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拝啓、十五年後の君へ
高校最後の冬、俺とたっつんは放課後の屋上で、卒業記念にタイムカプセルを埋める計画を立てていました。
「十五年後、大企業の社長になった俺と、大有名YouTuberになったじゃぱぱで、ここで酒でも飲もうや!」
たっつんはそう言って、悪戯っぽく笑っていました。俺たちの友情は、これから先もずっと、当たり前に続いていくものだと信じて疑いませんでした。
しかし、その約束が果たされることはありませんでした。
卒業式を間近に控えたある日、たっつんは突然の病に倒れました。進行の早い、現代の医学では手の施しようがない病気でした。
日に日に痩せ細り、あんなに器用だった手でペンを握ることさえできなくなっていくたっつんを見るのが、俺は怖くてたまりませんでした。
「じゃぱぱ、ごめん。タイムカプセル、一緒に行けそうにないわ」
病院のベッドで、たっつんは弱々しく微笑みました。
「バカ言わないでよ。たっつんがいないなら、あんな約束意味ないじゃん!」
俺は声を震わせながら、必死に涙を堪えました。
たっつんはしばらく俺の顔を見つめた後、枕元にあった一通の手紙を僕に手渡しました。
「じゃあ、これはじゃぱぱが持ってや。十五年後の、約束の日に開けろよ?それまで、絶対に読んじゃダメやからな!」
それが、たっつんと交わした最後の言葉になりました。その翌週、たっつんは静かに息を引き取りました。
俺の中に残されたのは、深い喪失感と、たっつんが遺した一通の手紙だけでした。
――それから、残酷なほど長い年月が流れました。
現在の俺は、たっつんが思い描いた未来とはかけ離れた、底辺の生活を送っていました。
大学を中退し、有名にもなれず、登録者が伸びない日々。今では日雇いの労働でその日暮らしを続け、家賃も払えず、狭くて薄暗いネカフェの個室が俺の終の棲家になりかけていました。
社会から見捨てられ、誰からも必要とされず、孤独と自己嫌悪で壊れていく毎日。
「こんな人生、もう終わりにしよう」
生きる気力を失った俺の心をギリギリのところで繋ぎ止めていたのは、ただ一つ。ポケットの中にある、黄ばんだ一通の手紙だけでした。
『十五年後の約束の日までは、生きなきゃいけない』
その強迫観念だけが、俺が泥水をすすりながら息を吸い続ける唯一の理由でした。
そして今日、2026年6月28日。あの日からちょうど、十五年が経ちました。
俺はもう、裏山へ行く電車賃すらありませんでした。冷たい雨が降る中、ネカフェの狭い個室の床に座り込み、ボロボロになった茶封筒の手紙を震える手で開けました。
「たっつん、助けて……俺にはもう、たっつんしかいないんだ……」
すがるような思いで、掠れたたっつんの文字を追いかけました。
『じゃぱぱへ
これを読んでいるってことは、十五年経ったんやな。約束を守ってくれてありがとうな!
本当はな、カッコいい未来の自分からメッセージを残したかったんやけど、もう時間がなさそうやから、今の俺の本当の気持ちを書くよ。
じゃぱぱ、俺は死ぬのがめちゃくちゃ怖いやねん。
明日目が覚めないかもしれないと思うとな、夜が来るのが恐ろしくてたまらないんよ。
でもな、それ以上に怖いことがある。
それは、これから十五年の間に、お前が俺のことを忘れてしまうことや。
お前が新しい友達を作って、就職して、結婚して、幸せになる。それはすごく嬉しいことのはずやのに、その中に俺の居場所がひとつもないんやと思うな、胸が引き裂かれそうになるんや。
俺はじゃぱぱに、ずっと俺の死を引きずって、泣いていてほしいと思ってしまうや。俺を忘れて前に進まないでほしいと、醜い呪いをかけたくなるんや。
ごめんな、最低な友達で。
でも、これが俺の本音や。忘れないでくれ、じゃぱぱ。お願いだから、俺を過去にしないでくれ、、』
手紙は、そこで途切れていました。
「……あはは」
暗い個室の中に、俺の乾いた笑い声が響きました。
涙が、手紙の上にぼたぼたと落ちていきます。
俺は、たっつんを忘れてなんかおきませんでした。むしろ逆でした。彼の死から一歩も前に進めず、あの冬の日に心を囚われたまま、人生のすべてをドブに捨ててしまったのです。
でも、たっつんが俺に望んでいたのは、こんな「呪い」の形だったのでしょうか。
彼が俺に引きずってほしかったのは、彼が輝いていたあの頃の眩しい思い出であって、こんな、社会のゴミのようになった俺の惨めな姿ではないはずです。
「たっつん……お前の言う通り、俺はお前を忘れなかったよ。お前を過去にできなかった。でも……そのせいで俺、こんなになっちゃったよ……」
手紙を抱きしめながら、俺は冷たい床に突っ伏して慟哭しました。
俺にはもう、新しく出会う友達も、帰る家も、明日を生きるための金も、何一つ残されていません。たっつんへの歪んだ執着だけを抱えて、人生を完全に破滅させてしまったのです。
たっつんが遺した無邪気で醜い本音は、希望を失った俺の未来を完全に叩き潰す、本物の『呪い』となって、俺を暗闇の底へと引きずり落としたのでした。
壁一枚隔てた隣の個室から、うるさいと壁を叩く音が聞こえる中、俺はただ、二度と夜が明けなければいいと願いながら、ボロボロの手紙を血が出るほど強く握りしめていました。
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n.🪽
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さも @ にょ だ にょ
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コメント
1件
いや……これ、重すぎますね。タイムカプセルと遺書というモチーフに、十五年後の絶望が絡む構図が鮮烈でした。特に、たっつんが「忘れないでほしい」と書いた無邪気な本音が、結果的に主人公を破滅させる「呪い」として回収される終盤の展開、構造としてとても巧みだと思います。ただの友愛で済ませず、人間のエゴイズムを描き切った潔さが光ってました。