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本気にさせたい恋

86 - 第86話  運命が変わったあの日②

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2024年09月21日

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「あっ、そういえば新人研修の時も、最初は酷かったみたいだね~樹。やる気もないし愛想もないし、ある意味目立ってたみたいだよ。なんであんなんが新人研修に混ざってるんだって」


確かにその通りだった。

まだ働くこともオレの中では面倒で。

それが更に親父の会社だなんて、正直、親父の力なんて借りたくなかった。


離婚して母親と暮らすようになって、だけど母親がどんどん仕事に夢中になる姿を見て、いつからかオレは一人で生活をするようになった。

誰にも面倒かけたくもないし、一人で生きていけると。

だからオレは早くから一人暮らしして、修さんのとこでバイトも始めた。

実際その先なんて、同じようにバイトで繋いで適当に暮らせればいいと思っていた。

特にやりたいこともなかったし、正直親父や母親みたいに夢中になれるものがオレにはその時見つからなかったから。

だから最初は親父の会社に入るつもりもなかったけど、でも多分ホントはどこかで変わりたいと思ってた。

こんな自分じゃないちゃんとした自分に。


そして、その当時多分無意識で気にかけていた透子とその元カレ。

修さんの店でたまたま見かけていた二人。

その時は別に気にも留めなかった。

だけど、正直オレとは違う大人な二人の雰囲気。

幸せそうにしている彼女の姿。

そして包容力ありそうなその男の姿。

それは軽いノリで同年代の女をとっかえひっかえ連れて来て、その場を楽しんでいたオレなんかとまったく違う世界観で。

ただあまりにもオレと違うそんな二人だから、たまたま目に入っただけかもしれない。

たまたま気にかかっただけかもしれない。


だけど、今でもうっすら覚えてる。

若かりし透子が、その男の横で幸せそうにしている姿を。

この男に相当入れ込んでんだなって若いオレでも呆れてしまうくらいの表情で。

今思えば、すげー悔しいけど。

そんな表情にさせたあの男が。

そこまで好きにさせていたあの男が。

まだその時は、そんなモヤモヤした気持ちがあったのかはわからないけど。

だけど、オレはその時まで一度もなかった。

その男みたいに優しい雰囲気で幸せそうに彼女に接すること。

だから少し眩しく見えた。

その時の二人が。

もしかしたら一瞬、自分の親にも重なったのかもしれない。

そんな姿を小さいながらに見たような、そんな気がしたから。


「今は・・あの研修行ってよかったって思ってる」


なのに、まさか、その相手が、新人研修でついてくれた先輩で、透子だったなんて。

しばらく気付かなかった。

だけど。

なんかその時感じたんだ。

初めて会ったのに、なぜか初めて会ったように感じなくて。

直接あの店で透子と話したわけでもなかったけど。

だけど、あの時見た笑顔や優しい雰囲気が、一瞬オレだけに向けられた。

その時、もしかしたら潜在的に感じたのかもしれない。

ホントはオレも求めていたのだと。

誰の言葉も耳に入ってこないし、何も感じることなかったオレが。

なぜあの時、透子の言葉がスッと響いたのか。

なぜあの時、透子には抵抗なく心を開いたのか。

今までのオレなら、あんな状況で、声をかけることすらしなかったはずだから。

自分にも他人にも特に興味もなくて、変化も求めなかった。


だけど、多分。

あれは透子だったから。

だからオレは話しかけて、この人の言葉を聞きたいと思ったのかもしれない。

きっと、もしかしたら、あの店に入る時から。

オレはもう透子を無意識に気にしていたのかもしれない。

だから正直、あの時の言葉と、オレに向けてくれた笑顔で、オレは恋に落ちた。

ホントはずっと芽生えていた想いを、オレ自身も気づかずに、そしてあの時、それをちゃんと自覚しただけだったのかもしれない。


「何? 樹。研修の時の彼女との出会い想い出しちゃった感じ?」

「・・はっ!? えっ!? なんで!? オレなんか口に出てた!?」


透子とのことを想い返していたら、まさかの神崎さんからの指摘で動揺する。


「いーや。嬉しそうなニヤけ顔はしっかり顔に出てたけど(笑)」

「はっ!? ・・・マジか・・」


なんなんだよ、神崎さんどこまでお見通しなんだよ。

神崎さんは、オレが全部言わないでもなんでも見透かして気付いてしまう。

それは嬉しい時もあるけど、こんな時はただ恥ずいだけだ。


「まぁ、お前にとったらあれがある意味運命の出会いだったもんな」

「・・・あぁ」

「樹がそこまで変われたのは、彼女のおかげだからな」


この時、透子と出会ったこと、そこからオレが変われたこと、そしてこの想いが届いたこと、すべて神崎さんは知っている。


あの研修の日、透子に出会って。

あの時は、まだその想いに気付かなかった。

ただ他と違う先輩だなって思ってたくらいで。

だけど、その時の透子の姿や表情、その時の言葉が、ずっとオレの中から消えなくて。

研修で接した時は、正直その先輩がどんな人物かも興味なかったから、名前も意識して覚えようとしなかった。

だから、研修が終わってから、名前も知らなかったことに気付いて、秘書である神崎さんに透子の名前を確認してもらった。

そしてどの部署でどんな人物なのか、どんな活躍をしているのか、断る神崎さんを必死に説得して調べてもらった。


「あの時のお前必死だったからな。望月さんのこと調べてくれって言われて、正直職権乱用でそれはさすがのお前でも最初は断ろうと思ってたけど。でも、今まで見たことないくらいの必死さで初めてお前が頼んで来たから、オレも断れなかった」

「ごめん・・・。オレもあの時はどうにかしようと必死で・・・」

「あぁ。お前がそんな誰か一人を気にかけるなんて初めてだったからな。ついオレもあの時は兄貴の気持ち優先しちゃったよ」

「ホントあの時はありがとう、神崎さん」

「でもそこからのお前見てたらどんどん変わっていくしさ。会社で活躍している望月さんに釣り合いたくて今度はまた必死なんだなって、真剣な気持ち伝わったから」

「神崎さんはずっと見ててくれたしね」

「だからオレも間違ってなかったんだって今は思うよ」

「えっ?」

「望月さんに出会ったことで、樹はここまで変われて、社長がこんな状況になった今、オレもちゃんとお前に任せられる。ここまでの樹に変えてくれた望月さんにはホント感謝しないとな」

「神崎さん・・」


神崎さんはいつだってこうやってオレの味方をしてくれる。

ホントに有難い存在。


「でも、最近会えてないんだろ? 彼女と」

「あぁ・・うん。ここまで忙しいとオレも余裕なくてさ」


ホントはいつだって会いたい。

声が聞きたい。

顔が見たい。

だけど、自由になる時間も少なくて、たまたま空いた時間で彼女と会うなんてことも当然出来なくて。

部屋だって隣ですぐ近くにいるはずなのに。

その部屋に帰れるのも深夜になることも多くて。

そんな時間に訪ねることで、透子にも迷惑かけたくもない。

同じ会社にいるのに、隣に住んでいるのに、少し会う時間でさえ噛み合わない。


透子、今どうしてる?

まだ仕事してる?

たまにはオレのこと想いだしたりしてくれてる?

毎日直接言えない言葉を、自分の胸の中で問い掛けるだけ。

親父の代わりを務めて、親父の社長としての大変さも会社を大切に思ってることも知れたけど。

でもそれと同時に、この状況にいることは、こんなにも透子に会うことさえもままならないんだと思い知る。

だからと言ってこの代理の仕事も、中途半端にせずに、しっかり守っていきたい。

そんな風に自分の気持ちを奮い立たせると同時に、ようやく想いが届いたのに会えなくて自由にならないこのもどかしさも感じて。

そして今まで以上の透子への愛しさを募らせるだけだと思い知らされた。



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