テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
法廷の扉が軋むような音を立てて開いた。 白い霧の向こうから、一人の大人が姿を現す。
スーツ姿。 疲れた目。 どこか後悔を抱えたような表情。
螺斜朝美絢は、その顔を見た瞬間、息を呑んだ。
「……先生……?」
裁判長が宣言する。
「証人、入廷。 螺斜朝美絢の担任教師――佐伯 直人(さえき なおと)」
男はゆっくりと証言台に立つ。 その姿は、まるで罪人のように肩を落としていた。
検事が口を開く。
「証人。 あなたは被告の生前を最も近くで見ていた立場だ。 まず、あなたの認識を述べよ」
佐伯は喉を鳴らし、重い声で言った。
「……私は……朝美絢の担任でした。 彼女がいじめを受けていたこと……気づいていました」
朝美絢の肩が震える。
「……気づいて……たの……?」
佐伯は目を伏せた。
「気づいていた。 でも……私は“見て見ぬふり”をした。 クラスの空気を乱したくなかった。 保護者からの苦情も怖かった。 学校の評価が下がるのも……嫌だった」
検事が鋭く言う。
「つまり、あなたは職務を放棄した。 被告が助けを求められなかった理由の一端は、あなたにある」
佐伯は苦しげにうなずいた。
「……はい。 私は……彼女を守れなかった。 教師として……最低でした」
朝美絢は震える声で言った。
「……どうして……助けてくれなかったの……? 先生なら……気づいてくれるって……思ってたのに……」
佐伯は顔を上げられなかった。
「……怖かったんだ。 いじめの中心にいた生徒の親は、学校でも有力者で…… 私は……逆らえなかった」
検事が冷たく告げる。
「証人。 あなたの恐怖は理解する。 だが――その結果、被告は孤立し、魂を追い詰められた」
裁判長が静かに問う。
「証人。 あなたは、被告に対して何を望むのですか」
佐伯は震える声で答えた。
「……赦されたいなんて……思っていません。 ただ……彼女が“自分を責める必要はない”と…… それだけは伝えたい」
朝美絢は涙をこぼした。
「……先生……私…… ずっと……私が悪いんだって……思ってた…… 誰にも必要とされてないって……」
佐伯は首を振る。
「違う。 本当に違うんだ。 悪いのは……君を追い詰めた環境であり…… それを正せなかった私だ」
裁判長が槌を軽く打つ。
「証言、確かに聞き届けた」
そして、朝美絢に向き直る。
「螺斜 朝美絢。 あなたの裁判は、まだ続く。 次は――“加害者側の魂”が証言に立つ」
朝美絢の表情が凍りつく。
「……あの子たちが……来るの……?」
「そうだ。 あなたを追い詰めた者たちの魂が、 この法廷で真実を語る」
砂時計の砂が落ちる音が、法廷に重く響いた。