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あんなに朝早くに来たはずなのにアパートを出る時には空は綺麗なオレンジ色に染まりなんだか懐かしい鐘の音が聞こえてくる。家に帰る合図の鐘と共に車に乗り込みマンションまで戻った。
「あ〜疲れた。やっぱり自分の家が一番だな」
ソファーに座りぐたぁっと脱力している俺の隣にドサッと山積みの本が置かれた。背表紙にオメガとか書いてあるけど、ま、まさか……
「隆ちゃん! この漫画でオメガバースを勉強しようね!」
「お、おう……」
やっぱりーーー。疲れてるから後にして、とは言えない雰囲気。頬を少し赤く染め、嬉しそうに俺を見つめる美桜の視線にズキュンッと心臓が撃ち抜かれた。
(か、可愛すぎるだろ。断れるはずが無い)
「じゃあ夜ご飯の準備してくるからそれ読んで待っててね」
「お、おう……」
ルンルンでキッチンに行く美桜の背中を見ながら恐る恐る漫画に手を伸ばす。
(やっぱりBLーーー)
俺に腐女子とバレてからは隠す素振りが全くなくなった美桜のオープンさが逆に凄い。
とりあえず一巻を読んでみると意外と面白かった。アルファ、ベータ、オメガと三種類の姓があつてオメガは男でも妊娠できるらしい。だからその特徴を存分に活かせるのがBLなんだろうな。読めば読むうちになんだか面白くなってきた。
オメガにはヒートという発情期があるらしい、それにさっき広志さんがポーズをとってた巣篭もりとかいうのも出てきた。アルファと番(ツガイ)の関係になるとヒートは治るらしい。アルファがオメガの首を噛めば番の関係に。だから首を噛むとか言ってたのか、と納得。噛むか……キスマークとはまた違うんだろうなぁ、本当色々奥が深くて面白い。
「面白いでしょ〜」
「ん、あぁ、なかなか俺にはちょっと描写がエグいけど、内容は凄く面白いよ。オメガバースって奥が深いんだな」
「そうなのっ! 男の人でも妊娠してママになるぅて神秘的でしょっ! アルファに抗えないオメガ、良き!!!」
両手を合わせ天に拝むような姿勢をとる美桜。この光景は結婚してからもう何度も見ている。見ているけど慣れないものだ。
「お、おう……」
美桜の作った夜ご飯のメニューは豚の生姜焼きとワカメと豆腐の味噌汁、白米だった。一緒に住み始めた頃の美桜の料理とは格段にレベルが上がった、というよりも普通のレベルになったと言った方があっている気が。肉を炭のように焦がすことも殆ど無くなったし、でもまぁ、生姜焼きの付け合わせのキャベツの千切りは太くて繋がっているけど、それもご愛嬌だ。むしろ美桜らしくて微笑ましくなってきてしまう。
お風呂を出た後にもソファーに二人で並んで座り美桜に借りた漫画の続きを読んだ。俺は読むのが遅い。俺が一冊読み終わる頃に美桜は既に三冊目に突入している。そして集中力が凄い。話しかけても基本スルーされるがそれももう慣れた。
「明日は仕事だし、そろそろ寝ようか」
時刻はあっという間に夜の九時を回っていた。
「そうだね。じゃあ片してくるから先にベッドに行ってて」
大量の漫画を両手に抱えた美桜はスッと自室に消えていった。手伝うよと言ったが漫画は自分でしまいたいらしい。漫画の並びにこだわりがあるとか言っていた。
先にベッドに潜り込む。
(本当は今日一日美桜とイチャイチャラブラブするはずだったんだけどなぁ)
いつも良いところで姫咲という悪魔に邪魔される。
はぁーーーと長いため息が自然と何度も出てしまった。
「隆ちゃんどうしたの?」
もぞもぞとベッドに入り俺にピッタリとひっついては覗き込むように見上げてくる。
(いやもう可愛い。やばい。ムラムラしてきた)
「ん、ヒート状態になっちゃったかも」
カプリと首の後ろではなく美桜の鼻の頭を軽く噛んだ。大きく目を開き驚いた表情は一瞬で、すぐに艶のある瞳に変わったのが分かる。
「隆ちゃん、ヒートってのは基本受けのオメガがなるものなんだけど、それは今日は私に攻めろって遠回しに言ってるの?」
思考回路がショートした。
俺はただ欲情したって事を言いたかっただけなのに、なんだか思っていた返事の百億倍凄い返答。
(み、美桜が俺を攻める? 俺の上で腰を振るって事だよな?)
もう俺が受けでも攻めでも何でも良い。よく分からん! でもそれはそれで最高でしかないので、これに便乗してお願いしようと思う。
「じゃあ、それでお願いしようかな」
「なっ……隆ちゃん……」
その日の失った気力を取り戻すかのように熱く淫らに俺は思う存分美桜を抱いた。