会社近くのカフェレストランで、向かいに座ったアミとエミから、「さぁ、話して」とばかりに、じっと見つめられて、「えっと……」と、グラスの水を一口飲んで口ごもった。
チーフがかわいいもの好きなことは、秘密にするって約束をしたし、何をどう話したらいいんだろう……。
「えーっとね、その……こないだ会社の帰りに、たまたまチーフと会って……、」
「「へぇー」」と、二人が揃って、興味津々で相づちを打つ。
何処で出会ったのかは敢えて言わずに、考え考え話を続ける。
「それで、あの、ほら、今度チーフと行く打ち合わせも兼ねて、少し話をしてたら、思ったよりおしゃべりが盛り上がっちゃって、それでなんだかちょっと気になってきたっていうか……」
話した中身までは伏せたけれど、おおむね嘘はついてなかった。
チーフと偶然会ってミコ&リコの話題で盛り上がり、それで気になるようになったのは本当のことだったし──。
「そうなんだぁー、会社帰りに偶然会ったなんて、いいねぇ」
と、納得するエミの傍らで、アミが、「ほんとうに、それだけなの?」と、どことなく疑り深そうな眼差しを向けてくる。
「ほんとに、それだけだって……」と、アミに愛想笑いを浮かべて見せて、「ほら早く食べないと、遅くなっちゃうよ?」と、二人を促した。
「まだ何かありそうな気もするけど、今日はこのくらいにしといてあげる。だけど、いずれはちゃんと話してよね?」
そう念を押すアミに、「うんうん」と頷いて、「このトマトパスタ、おいしいよね」と、さりげなく話題を逸らした。
三人でランチタイムを済ませ、オフィスに戻ると、週明けにお伺いをするクライアント先の資料をまとめ、矢代チーフのデスクに出向いた。
「チーフ、来週の月曜日に行く相手先の資料です。今まで詰めてきた内容を整理してみましたので」
ファイリングした資料を手渡すと、「ああ、ありがとう」と、チーフが受け取って目を通した。
「……やっぱりだいぶ難航しているみたいだな?」
パラパラとページをめくって言うチーフに、「そうですね……割りと」と、自らの不甲斐のなさを感じて、少しだけ落ち込み気味になる。
「だが、大丈夫だ。これを参考に、僕が上手く相手方のポイントを押さえて先に進めるようにするから」
そんな私の凹んだ気持ちを一瞬で払拭する、頼もしい上司の台詞に、「ありがとうございます!」と、勢いよく頭を下げた。
「構わない。それが上の務めだ。君はいつもよくやってくれているし、」
と、そこまで話して、ふと言葉を切ると、
「それに、君とは、”同志”だからな」
低く声をひそめて、チーフがいたずらっぽく口の端で微笑った。
そんな表情を見せられたら、ますます惑わされてしまいそうで……。
普段はクールな男性の茶目っ気のある笑顔って、最強すぎやしませんか?
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