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水の底でも、名前は呼ばれる。

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水の底でも、名前は呼ばれる。

2 - 正しいまま、壊れていく。

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2026年01月04日

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いむくん視点







正しいまま、壊れていく

朝は、いつも同じ色をしていた。

白い天井、白い光、白い声。


「大丈夫?」


その言葉に、条件反射でうなずく。

考える前に、体が答えていた。


大丈夫じゃないと言ったら、

何かが終わる気がしていた。



正しくいなければならない。

期待を裏切ってはいけない。

静かに、丁寧に、間違えずに。


それが、生きている証明だった。


少しでも遅れたら、

少しでも弱さを見せたら、

水の音が近づく。


誰も言わない。

でも、みんな知っている。


沈められる


でも⸻


初兎ちゃんは、少しだけ違った。


「無理してない?」


目を見て、そう聞いてくる。

正解を押しつけない。

答えを急がせない。


それが、怖かった。


「してないよ」


笑って言う。

完璧な返事。


初兎ちゃんは、それ以上踏み込まなかった。

それが優しさだと、分かっていたから。


でも――

踏み込まれないことが、

救いにならない日もある。



夜になると、水の音がする。


耳鳴りみたいに、

胸の奥で、ちゃぷん、と。


「ここにいれば、楽だよ」


水は、責めない。

白みたいに正解を並べない。


沈めば、

期待も、比較も、

全部届かなくなる。


その考えが、

少しずつ、救いに変わっていった。



ある日、

足元が冷たくなった。


気づいたら、

水が、そこまで来ていた。


誰かが気づいていたかもしれない。

でも、誰も止めなかった。


止める理由が、

この世界にはなかった。



「……戻れなくなったら、どうする?」


ふと、初兎ちゃんの声がよぎる。


でも、すぐに消えた。


戻る、という選択肢が、

もう現実的じゃなかったから。



水は、静かに満ちる。


白は、何も言わない。

正しく生きた結果だから。

僕は、息を吸う。


冷たい水が、肺に入る。


苦しいはずなのに、

なぜか――

やっと、静かになれた気がした。



沈みながら、思う。


これで、

誰も失望しない。


これで、

誰も期待しない。


これで――

壊れた自分を、

誰にも見せずに済む。



そのとき、

遠くで名前を呼ぶ声がした。

「いむくん!!」


初兎ちゃんの声だった。


でも、振り返らなかった。


振り返ったら、

また正しさの世界に

戻らなければならない気がしたから。



水は、深い。


闇は、優しい。


僕は、

そのまま沈んでいった。




水の底でも、名前は呼ばれる。

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