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#狂愛
胡 蝶 の 夢
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胡 蝶 の 夢
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#初作品
胡 蝶 の 夢
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コメント
3件
悲しいねぇᐡ ߹ 𖥦 ߹ ᐡ
素敵な作品を読ませていただきました…!「過保護という名の箱」という表現が本当に鮮烈で、ローザが門の前で足を止めてしまうシーン、胸がぎゅっとなりました。憧れと諦めが同居したあの微笑み、とても美しくて切なかったです。温室でしか生きられない自分に気づく瞬間の描き方が、繊細で心に残りました。最後にそっと門を閉じるところ、涙が出そうになりました…。素晴らしい一編をありがとうございます🌷
### 『箱の中のお姫様』
その古風で壮麗なお屋敷には、ひとりの「お姫様」が暮らしている。
名前はローザ。彼女はこのお屋敷の広大なバラの庭園と、豪華な部屋から一歩も外に出たことがない。まさに、誰も触れられない「美しい箱」の中に閉じ込められたお姫様だった。
「お嬢様、本日のドレスでございます。お肌を傷つけぬよう、世界で最も柔らかいシルクでお仕立ていたしました」
朝、目覚めると同時に、数人のメイドたちが一斉にローザを取り囲む。彼女が自分で靴下を履くことすら、この屋敷では許されない。
ローザが少しでも歩けば、メイドたちが後ろから絹のクッションを持って付いて回る。転んで擦り傷でも作ろうものなら、屋敷中がパニックになるからだ。
「ああ、私の可愛いローザ。今日もなんて美しいんだ」
食事の時間になれば、両親が彼女をこれ以上ないほどの言葉で溺愛し、甘やかす。
差し出されるのは、骨をすべて抜き取り、毒見を完璧に済ませた最高級の料理だけ。ローザが「あのお菓子が食べてみたい」と呟けば、翌朝にはお抱えの職人が作った、宝石のようなお菓子がテーブルを埋め尽くした。
「外の世界のことなど知らなくていい。あそこは冷たい風が吹き、不浄な泥に塗れた恐ろしい場所だ。お前はただ、私たちの愛だけを食べて、この美しい箱の中で守られていればいいんだよ」
両親はそう言って、ローザの頭に大きな白いリボンを優しく結び直す。
それは彼女を飾るためのものであり、同時に、この屋敷から逃げ出さないように縛る、見えない鎖のようでもあった。
けれど、ローザの心の中には、ずっと小さな「憧れ」があった。
高い壁の向こうから聞こえる、名前も知らない鳥の鳴き声。風が運んでくる、お屋敷のバラとは違う、少し泥の匂いが混じった野の花の香り。
本で読んだ、激しく打ち付ける本物の「雨」や、どこまでも続く「海」。
一度でいいから、このお屋敷の完璧な温室を出て、自分の足で、外の世界を歩いてみたかった。
ある日の夕暮れ。
お屋敷の厳しい警備がほんの一瞬だけ緩んだ隙に、ローザは誰にも言わず、裸足のままバラの庭園へと駆け出した。
生まれて初めて、メイドの支えもなしに走る。
夕暮れの柔らかな光と霧の中、白いドレスをなびかせ、頭の大きな白いリボンを揺らしながら、彼女は高い壁の門へと向かった。
門の隙間から、ほんの少しだけ「外の世界」が見えた。
そこには、舗装されていないゴツゴツとした石の道がどこまでも続いている。冷たい突風が吹き付け、ローザの繊細な肌をちくりと刺した。
「あ……」
ローザは、門の手前でピタリと足を止めてしまった。
一歩踏み出せば、そこは憧れ続けた自由の世界。
けれど、その地面に自分の足を下ろそうとした瞬間、恐ろしさに足がすくんで動かなくなった。
彼女の足は、あまりに柔らかすぎた。靴を履かずに石の上を歩けば、すぐに血が流れてしまうだろう。
彼女の体は、あまりに温室に慣れすぎた。メイドたちが用意してくれる温かい上着がなければ、この冷たい風に吹かれるだけで、凍えて病気になってしまう。
自分は、甘やかされて育ちすぎたのだ。
外の世界に憧れながらも、自分はもう、この「過保護という名の箱」の中でしか生きられない身体にされてしまっている――。
その残酷な事実に気づいた時、ローザは静かに、お屋敷の方を振り返った。
背後からは、彼女を心配して探す両親やメイドたちの焦った声が近づいてくる。
「ローザ! どこへ行ったんだい!」「お嬢様、危のうございます!」
ローザは門の隙間から見える外の世界を、もう一度だけ愛おしそうに見つめた後、そっと門を閉めた。
彼女の顔には、もう悲しみはなかった。
あるのは、自分の運命を受け入れた、諦めを孕んだ美しい微笑み。
ローザはゆっくりと、自分を甘やかし、狂信的に愛してくれる大人たちの待つ、温かくて逃げられない「箱の中」へと戻っていった。
(了)
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