またひとつ、夜が明けた。今日のトレーニングは少し過酷で、今日はぐっすりと寝れると思っていたが、あまり寝付けずもう時計は12時を過ぎてしまっていた。きっと、今私の隣にいるバンブーさんのおかげなんだろうなと、私の心臓の音が証明していた。
ベッドの上にいる私は、隣にいるバンブーさんのお顔を見つめる。暗いこの部屋の中でもハッキリと見えていてその表情を見てみると、私はクスッと笑い、顔が綻んでしまった。
…なんと愛らしくも、間抜けている顔をしているのだろうか。
日中は鬼の風紀委員として学校内を徘徊し、トレセン学園の生徒からは恐れられながらも信頼を得ている彼女だが、周りにこのような顔を見せたことは自分が知る限り一回もない。きっと、彼女は無意識なのだろうが…
「…シチーさんが少し羨ましいです。」
毎朝、毎夜にこの顔が見れるのだ。私だったら毎日が楽しくて仕方がなくなってしまう。ふと、私はあることに気がついた。左手に何やら温もりを感じる感触があったのだ。さっきまでなかったはずの感触。ゆっくりと左手の方を見るとそれは、バンブーさんの両手だった。驚いた私がまたバンブーさんの顔をゆっくり見直すと、そこには綺麗な空色の目が薄くではあるが開いてあった。
「ヤエノ…眠れ…ないっス…か?」
今にでも寝むってしまいそうな声。その言葉を重ねるように、私の手を握る感触は強くなっていく。
また、私の胸のドキドキが高まってゆく。
「い、いいえ。大丈夫ですよ。少し、考え事をしていただけですから。」
「そう…スか…なら…よかったっス…」
急に私が起こしてしまい、頭が回らない状況だろうに私の事を心配してくれている。本当にこの方は優しいんだなと、再度思い知らされる。
「起こしてしまい申し訳ありません。さぁ、もう1回寝ましょう。」
「うっス…」
そう言った瞬間に瞳をとじ、また寝むってしまった。でも、私の左手にはまだ彼女の両手が残っている。彼女の手を覆うように、私の右手を重ねると彼女の顔は綻ぶように見えた気がした。この表情は、今ここにいる私だけのものだと思うと少し嬉しくなった。…胸のドキドキはいつ収まるのだろうか。そんなことを考えながらも、ようやく私は眠りについたのだった。
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