…俺と君、どこかで会ってないかな。
episode18
宵田くんにそう聞こうとすると、教室にチャイムが響く。
「んじゃ、1限目間に合うようになー。解散。」
すると同時に、物凄い勢いで女子が宵田くんのところへ走る。
いや、獲物を狩るライオンかよ。
「はじめまして!宵田くん!」
「何処から来たの?」
「好きなものとか人は?」
「趣味とか!!」
女子の大群で宵田くんの姿が見えない…
くそ、これじゃ聞けないよ…。
でも、少しだけ見えた宵田くんの顔は、居心地が悪そうだった。
「…ねえ!皆!宵田くんが困ってるよ!」
クラスの女子学級委員が、皆に大声で呼びかける。すると質問攻めをしていた女子は不満そうに離れた。
「大丈夫だった?宵田くん。私、学級委員をしています。優芽って言います!何でも聞いてね!」
学級委員の結田さんは、手を差し出す。
だが、優芽さんを無視し、宵田くんは教室を出て行ってしまった。
優芽さんは、ふいっと自分の席へと戻る。
「笑、大丈夫だった?」
優芽さんと入れ違うように尚が俺の元へと来た。
「え?何で?」
「だって、宵田くんの隣だったから巻き込まれてないかと思って…」
「あ〜…平気。それより、あの子って麻衣ちゃんの従兄弟だよな。」
「うん。間違いないだろうね…。で、その宵田くんは?」
「何か教室出て行っちゃった。居心地が悪かったんだろうな。」
「そりゃあ、あんなに質問攻めされたらね……」
尚は廊下を見ながらそう呟く。
「…俺、ちょっと行ってくる。」
「え?」
どうしてか、体が勝手に宵田くんのところへと動く。
知りたい。どうして宵田くんと会ったような気がしたのか。懐かしい感じがする理由を知りたい。
と、いいつつも…宵田くんが何処へ行ったのかわからないのに、どうやって宵田くんのところへ行くのか…。
しかも宵田くん、ここに来たばっかりだから迷いそう…はっ!迷ってるんじゃ…!?
ここの学校は結構広い。しかも、教室のドアはほとんど違いがない。
やばくね…?
俺は猛スピードで学校中を駆け回る。
1限目まではあともう少し時間がある。それまでに早く見つけないと…!!
職員室や音楽室、木工室から体育館。さらには他の学年の廊下まで探した。
足には自信があり、体力にも問題ないが…
アイツどこに行ったんだよ!!
ここまでいないのやばすぎ!しかも、ここまでくると1限目には間に合わない…。
真面目な俺、初のサボりか…。また佐藤に怒られる…。あー…もう、居残り面倒くさい。
体育館横の倉庫に腰を下ろす。
結局、見つからなかったし…なんなんだよもう…はあ〜…
やっぱり、会ったこと、ないのかな…。
「こんなとこで何してんだ?」
後ろから低い声がした。
「え?」
振り返ると、宵田くんが顔を覗かせていた。
………いた!!!!!!
「宵田くん!どこに行ってたの?!ずっと探してたんだからな!!」
疲れ果てていた体が軽く感じ、ヒョイと起き上がる。
「え、ごめん。トイレ探してて…。」
「トイレって…普通近くにあるだろ…。」
「いや、前の学校、わかりにくいところにあったから…。」
「あ、そう。」
「で、何しに来たの?」
「あ!そうだった!…その………えっと…」
何でだよ…目の前になると、言い出せなくなる……。
聞かなきゃ。なのにー…
「…てか、俺たち教室戻らなきゃ。」
「え?あ、そうだね。」
すると、宵田くんは俺の手をとる。
「急ごう、細田さん。」
「…へ?」
そして、宵田くんは俺の手を引きながら階段を駆け上る。
何で、俺の名前知ってんの…?
しかも、“さん”ってー…
驚いている俺に気づかず、ただ走る宵田くんの背中を見つめる。
「細田さん。」
「ん?」
皆が帰る放課後、宵田くんは俺を呼び止めた。
宵田くんは何度か女子に一緒に帰らないか誘われていたが、何故か断っていた。
んで、俺に話しかけるっていうことは、女性が嫌いな人なのかな…?
「あのさ、細田さんって…」
「?」
「笑!おまたせ!一緒にー……」
「あ、尚、ごめん。」
「あー…ごめん、何か話し中だったよね…」
尚は申し訳無さそうに後ずさる。
「…いや、やっぱり忘れた。思い出したらまた言うよ。」
宵田くんはランドセンを背負い、教室を出ていった。
「…あ〜…どうしよう…。怒らせたかな…?」
「大丈夫だよ。本人忘れたって言ってたし。」
「気使ってるんだよ!!」
尚は頭を抱えた。
アイツそんなやつじゃないと思うけど…。俺の手を引いてくれたとき、何故か安心した。
まあ、遅刻したやつが俺だけじゃないからってだけだけど。
すると、ポケットの中から通知音がした。
送り主は一人しかいないけど…。
「出さないの?」
「え、だってここ学校だろ?」
「真面目だな〜…先生いないし大丈夫だって…!」
「お前、最初の頃より悪くなったな。」
尚の言う通り、ポケットからスマホを取り出す。
やはり送り主は類さんからだった。
『ショウにゃ〜ん✨今帰るよ〜❗でもちょっと遅れるかも〜😨でもすぐ帰るからね☺』
いや、おじさんかよ!!!
『わかった。気をつけてね。』
「誰から?」
「え?る、兄さんから。今帰るって。」
「ホントに仲いいね。」
「そうかな…」
「じゃあね!笑!」
「うん!また明日。」
尚の家で別れ、家へと向かうー…のが、いつも通りなのだが…
今日はちょっと寄り道しようかな。
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