テラーノベル
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雲一つない、晴天の日。
私は会社の目の前に立っていた。
今日も仕事か、と思うと憂鬱に思えてくる。会社の高層ビルのガラスに反射している太陽の光は、ずっと見ていると目に悪そうだった。
風はほとんど吹かず、蝉の鳴き声がずっと聞こえてくる。たまにツクツクボウシの鳴き声も聞こえてくるが、蝉に掻き消されていて到底聞こえるものでは無かった。
「今週も仕事ですか……」
ため息をつけながらビルに入ろうとした時だった。
「にほーん……」
と私の肩に顔を乗せ、私の横顔を覗き込む。こんな距離感が近い人は一人しか居ない。
「イタリアさん…なんですか……」
「溶けそーう……」
それは私も一緒だ。外にずっと居たら目の前がクラクラしてきそうで、一刻も速く会社に行って冷房の効いた涼しい部屋で仕事をしたい。
「ここに入れば冷房で涼みますよ、
さっさと入りましょう」
「入ったら仕事しなくちゃいけないじゃん……」
「そりゃあ、会社ですからね…」
ごく当然なことだ、それでもイタリアさんの事だから面倒くさがるに違いない。まあ、それも彼らしいといえば彼らしいのだが。
と思っていたら、急に私の目の前に立った。重い肩が外れたことから、何事かと思っていたら。
「ねえ日本…今日さ、会社サボらない?」
「……え」
突然の誘いに困惑していることが分かったのか、詳しく説明し出すイタリアさん。
「昨日ちょっと良いチラシ見つけて…
向日葵畑に行こうよ、期間今日までなんだよ」
だからといって何故私を誘ったのか……ドイツさんとか、フランスさんとかいるでしょう……
「他の奴らに誘っても断られると思ったからさ、君だけなんだよ。お願い。」
多分、私が誘いを受けたら断りづらい性格という事を知っていての行動だと思う。けど、私は正直嬉しかった。なんたって、イタリアさんの事は気になってたし、会社をサボっても二人で一緒に怒られれば怖くない。そう考えた私は、誘いを受けた。
「…分かりました。何処にあるんですか?」
「…ほんと?やったー!!ありがとう、日本!」
貴方の喜ぶ姿が眩しく見えた。私は、この人に弱いなと分かっている。でも、この想いは止められないんです。
数十分後の会社の前で。また一人、サボろうとする人が現れた。
「カナダ、今日は会社に行きたくない気分だ。」
「いつもでしょ」
何気ない会話を弾みながら、高層ビルの前に立つ。
弟ことカナダはすぐに中に入ったが、俺は入らずにずっと固まっていた。とにかく入りたくはない。
「何やってるの兄さん。さっさと中に…」
「悪い、今日そういえば予定合ったわ」
「は?」
勿論嘘だ。でも、こうでも言わないと絶対に連れ回されて仕事をする羽目になる。そんな事は回避せねば。悪いな弟、兄ちゃんはサボってくるぜ。
向日葵畑。それは主に7月中旬がピークの観光スポット。レンタカーを借りて楽しむのも一つの手…らしい。
そして今、そのレンタカーに乗っています。しかし車に乗っても全く着かないのはなぜでしょう?
「あの、イタリアさん。いつ着くんですかこれ」
「あー、大分遠いからね。あと八時間くらい?」
そこまで遠いとは考えていなかったからギョッとする。ということは、午後の5時くらいに着く…という計算になる。
「明日どうするんですか。」
「今日中に帰れば大丈夫。」
それ、勤務時間終わりの会社から家に帰る時間の方が速いような気がするんですけど。
「そういえばさ、日本って親の事どう思ってるの?」
「なんですか急に……」
あまり親の事は思えていない。ただ、皆さんが話してくる内容は、聞いていて気持ちの良い物でも無い。本当に、残虐で、嫌われて当然で…
でも、それでも…
「……まあ、色々合ったと思いますけど。
それでも、今の私に成長出来たのは親のおかげです。ちゃんと、今の日本を私が受け継いで、二度とあのような事はしないと心に誓ってます。」
多分、皆さんは親の事は嫌ってると思う。
私は親の事を許すことは、到底出来ない。
けど、感謝はしている。そんなあやふやな関係。
「……そっか。」
なんだか少し悲しそうな顔をしながら、運転を続ける。イタリアさんも、親の事についてあまり良くは思っていないんだろうな…
「イタリアさん、信号青ですよ」
「あ、本当だ…ごめんごめん」
……しんみりとした空気を打破するための話題ってなんだろうか。
「…イタリアさん、私ピザ食べたいです。
これから昼ご飯の時間ですし、ランチに行きましょう!!」
珍しく私が誘い出した。この空気を一刻も速く抜け出したかった。そのためだけに。
「良いね、行こっか」
ピザ屋に到着した。どうやら、ここはイタリアで一番有名な店なんだとか。技術力が凄いらしい。
そこまで値段も高くもないから、結構知れ渡っている。
「イタリアさんのおすすめってなんですか」
「うーん、マルゲリータかな!」
イタリアさんの好きなピザ屋に来たからか、いつもの調子に戻っていった。
ここのピザは本当に美味しかった。モッツァレラチーズとトマトソース、それにバジルのイタリアの国旗色が特徴のピザで、三つの食材が合わさってコクが出ていた。
「さ、運転の続きするぞー!!」
さっきまでのは何だったのかと思うくらい、イタリアさんはいつの間にか元気になっていった。
車を降り、やっと着いたかと思ったら、そろそろ日が暮れそうな時間だった。
「あのね、夕暮れ時って昼より絶景が見れるんだって!」
ウキウキで話し出すイタリアさんに心が温まる。
夕暮れ時まで、あと少し。
どちらかというと深黄色が管状花を囲っていて、花弁の奥へ行くに連れオレンジ色のグラデーションになっている。
そんな向日葵が一つ一つ元気に育っている訳だから、丁寧に手入れしている証拠だろう。日が暮れたら、更に舌状花の色が強調されて綺麗な景色なるんだろう。そう考えると、速く時間が進んでくれないかななんて思っていた。
「………ねえ、日本」
イタリアさんは勇気を振り絞ったように私に話しかけに来た。そんなこと、滅多にないから気になりました。
「あのさ、あっちに木あるでしょ。
そっち行かない?」
「別に良いですけど、何で木なんか…」
「言いたい事があるんだ。」
そう言うと、私の手首を掴み奥の薄暗い木の道を通る。私はされるがままにイタリアさんに付いていった。
「…それで、言いたいことってなんですか。」
木々が生い茂り、見渡す限り緑ばかりで、家や工場等は一切見えない。自然そのものだった。
「…えっと、」
目をキョロキョロしながら、話し出すイタリアさん。顔は火みたいに赤くて、明らかにドキドキしてることが分かった。
「…したい」
「え?」
「ちゅーしたい……」
はっきりと聞こえるような声で、言われた。
……え?キスしたい??
「……いい?」
確認するように私に許可を求める。
いや、全然悪くない…けど……
こういうのって確認性なのか、と考えてしまう。
こういうの、初めてだからよく分からない……
「……いいですよ」
「ありがとう……それじゃあ目瞑ってね」
そう言われると、私はすぐに目を瞑った。目の前は真っ暗、だけどイタリアさんが居ることは分かる。
「…それじゃあ」
会社のスーツのネクタイが引っ張られる。私の頬にそっと唇が添えられるのが分かる。柔らかく、軽くリップの音が鳴る。ちゅ、と一瞬のキスだっただろうが私は長く感じた。
「目、開けて良いよ」
ゆっくりと目を開けると、少し顔を下に向けているイタリアさんが居た。
「んふ、君顔真っ赤」
「……貴方もですよ」
多分、イタリアさんの言う通りだろう。キスされた頬に指をすっとなぞると、いつもより熱く感じた。
自分の鼓動が速くなるのを感じる。一言一言が慎重になり、何か間違えるとすぐに壊れてしまいそうな気がする。
それでも……
「見に行きましょ、向日葵畑」
「…うん!」
いつの間にか夕暮れ時になっていた。
空は鮮やかな紫色の空が広がっていて、日は沈んでいる。それが向日葵にとっての影となり、暗闇の中にいる黄金な花びらは、私達のことを照らしてくれた。まるで、最後のエールを掛けているみたいだった。
「日本」
長い長い沈黙の後、私に話しかける。いや、本当はたった数秒間だったのかもしれない。イタリアさんも、きっと私と同じ想いを持ってるんだ。
だったら、答えなくちゃ。
「…はい」
「君の、その…頑張り屋で、誰に対しても優しくて…僕がうざ絡みしても笑顔で対応してくれて……」
「時には、厳しく怒ってくれて……」
「そんな所が、ずっと、ずっと…好きでした」
「だから、僕と」
「付き合ってください」
言いたいことは全て言い切ったように、私の方を見た。 良かった、本当に。
「…もちろん、良いですよ!」
それは、まだまだ暑い日が続く、
プロポーズのお話。
ガサガサ、と草むらから男性が出てくる。
その人もまた、会社のスーツを着ていた。
「……あーあ、会社サボるんじゃなかった」
ポツリ、と呟く言葉には悔しさと嫉妬が紛れているような気がした。
fin.
#学園
#日本受け
コメント
1件
初めまして!管理者のウェェイと申します 🇷🇼♪さんの書き方とてもお上手です!とてつもない夏の出来後的な感じの表現大好きです!嬉しさと悲しさが混じりあってすっごく感動を覚えます!アメリカこの後どうなったんだろう、すっごく良かったです!😭