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たっつん、うり、なおきり、シヴァの4人が廊下を歩いているとなにやら甘いお菓子の匂いがしてくる。
「なんや、めっちゃええ匂いせぇへん?」
「誰かなんか食ってんのかな」
「それにしては、はっきりにおってきません?」
「家庭科室、近くになかったっけか」
あぁ、家庭科室。と納得した4人は様子を見に行ってみることにした。
甘い香りをさせるオーブンをのあは覗き込む。えともその後ろから覗き込んだ。
「あと10分くらいですね」
「めっちゃいい匂いするね」
今日は、家庭科部の文化祭に向けての試作をするための活動日だった。
毎年、家庭科部のお菓子は大人気でかなりの数を用意しても両日完売してしまう。なので当日にパニックにならないよう、試作日を設けて出来たものを当日よりも安く、必要経費分だけで先生や部員と仲の良い生徒たちに販売する。
ドーナツ、クッキー、マフィン。
ドーナツとクッキーはすでに出来上がっているが、マフィンがあと少しというところだった。
「なんとか予定通りに動けましたね」
「ねー、去年もこんな感じだったなあって思い出した」
のあとえとは焼き上がりを待つ間、他の部員と一緒に片付けをしていく。
「一緒にコーヒー飲みたくない? 牛乳まだ余ってたよね」
「あまってた、あまってた」
そんなところでガヤガヤと男子の賑やかな声が聞こえてきた。それもかなり聞き覚えのある。
えととのあは首を傾げあうと、えとがドアを開けた。
「たっつんじゃん」
「え、えとさん!?」
そこそこ奥まったところにあった家庭科室に、引き返そうかどうしようかと騒いでいた男子4人たちは、ちらりと中を覗くと女子ばかりだった部屋にやっぱり引き返そうとしたそのとき、ガラリと引き戸が引かれてビクリと体を揺らした。
たっつんが怪しいものではないんですぅと内心で叫んだところで、聞き慣れた女子の声に先ほどとは別のベクトルの驚きがくる。
「あれ、うりなおシヴァもいるじゃん。のあさーん、たつうりなおしゔぁがいるー」
「えっ、たっつんさんたち?」
知っている女子とはいえ、気まずい4人は挨拶もそこそこに帰ろうとしたとき、
「あと5分くらいでマフィン焼けるから、食べていきなよ。ドーナツとクッキーもあるし、今ちょうどコーヒーも淹れようとしてたとこなんよねー」
甘い匂いに、まさにそろそろ小腹が空いてくるおやつの時間。さらにコーヒーまで付いてくるなんて至れり尽くせり。
常に空腹と戦う男子生徒たちにその誘いを断るという選択肢はなかった。
4人は目を合わせると頷いて、たっつんが代表して「お言葉に甘えて」とだけ返せた。
4人が家庭科室に入ると、同じクラスの子や元同じクラスだった子がそれぞれに声をかける。4人は自分たちが想定していたよりもウェルカムな雰囲気にようやく胸を撫で下ろす。
「じゃあ、たっつんさんたちここに座ってください」
「食べる前に手洗って、そこのアルコールで消毒してから食べてね」
テキパキと動くのあとえとと他の部員たちを見て手伝おうかと声をかけるが、お客さんなんだからゆっくりしててーとみんなに返される。
そんなこんなしていると、マフィンも焼けたようでオーブンが開かれて、甘い香りがさらにふわりと広がった。
上手くいったのであろう、女子たちの嬉しそうな声がする。
えとは、コーヒーを6ことシュガーと牛乳を持ってきてテーブルに置くとそちらに飛んで行った。
とりあえず、適度にほったらかしにされた男子はそれぞれでコーヒーの調整をしながらその様子を眺める。
「なんか楽しそうやな」
「うん、そうだね」
「ていうかさ、話全然変わるけど」
「なんや」
うりの声がわずかに顰められる。
「家庭科部の女子、レベル高くね?」
「オレも思ってた」
「僕も」
「それに、なんかお菓子の匂いとは違うええ匂いもせぇへん」
「わかる!女子の匂いな!ベリー系みたいな、くわしくはわかんねぇけどよぉ」
なおきりがさらにウワサですけど、と声を顰めたのでみんな集合する。
「家庭科部って可愛い子しか入れないって」
「えっ、そうなん!?そんなんあるん?」
「あくまでウワサですよ。でも、なんか信憑性ありますよねえ」
「確かに」
全員で、マフィンのところに集合している女子達を見る。ギラギラしたアイドル的な可愛さではないけど、ほんわかしたいわゆる本命系の可愛さを持ち合わせた子達が多い。
「えぇなあ」
「いいよな」
「いいですねえ」
「いいよなぁ」
「何がいいの?」
急にしたえとの声に邪な話をしていた4人はびくぅと跳ねた。そんな彼らにえとは眉をひそめたが、深くは気にならなかったようで、半分にカットされたドーナツ、マフィン、ふたつの味のクッキーが人数分のったバットを持ってきた。
「バットのままでごめん。ちょうどいい器が見当たらなくて」
「いやいや、オレたちは貰えるだけでありがたいですから」
「ほんとにほんとに」
「むしろ押しかけたみたいになっちゃいましたからね」
のあも、水色のリボンがかけられたるな用の袋を持ってテーブルに付く。
「のあちゃーん、えとちゃーん、うちら学校回ってくるね。お留守番お願い」
「ありがとうございまーす」
「お願いします」
試作品を販売しにいくために、大半の部員が出ていく。二人は良かったのかと聞けば元々留守番係なのだという。
揃ったところでいただきますと手を合わせた。
「うーまっ、これ」
「すげぇ、売り物みてぇだな」
「売り物だよ、文化祭で売るの」
「えっ、そうなの」
「そうそう、ありがとう。そういって貰えたから安心して販売できるわ」
「二人が作ったのどれなん?」
「わたしたちが作ったのはこのマフィンです」
「焼きたても美味しんだけど、本当は時間がたったほうが味が馴染んで美味しいんよな」
「今でもすごく美味しいですけど。焼きたてのマフィンなんて初めて食べたかも僕」
「コーヒーにめっちゃ合うわあ」
「いいおやつの時間でしょ。誘ったわたしに感謝しろよ。なんて」
「ほんまにえぇ匂いするって言ってこっちの方まで来て良かったわ」
「鼻がききますね、たっつんさん」
放課後ののんびりしたお茶会は部員達が帰ってくるまで続いた。
「あ、他のメンバーにはないしょですからね」
「はーい」
4人の元気な返事がよく響いた。