テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【閲覧注意⚠︎】この小説はnmmnです。nmmnが苦手な方やタグの意味が分からない方は一度ご確認の上、再度閲覧をするかのご検討をお願いします。
又、
この小説は作者の妄想・フィクションです。
ご本人様(キャラクター等)には一切の関係・関連はありません。
ご迷惑がかからぬよう皆で自衛をしていきましょう!
閲覧は自己責任です。
※その他BL・微改変花吐き病 (🟦×🏺)
今一度ご確認の上、ご理解ご了承頂ける方のみ本文へお進みください🙌
ご確認ありがとうございます!!!
それではどうぞ〜🫶✨
🏺『』その他「」無線「”○○○”」
『っ、゙ッ、っは…ッ、けほけほっ、゙ん…、、っ…ふぅ…、よし…、』
初めて口から花が出てきた時は、それはそれは驚いたものだ。
今となっては後処理も手馴れたもので…、ただ、この喉元を通り過ぎる異物感と気持ちの悪さには未だに慣れることは無い。
毎度の事ながら涙目になって白い花を吐き出し、ポサポサと軽い音をたててビニール袋に溜まるその花を訝しげに見つめる。
『…はぁ、ったく…、またこの花か…、』
つぼ浦がキュッと袋を押し潰してからきつく結ぶ。
一度だけ自身の身体から溢れ出てくるこの花の種類が気になって調べた事があった。
花弁が白くて端が少しだけ緑がかっているその花、名をフランネルフラワーと言うらしい。
触れば柔らかくて、棘がある訳でもなくただただ人畜無害そうな花であった。
しかし、そう何度も大量に人の身体から出てきてもらっては気味が悪いと思うのも仕方の無いことだと思う。
『………この症状、なぁんか聞いたことがあんだよな…、』
日本で暮らしていた頃に聞いたことがあるような無いような…、でもそんな奇病があればもっと大々的に有名な病として取り扱われているはずだ。
つぼ浦は首を傾げながらスタッシュにビニール袋を詰め込む。
『一、二、三…、三週間かァ…』
発症してから日に日に増していく嘔吐の回数に若干の焦りを感じつつも、まぁこの都市は不思議な歪みが多いしなぁと独りごちる。
一応毎度のことながら吐く場所はトイレやら自身の車の中やら、とにかく人目を避けた場所で吐いているので問題は無いはずだ。
何の意味もなくトイレのレバーハンドルを軽く捻って、流れていくその水音を聞きながらため息を漏らす。
『吐くのも意外と疲れるもんだな…』
一日に何度吐くようになったかなんていちいち気にすることもないつぼ浦だが、精神的にも肉体的にも疲れがどっと溢れて来たのか、そうボソリと呟いて扉をゆるく押し開ける。
ギィー…と音を立てて開いたその先には手洗い場があり、大きな鏡には自身の身体とそれ以外。
もう一人の人間がちょうど手を洗っている様子が見えた。
『、(やべ。聞こえてたかこれ…、いや。でも吐くくらいよくあることだろ。酒飲みながら働く奴もいるくらいだしな)』
ぽわぽわと脳内に浮かび上がる人物たちに問題なしだとサムズアップを受けてから、堂々と自分も隣で手を洗う。
流れて行く水は意味もなくパイプの奥底へと落ちて行き、つぼ浦は何となく一連の流れとして手を洗ってから口内に水を含んだ。
『ん、っ…、ん゙ぇ、…っ、ぅ゙ぇっ、ッ、』
ごくりと喉に通ったはずの水がだばりと洗面器へ吐き出されれば、それと同時にポサリとまた小さな花が腹の奥底から溢れ出てくる。
『(クソ…ッ、吐ききれてなかったのかよッ…、)』
手元に乗っかった1輪の花を口内にぱくりと押し戻し、そのまま口元に片手の平をくっつけて、チラリと完璧に身動きが止まってしまった隣の同僚の姿を目に留める。
「………え?」
たまたま隣で手を洗っていた青井は驚いた。
それもそのはずであるが、一番驚いたのはどう考えても吐いた物体が花であるという事実にだ。
ぱちりぱちりと被り物の中でゆっくりと瞬きを繰り返し、青井はつぼ浦の口元に指をさす。
「お前…はい??」
額に汗をじわりと滲ませ、つぼ浦はギュッと眉を寄せた。
口内にある花を飲み込むか否か…飲み込んだとて吐き出している瞬間はバッチリと見られてしまっているという…、なんともあとの祭り過ぎるカオスな状況。
「……出せば?。気持ち悪くない?、それ」
若干えずきかけているつぼ浦の背中を戸惑いつつも緩く撫で、青井はしばらく無言でつぼ浦を鏡越しから眺める。
反射で見えるつぼ浦の姿は弱々しく、後悔の念が冷や汗と共にベタりと顔に張り付いていた。
数十秒グッと我慢をしてから、更にせり上がってきた花々に耐えきれなくなって“゙っはッ…、”と吐血するかのように花を吐く。
「うわ…、さっきよりも出てない?、」
1輪だったはずが…2輪、3輪、喉元をもぞりと通ってポサポサと軽い音をたてながら6輪ほど。
『゙けほけほッ、ッ、っは、はっ…、はっ…、っ、゙あぁ、気持ちわりぃ…、』
「でしょうね。花吐いてるんだから」
青井が背中をトントンと軽く叩けば、つぼ浦は息も絶え絶えに言葉を続ける。
『゙っ、いい、もういいぜ、大丈夫だ俺は、』
「大丈夫じゃないでしょうどう見たって…、」
心配そうな視線を余所に、またグツグツと胃の奥から熱を感じたつぼ浦は洗面台1つ分の横移動をして息を吐く。
『触られると余計に出る予感しかしねぇ』
「え?、めちゃくちゃ優しくやってたつもりなんだけど…、」
『情に訴えても効かねぇぜ』
「あちゃ〜、ダメか(笑)。まぁそんなこと言ってる場合じゃないんだけどね。吐き気はどう?、落ち着いた?」
一旦距離を取って深呼吸をしてみれば、なんとか吐き気も治まり安堵する。
「落ち着いたみたいだね」
『…、あぁ。大丈夫みたいです』
「よし。じゃあ行こっか」
『゙あ?、どこにっすか?』
「そりゃ病院でしょ」
黒革の手袋をキュッとはめ直して、青井はつぼ浦に割と真面目な視線を向ける。
『スー…ッ、い、行かねぇぜ、行かねぇからな、』
「まぁまぁまぁ…ね。」
哀れみの声色が余計につぼ浦の鼓動を早くさせ、瞬間カチャリと自身の手首に冷たい枷がはめられている事実に意識がぶっ飛びかけるつぼ浦だった。
「えー…、うーん…、…うん。重症ですね」
『テメェ具体的に教えろや』
「こら。メンチきらないの」
『切ってねぇぜ。キレてはいるがな』
「はいはいお口をチャック!、はぁ…、え〜っとね…じゃあまずは今の身体の状態を伝えるからな」
ピルボックス病院に強制連行されたつぼ浦は、たまたま治療の手が空いていた神崎治と連行者の青井によって別室のベッドへと張り付けられる。
がんじ絡めな拘束ベッドの上で、何十分も身体を検査されてつぼ浦はキレていた。
通常とさほど変わらない口調でキレながら、じとりと神崎を横になった状態で訝しげに睨みつける。
「ンな顔してもダメだぞ。胃の中はボロボロに荒れてるし、喉も火傷を負ったみたいに爛れてる。咳する時に血が混じってなかったか?」
『覚えてねぇぜ』
「正直に言った方が身のためだと思うけどねぇ」
青井のスマホ画面にチラチラと見え隠れする“トラボルタ”もとい“赤ちゃんキャップ”の文字と…“ジャック馬ウアー”という長めの羅列。
厄介な状況が更に混沌とすることを理解したのか、つぼ浦はしばらく黙ってからまた口を開いた。
『、……はぁ…。…あぁ、まぁ、赤いもんが出てきた時もあったかもな』
「あるのね?。それいつ頃から?」
『……2日前』
「2週間前ね?。了解りょうかい…」
カルテにサササッとペンを滑らせて、神崎は次の質問に移る。
「それで。そのちっちゃな花を吐く原因はなに?、アンタはそんなにバカじゃないし…予想はついてるでしょ?」
答えられなければ“バカ”という称号を得てしまう軽い誘導尋問に、つぼ浦はあからさまに大きなため息を漏らす。
『俺はバカじゃねぇ』
「分かってるって。だから教えてって言ってるでしょう?」
言いづらいのか言いたくないのか、つぼ浦は口を噤んで小さく唸る。
「…、…恋を患った人間がなる架空の病。花吐き病。想い人に愛されないとお前は確実に死んじゃうけど。…その事についてはどう思う?」
『架空なんだろ?』
「架空だけどさ。現にアンタは患ってる訳だし」
日常的に歪みが発生するロスサントスで架空もクソもない。
「曖昧に混ざり合ってるこの街で、その病にかかってしまった。今はその重大さに気がつくべきだね」
「…ねぇ、それって恋が実らないと死んじゃうの?」
「あぁ、えっと…ンー…、、正直な所は分かりません。ダウンを挟むかも知れないし、本当に死ぬかも知れないし…でも確実に言えるのは、つぼ浦が好意を寄せている人…いわゆる想い人と両思いにならないと、…恐らくは…。」
タブレットで花吐き病の事を調べつつ、チラチラとつぼ浦を観察する神崎。
「吐血が二週間前…、初期症状がその一週間前なら…、は?、もう三週間も経ってるじゃんか、」
『?、何か問題あるか?』
「問題大アリなんですけど?、ちょっと待って。てことは…、」
指を一本ずつ折りながらあーでもないこーでもないと呟き、そしてハッキリと神崎の口から言葉が溢れる。
「あと一週間で両思いにならないと、つぼ浦が死んじゃう!、」
両頬に手をパシリとくっつけて、“はぁ〜ッ!、”と声にならない驚きをありありと表現する。
それを見て大袈裟だなぁと苦笑いを小さくこぼしたつぼ浦は、途端に注がれた鋭い視線にキュッと口を噤んだ。
「……ねぇ、つぼ浦」
『、…はい。』
「その想い人って、誰?」
『いやぁ…、申し訳ないっすけど。あんましピンときてねぇんだよな…゙あー…、どうしたもんか…、』
嘘は言っていない。
病にかかるほど人を愛するという好意にピンと来ていないし、言ったとて報われないのは分かりきっている。
『ッ、っ、』
その想い人?とやらを頭の中でふわりと想像して、つぼ浦の喉元にはまた焼けるような痛みがピリリと走った。
「ぁ、袋持ってくるからちょっと耐えてくれ、すぐ持って来るからな!、」
ワタワタとし始めた神崎が病室を飛び出した後、青井は静かに呟く。
「はぁ…、。ンー…じゃあ、ピンと来るその相手を探さないとね」
『?、』
「つぼ浦の想い人。探さないと死ぬかもだから」
“力ずくでも愛させないと…でしょ?”そんな言葉を気だるげに、真面目に呟くものだから、つぼ浦は思わずゴクリと花を飲み込んでしまった。
『っは(笑)、ぁ、』
袋を持って帰ってきた神崎には肺や胃に溜まったらどうするんだと真面目に叱られるし、青井には言わずもがな緊張感を持てと怒られた。
そして、残りの数週間…何となく、何となくだが、面倒な事が起きるとつぼ浦は確信していた。
「それで?、お前の想い人とやらは誰なの?」
「この中にいるんすか?」
「いナかったらどうしようネ」
後日、つぼ浦の意向で花吐き病を患ったことは警察署内にすぐさま広がった。
花に触れたら感染してしまうし、どうしてもその感染で二次被害を出したくなかったのだ。
自分が羞恥心で胸を焼くよりも…、誰かに…仲間に、自分と同じ道を辿らせることの方がずっと苦痛に感じるのがつぼ浦匠という善良な男だった。
『ッスー…、いや…、゙あ〜、だからって、これはどうなんだ?、つーか何の集まりだ?、』
わらわらと見知った先輩後輩が何故だか会議室にぎゅっと集まり、つぼ浦は冷や汗と苦笑いを浮かべる。
「何って…そりゃあ、ねぇ?」
青井は成瀬にチラリと視線を向けて、成瀬はその視線の意図を汲み取ったのか咳払いを一つする。
「゙ん、コホン。あー…、隠すのも無理があるんで、ハッキリ言わせてもらいますね。この集まりは、つぼ浦さんの好きな人を探し出す為の会です」
略して“好きな人探しの会”が、いま本人の意志とは関係なく始まりつつある。
『ッ、カニくん、力になりたいっていう気持ち自体は嬉しいんだが…、その…、今すぐ逃げてもいいか?、』
「ダメっすよ。でも分かります、恥ずいっすよね?。けどけど、見つけないとアンタ死んじゃうらしいじゃないですか」
その言葉に、成瀬の隣にいた猫マンゴーが言葉を重ねる。
「命より大事なものはないヨ?」
『、理屈は分かるんだが…、、これは流石に、』
ピクピクと片目の瞼が痙攣し、これから始まるであろう羞恥的な状況に背筋が伸びる。
『…一応聞くが、どう炙り出すつもりだ?』
「一人ずつつぼ浦と握手してもらって、その後好きって一言言ってもらおうかなって」
その作戦を聞き届けると同時に、つぼ浦の背中からガチャリとロケランを手にする音が響く。
しかしそれを見越していたハッピーセットたちは、至って真面目な様子でつぼ浦の手首に颯爽と手錠をかけた。
『゙っ、おいおい勘弁してくれ、俺こういうの得意じゃねぇぞ?、』
「克服しましょう。今がそのチャンスです」
どんなに拒絶しても、成瀬たちは一歩も引かないし妥協もしない。
ここで“はいそうですか”と手を抜いたら、つぼ浦がもし死んでしまった時に悔やんでも悔やみきれない。
まぁ第一前提に、絶対死なせなどしないけれど。
「日頃の感謝の気持ちを受け取る感覚でいいんで。ね?、」
『それもそれでなんかむず痒いな、』
「後でいくらでもかいてあげますから。はい!、じゃあ皆さん一列でお願いします!」
指揮と列の誘導を強行し始めたハッピーセットたち。
そのままぞろぞろと握手会のように列と時間が溶けていく。
「匠!、こうやって堂々と言えるのなんか嬉しいな!、お前いっつも逃げるからなぁ(笑)、仕方のない同期だ」
ふむふむと小さく頷いて、オルカは両手首に枷がバッチリとつけられているその手を強く握りしめる。
「いつもありがとうな!、大好きだぞ!」
屈託のないその笑みに、つぼ浦は何度目かも分からない細い息をスーッ…と震えた調子で吐く。
しかしどの署員が手を握っても、好きだと感謝を伝えても、頬や首筋に赤みはあれど花を吐き出す様子はない。
「ちょっ…と待って、あと俺らだけじゃない?」
いつの間にかスッカラカンになった会議室。
忙しなく働き続けることを余儀なくされている署員たちは、つぼ浦に日頃の感謝を伝えたあとは速攻で事件対応へと向かっていく…故に、現状あと3人に搾られてしまった。
「俺たちの中にいるってこと?」
「ン〜でも、警察だけじゃなくて市民の中にいる可能性はあるヨね」
「それも捨てきれないなァ…、」
これで違ったら、もっと広範囲で捜索をしなければ…、さもなければ、つぼ浦に言葉の通りの死が待っている。
「じゃあまずは俺ね?」
謎の緊張感が漂う中、猫マンゴーはそそくさとつぼ浦の手を取りクスクスと笑う。
「面と向かっテ言うの恥ずいね。いつもありがとう、好きダよ?」
『っ、おう…、』
虫の息のつぼ浦は、こくりと頷いて口をキュッと噤む。
「あ〜(笑)、俺じゃないみたい」
猫マンゴーは手を離し、その流れで成瀬へとバトンタッチする。
「じゃあオレすかぁ?、口プ課所属カニメイトオーナー、おまけに超絶整ったこの毛並み」
ペンギン頭の成瀬は、つぼ浦の緊張を解してあげようと冗談交じりに言葉を重ねながら手を握る。
「まぁ今どき性別とか種別とか関係ないっすから。全っ然オレは大丈夫です。てか好きです。マジでいつもありがとうございます」
言い方は軽いけれど気持ちは丁寧に乗せて、成瀬はつぼ浦の様子をうかがう。
『、ッ、』
「お〜…。まぁ、違うみたいだな。これは」
“それはそれとして照れてますね(笑)”と悪戯げに茶々を入れて、成瀬はパッと手を離してから青井の方に目を向ける。
「じゃ。次の方どうぞ〜」
「俺?、ンー…、まぁ、やってみる?」
「違ったら次は特大イベント化して、住民全員を集めよう。マジで」
「らびすぴにお願いしたらどうにかナるんじゃない?」
3人で次の案を考えながら、”とりあえず手を握ってみるかぁ…”と黒革のグローブをゆるゆると取り外して、青井はつぼ浦に手を伸ばす。
『っ、』
「はい?」
しかし、つぼ浦は青井が手を伸ばすのを目で追いながら、自身の手を素早く引っ込めた。
その行動には成瀬も猫マンゴーもぱちぱちと軽く瞬きをして顔を見合わせる。
「おー…と。どうしました?、つぼ浦さん」
『……いや。アオセンはなんか違う気がするから…、別に、いいかと思って。な』
少しカタコトな口調で、半歩だけ無意識に後ろへと後退するつぼ浦匠。
「…、違うなら、尚更よくない?。別に」
『……なにがっすか』
「いや…手。繋ぐの」
クイクイと指先だけを折り曲げて、青井は少しだけ不服そうに言葉を乗せる。
「俺じゃないんでしょ?。じゃあ証明しとこうよ。今のお前、怪しさ100パーセントだよ?」
“くッ…”という喉の鳴りが小さく響き、つぼ浦は長々とため息を漏らしてから施錠されているその両手を控えめに差し出した。
「はい。あくしゅ〜…」
緩く握られたその手の平にじわりと汗が滲む。
「どう?。違う?」
青井はジーッとつぼ浦の様子を眺めながら、褐色肌なその手の甲を親指の腹でスルリと撫でる。
『ッっ、゙っ、ッ〜〜…、ッ、゙ぅ、』
結果は言わずもがな。
「つぼ浦?」
『゙っ、ッッ…、は、離して、アオセ、ッ、っ゙ぐ、』
つぼ浦の喉からごぼりと何かを塞き止めるかのような異音が鳴って、成瀬はすぐさまビニール袋を顔の前に差し出した。
その瞬間ポサポサと軽い音が部屋に響き、半透明な袋の中には白い花が溜まっていく。
『ッ゙ぇ、ッ、っは、ッはっ、はっ、はっ、ッ、はっ、はっ、』
花を吐ききったあと、つぼ浦は苦しげに肩で息をしながらポロポロと生理的な涙を無意識に流す。
ガタンッと机に身体を預け、その視線は青井を捉えてから直ぐにぎゅっと目を伏せた。
愛だの恋だのを含んだ眼差しではなく、ただただ苦しげに何かを耐え忍ぶかのようなその瞳。
「、…。成瀬、あとお願いできる?」
「え?、あぁはい。了解です」
青井は机から崩れ落ちそうなつぼ浦の肩に触れることを躊躇い、その場から後ずさるように尾を引きながら離れて行った。
数秒の触れ合いで、言葉掛けで、その人を考えるだけで、どうやら自分の身体は面白いほどによく反応を示す一種のびっくり玩具と化してしまった。
想い人?、である張本人にバレてからはや数日。
つぼ浦は有給消化という名の隠れ身の術をずっと使いながら、自宅のアパートにこもって身を潜める。
『゙ぅ゙ぇ…、ッ、っは〜…、゙あ〜、死ぬな。これ死ぬぜ、流石に吐きすぎだ、ンだよこの量…、』
口元を荒く拭って、つぼ浦はビニール袋にたんまりと入っている花に眉を寄せる。
器用な奴がリメイクでもすれば、きっと何十個ものフラワーリースが出来上がることだろう。
『はぁ…、っ、あと何日だ?、』
入り切らなくなったもさもさのビニール袋をぎゅっと縛り上げて、チラリとカレンダーに目を向ける。
ほとんど使っていなかったその一室に、心ばかりの彩りでカレンダーと絨毯を敷いていた。
なんとも殺風景なその光景に自分でも呆れながら、指を折って残りの日数を数える。
『あと二日?、いや一日か?、』
時間の感覚が曖昧で、つぼ浦はハウジング機能で時計を配置するかどうかを考えてから直ぐにその手を止める。
『……、まぁ、いいか。別に』
いつこの身体が花に殺されるかなんて…知ったところで自分にはどうする事も出来ない。
受け入れるしかないのだから、仕方がない。
つぼ浦は仰向けに絨毯へと寝そべって、そのまま思考の整理を始める。
『………、』
頭の中を巡ってくるのは、いつも通りの忙しない日常ばかりだった。
自由だなんだと言いながら、結局は世のため人のため…ひいては仲間の為に働いていた、生きていた。
『……アオセンは、…まぁ(笑)、いつも通りだろうな(笑)、』
大事な仲間が離れていく悲しさを知っている。
白から黒へ、黒から夢の中へ、一生眠り続ける住民への言葉はいつだって変わらず淡白で、優しくて、少し素っ気ないのだろう。
そうしなければいくつ心があっても足りない。
正義を貫くとは、人としての心を、情を捨てろと言われているようなものなのかも知れない。
『…俺、好きだったのかな、…アオセンのこと』
天井を見ながら真面目にそう呟いて、またぐつぐつと腹の奥が熱くなる。
正直すぎるその身体の反応につぼ浦は困ったように苦笑いを浮かべた。
『そうだよなァ…、゙ぁ〜…、気持ちわりぃ…、』
部屋の中にあるのはカレンダーと絨毯と、パンパンに膨らんだビニール袋が乱雑に数十個。
『…まぁ、これだけ吐いたら死ぬのかもな。本当に』
綺麗に汚いその部屋を眺めながら、またごぽりと空気に混じって花が口から溢れ出す。
『っ゙ぇッ、ッへ、はっ、はっ、ッ、っ…、』
もはや袋に吐き出すことさえも億劫になり、つぼ浦はそのままポサポサと軽い音をたてながら絨毯に花を放置する。
吐きすぎて疲れ、うつらうつらとしてきたその瞼と思考を司る神経。
ゆっくりと意識が途切れかけるその瞬間、“ピンポーン”と聞いた事のないチャイム音が部屋に響いた。
『?!ッ、』
このアパートの一室に身を潜めてから、一度も聞いたことのなかったチャイム音。
つぼ浦の意識は覚醒し、瞬時に息を止める。
廊下の奥にそびえ立つ玄関扉。
その扉を一枚隔てて、…誰かいる。
『……、』
もう一度チャイムの音が響いて、それから静かにガチャリとドアノブが回される音が聞こえた。
『(鍵は閉めてるから開かねぇはず…、)』
半身だけを起き上がらせて、つぼ浦はしばらく玄関扉を遠目から眺める。
一度ドアノブが回されて、それからカチャカチャと音が鳴って、それからもう一度ドアノブが捻られた。
“ガチャッ、キィー…”
『…は?』
開かないはずの扉が開き、つぼ浦はゆっくりと眼孔を大きくする。
そこにいたのは紛れもなく青井らだおで、つぼ浦の脳内には一つの文面が流れていた。
【不動産:この住宅は家宅捜索されている】
「よいしょっと。はぁ〜疲れた。お邪魔しまーす」
『待て待てまてまて!、止まれアオセン!、』
靴を脱いで何の躊躇もなく廊下を進んできた青井らだおに、つぼ浦は静止の言葉を言い放つ。
「、なに。潔癖症?、靴下も脱ぐ?」
『んな訳ねぇだろ部屋の中見ろ!、花だらけだぞ?、見りゃ分かるよな?、』
テンパりすぎて立ち上がる事すらできず、命乞いをしている映画のワンシーンのように半身だけを起き上がらせてストップをかける。
「あぁ確かに。綺麗に汚いね、お前の部屋」
『だろ?、だから…ッおいおいおいっ、』
花畑のようになってしまった絨毯の上をスタスタと歩き、そのままつぼ浦を見下ろす形で自身の腰に手を添える。
よく見知った気だるげなその姿勢に、つぼ浦は慌てふためく事しか出来ない。
『何してんだアンタ、正気か?、』
「つぼ浦に正気を疑われるの嫌すぎるんだけど。…まぁ、正気と言えばそうだし、違うと言われれば違うかも」
曖昧な回答につぼ浦は眉を寄せて、この状況をどうにかせねばと思考を巡らす。
『ッ、゙あー…、じゃあとりあえず。一旦外で話しますか』
「いーや。ここで話すね」
青井が一歩近づけば、つぼ浦の身体が少しだけ後退する。
「…。ねぇ、なんで俺のこと避けるの?」
『あ?』
「トイレの時もそうだったし、握手した時もそうだったし、今もそうだし…。それに、その目ね?」
『目?、』
青井の瞳から映るつぼ浦の表情には、何かに怯えて、何かを耐え忍んで、何かを諦めて…そんな負の感情が一緒くたに混ざって混沌としている。
「俺のこと好きなんだよね?」
『゙ッ、はぁ?。嫌いじゃないが?、』
「じゃあ好きじゃん」
『っッ、ッ〜、゙いや、ぐうの音もでねぇが…、ッ、くっそ…、』
苦しそうに胸を抑えて目を逸らすその姿に、青井は仕方がないなぁといった様子で鬼の被り物をパカりと取り外す。
「はぁ…。ねぇつぼ浦、逃げないでよ。俺も逃げないから」
『?、なに、言ってるか、ッ、さっぱり、』
それでも逃げ腰になるつぼ浦の身体にのそりと跨って、青井は身動きが取れないようにと両手首を床に押し付ける。
『ッ゙っ?!、』
「…花吐き病ってさ。両思いにならないと治らないんだってね。例え相手が好きだと言っても、その言葉を信じて貰えないと…、互いに心の底から受け入れないと、意味がないんだってさ」
ここ数日調べて、よく考えて、自分の気持ちと向き合った結果…青井は覚悟を持ってつぼ浦の元へとやって来た。
「俺がお前の好意を受け入れても、つぼ浦が俺の気持ちを受け入れなくちゃ意味がないんだよ。そうじゃなきゃお前、死んじゃうんだから」
『、冗談きついぜ、ッ、それじゃあまるで、アンタが俺のこと、』
「好きだから来たんだけど。」
『ッ、いやいや(笑)、は?、』
ぎゅっと指を絡めるように床へと押し付ければ、つぼ浦は目を見開いてカチリと固まる。
「…失いたくないって思ったから。…俺のせいで花を吐くお前を見て、ちょっと嬉しくなっちゃったから。…ごめんね。俺、お前のことが好きみたい」
“良かったねの方が正しいのかな…”そんな言葉を呟いて、青井は薄く目を細める。
「どう?。病気治りそう?」
しかし、言葉よりも先につぼ浦の口から零れるように出てきたのは白い花ばかり。
『゙ッは、はッ、はっ、』
「やっぱダメかぁ…信じきれてないね。お前」
そのなによりの証拠に、つぼ浦の瞳は相も変わらず不安に揺れていた。
青井らだおという男が好きだった。
どんなにやらかしても、どんなに問題を引き連れてきても、特殊刑事課対応課として…どうしようもないこんな俺の尻拭いをしてくれていた。
尊敬が敬愛に変わって、敬愛が純粋な恋へと変わって、その瞬間に…嫌われてしまったらどうしようという恐怖も生まれていた。
俺の好意がバレてしまったら…もしかしたら、軽蔑されるのではないかと思った。
嫌われたくない。
好きだとバレたくない。
そんな思いが、こんな状況の中でも胸の内に根を張っている。
「言葉だけじゃ伝わらない?。どうしたら分かってくれる?」
ドラマを見ているかのように、目の前に映るその光景がどことなく現実味を帯びずに流れていく。
『…、悪りぃアオセン、…俺、ダメみたいだ』
こんな腰抜け野郎だから、俺は花吐き病を患ってしまったのかも知れない。
緊迫とした状況は理解したが…それでも青井の気持ちを信じきれない罪悪感で、つぼ浦はグッと唇を噛み締める。
「……はぁ…。」
青井の深いため息一つでぴくりと肩が震え、青井はそんなつぼ浦の身構える姿勢に眉を寄せる。
「ンー…困ったね。伝えたい事はちゃんと伝えたし…、それでも分かってくれないなら…、。いや…俺にもまだ考えはあるよ」
奥の手として考えていた行動を、青井は取らざる負えないのかもしれない。
「これしたら多分、お前めちゃくちゃ怒るだろうけど…(笑)、まぁ仕方ないよね。先に謝っといていい?」
『謝るくらいならやらなきゃいい話だぜ?、』
「それもそうなんだけどー…、だってつぼ浦が信じてくれないからぁ…(笑)」
絡みつくような青い瞳が弧を描き、その口元も緩く笑みを浮かべている。
確かに今の青井らだおは正気じゃない。
つぼ浦の命が天秤にかけられているこの状況で、青井はさもどうにかなると思いながら緩く笑っていた。
「ごめんつぼ浦。はい、ぎゅ〜…、」
『゙っ、ッ、ッッ、っ、ちょ、アオセッ、っ、』
拘束されていた手が解放され、その代わりに背中へとその腕が回される。
背中と床の間に青井の腕が入り込み、つぼ浦はまたポサポサと花を吐き出した。
しばらく抱きしめられて、それから青井はつぼ浦を引っ張りあげる形で座り込む。
カチリと目が合い、つぼ浦はその瞬間に理解した。
『ぇ、ぁ、』
「あぁ。ついちゃったね、花」
吐き出されたその花が、花弁が、青井の首筋や衣服に付着する。
青井は何の戸惑いもなく、その花の一つを手に取ってぷちりと花びらを一枚引きちぎった。
「ン。、ン〜…、綺麗だけど、美味しくはないな…」
一枚だけその花びらを舌に乗せて、そのままコクリと嚥下する。
『ッ、ぁ、アンタ、何して、』
「手、貸して」
有無を言わさず青井がぎゅっとつぼ浦の手を握れば、青井の表情が一瞬だけ険しくなる。
そしてポサポサと…、“青紫色の花”が青井の口から零れ出た。
「けほけほッ、ッ、っは、はっ…、はっ…、゙あ〜、かかった、はは(笑)。喉痛すぎ…(笑)、」
焼けるような喉の痛み、ぐつぐつと煮える腹の奥。
正真正銘、青井は花吐き病を意図的に患った。
つぼ浦は呆気にとられ、青井は咳き込み、青い花と白い花が絨毯へと散らばる。
「あーあ(笑)。どうする?、俺も愛されなくちゃ死んじゃうんだけど。…想い人は、一体誰だろうね?」
言葉だけでは伝わらない想いを、青井はつぼ浦に見せつけるように花として手渡す。
カーテンから差し込む柔らかな光に照らされて、その光景はやけに美しく描かれていた。
「らだおのバカ!、あほ!、鬼ッ!、」
『そーだそーだ!、言ってやれ猫くん!、』
後日、青井は駐車場に隣接するその階段で、コテンパンに怒られていた。
珍しくも青井がつぼ浦たちに怒られているという構図に、署員たちはパシャリと密かに証拠を残して事件現場へと向かっていく。
「あ。フリーなんで動画も大丈夫ですよ〜」
「良くないわペンギン貴様許すまじ…、」
「正座!、らだおは今立っちゃダメなの!、」
「ハイ、ごめんなさい」
プンプンと仁王立ちで怒っている猫マンゴーの隣には、あと数日で死ぬと宣告されていたつぼ浦匠が五体満足で立っている。
健康的な褐色肌に、ムスッとしたその表情。
猫マンゴーと同様、もちろんつぼ浦匠も青井に対して怒っていた。
『アンタなぁ、俺が一番嫌がりそうな方法で治療しやがって。完治したから良いけどなァ、ダメだったらどうするつもりだったんだ?、゙ああ?』
さながらヤのつく強面っぷりで、つぼ浦は青井に説教をする。
「だってさ〜、言葉じゃダメだったからぁ…、」
「百歩譲ってつぼ浦に許可取っテからじゃないとダメでしょ!」
「でもマンゴーも俺の立場だったらそうするでしょう?」
「する!、でもつぼ浦を泣かせるのはダメ!」
『いやするのかよ、猫くんそこは否定するところだぜ、』
自分の命を天秤にかけた青井に対して怒るつぼ浦と、つぼ浦に許可を取らずに泣かせた青井に対して怒る猫マンゴー。
成瀬はなぜだか青井の後ろで腕を組み、両者の意見にウンウンと頷くばかりである。
「ンー…、じゃあつぼ浦、泣かせてごめんね?」
「(じゃあって言った…)」
全く反省の色が見えない声色で、青井は鬼の被り物を取り外してから小首を傾げてぺしょりとした表情だけを貼り付ける。
つぼ浦は青井の顔にめっぽう弱かった。
『ッ、っ、』
「もうしないからさ。今後は色々とちゃんと許可も取るし…、」
「ちなみに色々ってなんすか?」
成瀬は少しだけ語尾を弾ませて、青井とつぼ浦の顔を交互に見つめる。
「色々って、…そりゃあまぁ、あんなことやこんなこ、」
『゙あ〜ッ!!、猫くんの前で言うなンなことッ!!、』
つぼ浦は猫マンゴーの両耳を抑えて吠える。
「具体的なことは何も言ってないよ(笑)」
「何も聞こえてナイヨ〜」
「ふは(笑)、じゃあアレですか?。最終的にはハッピーエンドって感じ?」
「うん。そういうこと。ね?、つぼ浦」
わなわなと猫マンゴーの耳から両手を離して、つぼ浦はグッと喉に力を込める。
「もう花は吐かないし。…俺たち、好き同士だもんね?」
青井の口から飛び出てくる“すき”はまだつぼ浦にとっては破壊力のあるもので…また無意識にズリズリとサンダルを後ろに滑らせる。
しかし、それを見ていた猫マンゴーがつぼ浦の手をパシリと掴み、そのまま青井の方へと差し出した。
「じゃあ仲直りの握手ね。らだおは立つ!」
「ハイ。ありがとうございます」
ぎゅっと握られたその手には、いつだかと同じように汗がじわりと滲む。
「ふふ(笑)、仲直りしてくれるの?。…俺と一緒に、生きてくれる?」
『ッ、っ、』
少し真面目な声色で呟かれたその言葉に、つぼ浦はカチリと身体を硬直させる。
しかし、もう口から花は出てこない。
その代わりに、小さく小さくつぼ浦の口から熱を持って言葉が零れた。
『ッ…、…、ンなの、当たり前だろ』
青井はその小さな小さな言葉を聞き逃すことなく、瞬間にこりと満足気な笑みを浮かべる。
青井もつぼ浦も、もう花を吐くことはないだろう。
成瀬が言った通り、これが最善のハッピーエンド、穏やかな幸せであった。
零して、その想い。[完]
コメント
1件
コメント失礼します。 最高すぎてにやけ顔が止まらなかったです
#868
3,088
a@見る専