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「逆に天晴れっすね」
深夜になっても仕事をしている山岡に声をかけると、書類に目を落としていた彼は顔を上げ、やや首を傾げた。眉を少し下げ、「なんの話かな」と苦笑している。
「人当たりの良さとか?」
「ああ。生まれつきなんだ。そういう性格なんだよ」
「いや。あれ演技でしょ」
俺が答えると山岡の目が一瞬据わった。ビンゴだ。
しかしすぐにいつもの人当たりの良さそうな表情に戻って首の後ろに手をやった。誤解だよ、なんできみがそんなことを思うのか分からない、などとほざきながら。
あのデブは無能だから何も気付かず「彼は優しいナリ」「いまの当職があるのは山岡くんのおかげナリよ」とか馬鹿なことを抜かし右腕として扱っているが、あいつは俺と殆ど同じ生き物だ。
ずる賢くて金に汚くて、生まれた時から優しさなんて持ち合わせていない。俺と同じ生粋のサイコ野郎だ。ただ俺より優れている点があるとすれば演技力だろう。
真面目で、優しく、思いやりがある、善良な人格を演じることができる。素晴らしい処世術だ。
しかし同類は見抜く。こういう奴は大抵、笑顔の合間、一瞬目が冷たくなる。
「俺許せないっすよ、そういうの」
「きみが何を言っているのか、僕には全然分からない」
「デブにヘラヘラ媚び売って気に入られてんじゃねえって話ですよ」
俺と同じ生き物のくせに。思い切り山岡の顔を殴った。すると彼はどさりと床に倒れ込んだ。椅子も倒れて硬い音を立てる。なんだこいつ? 見た目より弱いのか。あまりにもあっけない。
馬乗りになってもう一発。ドカッ、と気持ちのいい音がした。俺は人を殴るときの鈍い音が大好きだ。山岡は切れ切れに「やめ、て、くれ」と苦しげな言葉を発する。
「認めるまでやめませんよ」
今度は腹に一発。彼は「ぐあっ」と声を漏らした。腹パンはダメージでかいだろうなあ。顔を歪ませ呻いている彼を上から見下ろしていると、なんだか滅茶苦茶に興奮してきた。
「あー、なんか立ってきたんですけど」
「……は?」
「俺、あんま男に興味ないんだけどなあ。しゃぶるかなんかしてもらっていいっすか。苦しいんで」
ふざけんなよ、とでも言いたげな顔をもう一発殴る。ああもうだめだ。股間が痛い。
こいつはあくまで抵抗する気らしく、向こうからは何もしてくれそうにないので俺は自分でベルトを外してペニスを山岡の口元に持っていってやった。
「抜いてくれたら何もしないであげますから」
「何をだ」
「あんたの人生めちゃくちゃにすることかな」
優男風の表情はもうなく、ゴミを見る目で俺を睨みつけている。たまらないな。
「ネットって怖いですよね。奴らが今あのデブに向けてる行動力が全部あんたに向いたらどうします? あのデブが何もしないから暇を持て余して、関係ない他人の人生終わらせるような奴らですよ」
「……」
「あんたが今までしてきたことをネットにリークしたらどうなるんでしょうねぇ。失うのはあのデブの信用だけじゃなさそうっすけど」