【オネダリ】
俺は今すごく悩んでいることがある。それは恋人がオネダリにしてくれないことだ。まぁ俺の言うオネダリっていうのは…エッチなやつだったりする。あの人は人を頼ることも知らないような人だし、人に弱みを見せたくないのかもしれない。でも俺にくらい…彼氏にくらい弱いところっていうか、甘えていてもいいんじゃないかと俺は思う。今の目標は恋人に甘えてもらうこと!、というわけで、今日は積極的に甘えてもらおうと思っている。
杉原「霧島さーん、起きてます?」(スッ
霧島「…入る時は入る前から声かけろって何回言っても分かんねぇやつだなぁ…お前は」(ギロ
杉原「あ…すみません、つい…」
霧島「はぁ…別に毎回期待してねぇけど」
杉原「酷いですよ〜」
霧島「だったら直す努力をしろ。」
杉原「はぁい…」
早速怒られてしまった…これは甘えて貰う以前の問題だろう。何とか持ち直さなければ!
杉原「そうだ霧島さん!一昨日オープンしたドーナツ屋、知ってます?」
霧島「あ?なんだそれ」
杉原「隣の街に出来て、凄い繁盛してるっぽいんですよ〜、気になりますよね!」
霧島「あー…まぁ…」
よし!この反応の時は食い付いている時の反応だ!このまま押していけばデートも出来る!
杉原「だったら一緒に買いに行きませんか!?今から!」
霧島「はぁ?今から?」
杉原「はい!今だったらまだ午前中ですし、売り切れにはなっていないと思います」
霧島「…………まぁ…いいけど…」(ソワ…
杉原「はいかわいいー」(真顔
霧島「は?」
おっと、つい口に出てしまった。ほら、こういうところだよ。霧島さん、自分では気づいてないんだろうけど、嬉しいことがある時とかすごくソワソワしてて分かりやすいんだよなぁ…本当に可愛い…でもこんなに分かりやすいのに他の人は霧島さんを分かりづらい人だと思っているらしい。おかしいよなぁ…こんなに分かりやすくて可愛いのに。んー、今思えば俺も最初の頃は霧島さんのことよく分からない人だって思ってたかも…何でだろ。
霧島「おい、そんなとこで突っ立ってないで行くなら早く準備しろ。お嬢の迎え前には戻ってこねぇといけねぇんだから」
杉原「今行きます!」
こうして霧島さんをデート(?)に連れ出すことに成功した。移動途中の霧島さんはドーナツが余程楽しみなのか、すごくホワホワしてて見る度にニヤニヤが止まらなくなる。
杉原「ふふっ…」
霧島「何笑ってんだよ」
杉原「あ、いや霧島さんドーナツ屋行くの楽しみなんだなぁって思って」
霧島「は…」(ピタ…
杉原「無意識なんでしょうけど、結構態度に出てますよ?なんかそれ見てたら可愛くて堪らない気持ちになってきますよ〜…って霧島さん?どうしたんで…ンブッ!!」
足を止めたまま動こうとしない霧島さんを振り向いて見ようとすると急に手で口を塞がれる。直前に十分な酸素を確保していなかったため、酸欠で苦しくなり、霧島さんの手首を掴んで口から離した。
杉原「んんッ!…プハッ!ちょ、なんで…」
霧島「うるせぇ…もう、喋んな…」
俯いたまま大人しくなってしまった。これは…
杉原「…霧島さん、顔見せて?」
霧島「嫌だ…」
杉原「ほら、こっち向いて…」
霧島「ッ…!」
少し強引だったが霧島さんの逃げ道を無くすように顔を両手で覆い、顔を上げる。
霧島さんは顔を真っ赤に染めていた。予想以上の可愛さに言葉が出なかった。
杉原「わ…真っ赤…」
霧島「ッ〜!///離せ!だから嫌だって言った!こんな情けない顔ッ…!」
俺から何とか逃れようとバタバタと暴れ始める。俺も何とか霧島さんが逃げないように再度手首を掴んで力強く抑える。
杉原「何言ってんですか!全然情けなくなんてないです!可愛いです!!」
霧島「はぁ!?///馬鹿じゃねぇの!俺みたいなのがか、可愛いとか頭イカれてんだろ!」
杉原「好きな人が照れ顔してたらそりゃ可愛いでしょうがッ!」
霧島「ッ…お前は…そういう事サラッと言うなよ…」
杉原「?、そういう事って?」
霧島「はぁ…もういい…早く行くぞ。外でこんな言い合いしたくねぇわ…」
杉原「あ、待ってください!」
そんなこんなあって、無事にドーナツ屋についてドーナツを買って組に帰った。道中では霧島さんと久しぶりに長い時間会話をした。いつもはお嬢の世話係の使命があるからお嬢に付きっきりだけど、この時間だけは俺のものなんだと優越感があった。俺は自分で思っているよりも余裕がなくて器の狭い奴なのかもしれない。一緒にいればいるほど、ああやっぱり俺はこの人が好きなんだと思い知らされる。
組に帰ったあと直ぐに霧島さんはお嬢のお迎えに行った。帰ってきた時に霧島さんがドーナツ屋に言ったことを話したのか帰ってきて早々に「ドーナツ!」と目を輝かせていた。そんな光景を微笑ましいなと思った。
八重花「きりしま!どーなつどれがいい?」
霧島「霧島は残ったやつで大丈夫ですから、お嬢が先に選んでください」
八重花「んー…じゃあこのいちごのやつにする!」
霧島「お、決まりましたね。じゃあお茶持ってきましょうか。」
杉原「あ、俺が持ってきます」
お茶を準備している間にも霧島さんとお嬢の会話が聞こえてくる。
八重花「きりしまはどれ?」
霧島「えー、霧島は後からでもいいですよ」
八重花「じゃあわたしがきりしまのえらぶ!」
霧島「え?お嬢が選んでくれるんですか?」
八重花「うん!えーとね、きりしまは…このちょこのやつ。きりしまはちょこすきだから」(ムフ
霧島「あはは…ありがとうございます…」
少し照れたような声だった。ああ、しくった。今の霧島さん、絶対に可愛かった。見たかったなぁ…こういう時にお嬢はずるいなと感じてしまう。俺だって霧島さんをもっと照れさせたいし、もっと俺の前で笑って欲しいし…俺にしか見せないところだって、いっぱい見たい。男の嫉妬は見苦しいって誰かが言ってた気がするけど本当にそうかも…
杉原「…お茶持ってきました」
八重花「すぎはらありがとう」(ニコッ
杉原「いえ…」
こんなに純粋な子に嫉妬とか…マジでやべぇ…どんだけ余裕ないんだよ…自分で自分に呆れてくる。罪悪感で推し潰れそうだし。
霧島「……………」
八重花「すぎはらもどーなつたべよ」
杉原「はい。じゃあ…困ったな、全部美味しそうで決めきれないですよ〜」
八重花「じゃあえらぼうか?」
杉原「え、いいんですか?じゃあお願いします」
八重花「えっとねー…このあんこのやつ」
杉原「あー、それこのドーナツ屋の人気のやつですよ!」
八重花「そーなの?」
杉原「はい!やっぱりお嬢は見る目がありますね〜」
八重花「そうかな…?」(照
杉原「そうですよ!それじゃあ俺はこのあんこドーナツ貰いますね。ありがとうございます」
八重花「うん!」
それから時間が経って夜になった。もう良い子は寝る時間ってことで霧島さんはお嬢を寝かしつけに行った。俺も今日は自分の部屋に戻って風呂も入ったし映画でも見てから寝ようかとDVDを選んでいたら部屋の襖が開いた。
杉原「あれ…?霧島さん?」
霧島「…………………」
杉原「どうしたんですか?仕事ですか?」
俺が声を掛けても返事がなかったので具合が悪いのかと心配になり、立ち上がって霧島さんに近づいた。
杉原「大丈夫ですか?具合悪いですか?」
霧島「……………………」
困ったな…本当に何聞いても黙ったままだ。どうしようかと悩んで、取り敢えず落ち着けるようにお茶を持ってこようと思った。
杉原「取り敢えず部屋に入っててください。今お茶持ってきますから」
そう言って部屋から出ようとした時、腕を掴まれた。
杉原「え…き、霧島さん…?」
悲しそう…というより寂しそうな顔をしていた。いつもの霧島さんらしくないその姿に両手をきゅっと握って子供に語りかけるように優しく話しかける。
杉原「霧島さん。大丈夫じゃないですよね。何があったんですか?俺に話してくれないですか?」
霧島「………………俺は」
杉原「うん」
霧島「よく、分からない…」
杉原「何がですか?」
霧島「分かんねぇんだよ…なんか、痛い」
杉原「怪我したんですか?」
フルフルと首を振る。
霧島「お前が誰かと話してるの見てると、苦しくなる…」
杉原「え…?」
予想外すぎる。なんというか、それってつまり…霧島さんが嫉妬してるってこと…?やばい…嬉しくてにやけてくる…霧島さんは自分が嫉妬したことないから今の自分の状況がよくわかってないんだ。
杉原「霧島さん、それは…嫉妬、じゃないですかね」
霧島「嫉妬…?」
杉原「俺が他の誰かと話してると嫌なんですよね?俺を独占したいってことですよね?」
霧島「は、ぁ…?」
杉原「嬉しいなぁ…霧島さんがそう思ってくれてるなんて。」
霧島「……馬鹿じゃねぇの、嫉妬とか重いだけ…」
杉原「えー?俺は嬉しいですけど…」
霧島「しかもお嬢に、とか…」(ボソッ…
杉原「え?お嬢に嫉妬してたんですか?」
霧島「ッ!?」
杉原「口に出てましたよ」
霧島「…最悪」
杉原「俺たちって案外似た者同士なんですね」
霧島「は…どういう…」
杉原「俺もお嬢に嫉妬してたんですよ。我ながら大人気ないな〜とか思ったりしたんですけど笑」
霧島「なんでお前がお嬢に嫉妬すんだよ」
杉原「…お嬢は…俺に出来ないこと、やってのけちゃうからですかね」
霧島「は?」
杉原「霧島さん、お嬢の前だとすごく表情が柔らかくなるんですよ。笑ったり、照れたり…俺だってもっと霧島さんを笑わせたいし照れさせたいんです。俺以外に見せないところとかいっぱい欲しいんです。」
霧島「俺はそんなに器用な人間じゃねぇよ…」
杉原「分かってますよ。だから、少しずつでいいので俺に甘えて欲しいです。」
俺の言葉を聞いて迷っているのか押し黙った。霧島さんの中で色々整理しているのだろう。だから俺は口を出さなかった。すると俺が握っていた手を遠慮がちに握り返した。
霧島「……………今でも、いいのか?」
そんなこと言ってくれるだなんで思ってもみなかった。興奮しすぎてやばい…でもここで理性を失ってはいけない。霧島さんがようやく甘えてくれるかもって時に焦りは禁物だ。ゆっくり息を吸って、落ち着いて…
杉原「はい…もちろん、喜んで」
そのまま霧島さんを俺の部屋に入れた。その後は…まぁご想像におまかせする…。これは俺と霧島さんだけの秘密だから。
コメント
2件