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「卵スープ、ごま油が効いてて美味しい」
「そんなのわかるんだね」
「ああ、ごま油好きなんだ」
御曹司と言っても、龍聖君は庶民の味もわかるから有難い。
「冷麺いただきます」
龍聖君が半分食べた冷麺に、ゆっくりとお箸を伸ばす。
1口食べ、頑張って喉の奥に流し込んだ。
「どう?」
緊張して味がよくわからないのに、「お、美味しい」だなんて、本当、嘘ばっかり。
でも、こんな何気ないやり取りが嬉しくてたまらない。
忙しい日々の中に、突然ポッと生まれた2人だけの大切な時間に、私はすごく感動している。龍聖君の大事な時間を分けてもらえ、心からありがとうと言いたくなった。
ほんの少しでも龍聖君が楽しめるお手伝いができたのなら、それが私の役目であり、私自身の幸せなんだ。
美味しい焼肉を堪能して、私達はマンションに向かって来た道を歩きだした。
「また来ような」
「うん」
静かな優しい会話。
龍聖君はまた……
私の手をそっと握ってくれた。
「ねえ」
「ん?」
「こういうの、誰かに見られたらどうするの? 龍聖君……嫌じゃないの?」
つい聞いてしまった。
答えを聞くのが怖いくせに。
「どうして? どうして手を繋ぐことが嫌なことになるんだ? 俺達は夫婦なのに」
「ふ、夫婦っていっても……私達は契約結婚だから」
しばらく龍聖君は黙っていた。
何かを考えているみたいで……
そして、少し間をおいてからポツリと言った。
「どんな形でも、夫婦は夫婦だから。お前は鳳条 琴音。今は俺の大切な奥さんだ」
龍聖君……
そんなセリフが返ってくるなんて予想もしていなかった。
ちょっと泣きそうになって……
でも、同時に切なくもなった。
今は戸籍上の奥さんかもしれないけれど、いつかは紙切れ1枚でお別れする未来がきてしまう。
それを思うととても悲しくて、苦しくて。
龍聖君はズルい。
私の気持ち知らないくせに……
もうすぐマンションに着いてしまう。
まだもう少し、こうして手を繋いで話していたかったのに。
私……
楽しかった今日のこと、絶対に忘れない。
龍聖君が忘れても、私は忘れない。
そして明日も、龍聖君の隣で笑っていたい。
ふと空を見上げると、吸い込まれそうなくらい静かで美しい世界が広がっていた。
とても……綺麗な夜だった。