似て見えないけど。
日向は寿々花さんに似てるんだよな。
この外国の美人女優みたいな人に。
日向と青葉さんより、日向と寿々花さんの方が似ている。
だから、大先生、耳しか似てないと思ったんだな、と思いながら、返事もせずに寿々花を見ていると、
「なによ、怖いわね。
そうよ。
ちょうど香港にいた大吾を呼んで、青葉の身代わりをさせたのよ。
どうせ、金目当ての悪い女にでも騙されたんだと思ったからよ。
青葉の記憶はないんだから、女の方でどうとでも好きなように話作れるしね」
と言い出す。
あの、『ちょうど香港にいた』の意味がわかりませんが……。
我々いたの、フィンランドなんですけど。
「でも、会ってみたら、あなたそういうタイプじゃないじゃない。
だけど、出会って一週間で妊娠なんて。
やっぱり、青葉は破廉恥な女に騙されたのかしら、とか悩んだり。
揺れる母心よ。
あなたも日向の母親でしょう?
想像してみなさいよ。
日向が大きくなったとき、日向の記憶がなくなって。
いきなり、
『お母さん、日向さんの記憶にはないようですが、私は日向さんの恋人です』
って、見知らぬ、ちょっと惚けた女に言って来られてごらんなさいよ。
私の気持ち、わかるから」
……なかなかない状況かと思いますね、それ。
っていうか、今、『惚けた女』のフレーズ、必要でしたか……?
「あのー、破廉恥な女に騙されたって。
お宅の息子さんが遊び人だという想定はなかったんですか……?」
すると、寿々花は堂々と言う。
「ないわ。
あるわけないじゃない。
我が子可愛さで言ってるんじゃないわよ。
あの不器用な子がどうやって遊び人になれるのよ」
まあ、そうなんですけどね……と思いながら、あかりは外の植え込みを見ながら言った。
「あれ壊したの、実は青葉さんです」
えっ!? と寿々花は驚き、
「あの子、記憶が戻ったの?」
と言う。
「戻ってません。
たまたま、飛び出した猫とおばあさんを避けて、植え込みに突っ込んできただけです」
「なに莫迦なこと言ってるの。
あの子の車があなたの店に、たまたま突っ込むなんて、そんな偶然あるわけないじゃないの」
もう、なにもかもあなたの罠なんじゃないのっ!?
と寿々花は言い出す。
「いや、飛び出した猫と道にいたおばあさんも、私の罠ですか……」
どうやって、とあかりが言うと、
「猫はあなたが放ったのよっ。
おばあさんは、あなたに雇われた、なんか凄腕のおばあさんなんじゃない!?」
と寿々花は言う。
「なんか凄腕のおばあさんって、どんなおばあさんなんですか……」
揉めている途中で、カランカランと音がして、誰か入ってきたのには気づいていた。
おっとっ、お客様の前で揉めちゃいけないな。
でも、この店に来るのは、客よりも身内と青葉さんと『呪文を教えて~』な子どもたちの方が多いんだが……と思って、入口を見ると。
案の定、入ってきたのは、父と父に手を引かれた日向だった。
父、幾夫は、
「なんだかんだで、似てないか? お前と寿々花さん。
似たり寄ったりな感じがするが」
と言ったときと同じ、あ~……という顔で、こちらを見ている。
「ぐらんまっ」
と日向に呼ばれ、寿々花は腰を屈めて目線を合わせることもなく。
厳しい顔のまま日向を見下ろし、
「日向、元気にしてましたか?」
と言う。
……この人、子や孫に愛情がないわけじゃないんだろうが。
表現するのが下手なんだろうなあ、と思いながら、あかりはその様子を眺めていた。