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長期任務中盤/吹雪渓谷・遭遇戦
吹雪が視界を削る。
白と灰だけの世界。音は、風と──刃が擦れる金属音だけ。
カピターノは前線で敵の動きを押さえていた。一撃一撃が重く、静かで、確実。
その少し後方。
ドットーレは崩れた岩壁にもたれ、仮面の奥から戦場を観察している。
ド「ふむ……予想より統率が取れている。 実験体としては上等だね」
彼の足元には既に数体、急所だけを正確に撃ち抜かれた敵が倒れていた。
だが──
ドットーレはわざと、一歩、前へ出る。
遮蔽物の外。完全な射線上。
カ「……ドットーレ」
低い声。
カピターノは振り返らない。だが気配だけで察知していた。
ド「囮観測だよ。 君がどこまで反応速度を上げられるか、興味が──」
言い終わる前。
吹雪の奥から、重装の敵が突撃してくる。
斧の軌道は一直線。ドットーレの無防備な胸元へ。
避けない。
いや──避ける気がない。
仮面の奥で、彼は笑っていた。
(どう動く? 君は──)
その瞬間。
黒い影が、視界を完全に遮った。
衝突
金属が砕ける音。
斧は、カピターノの肩口から胸部装甲を深く抉って止まっていた。
カ「……ッ」
鈍い衝撃音。
彼はそのまま敵の武器を掴み、無言でへし折る。
次の瞬間には、敵は雪面に沈んでいた。
だが──
血が、落ちる。
白い雪に、濃い赤が広がった。
ド「……は?」
ドットーレが一瞬、思考を止める。
ド「君……」
カピターノは何も言わない。ただ前に立ったまま、動かない。
血が、装甲の隙間から流れ続けている。
ド「庇ったのかい? この私を?」
沈黙。
風だけが鳴る。
カ「……任務遂行の障害を排除しただけだ」
声は低く、平常。
だが呼吸が、僅かに重い。
ドットーレはゆっくり立ち上がる。
そして──
彼の背後から、装甲の損傷部に手を当てた。
ド「損傷深度……想定以上だね」
カ「問題ない」
ド「問題大有りだよ、カピターノ」
声色が、珍しく低い。
ド「君は観察対象であって、 消耗品じゃない」
カ「……」
ド「私の実験を壊す気かい?」
包帯代わりの医療布を取り出し、手早く止血処置を始める。
カピターノは動かない。
ド「君ね……」
ドットーレが小さく息を吐く。
ド「囮は私の役割だ。 勝手に奪うな」
カ「……敵の攻撃速度は、君の予測を上回っていた」
ド「だから?」
カ「だから、排除した」
ドットーレの手が一瞬止まる。
仮面越しでも分かる。彼は笑っていた。
ド「はは……なるほど」
包帯を強く締める。
ド「痛い?」
カ「問題ない」
ド「強がりだね」
少しだけ距離が近い。
吐息が白く混ざる。
ド「次に同じことをしたら──」
ドットーレは彼の装甲を軽く叩いた。
ド「君を拘束してでも後方待機させる」
カ「……命令か」
ド「観察者としての権限だよ」
一瞬の沈黙。
そしてカピターノは、小さく息を吐いた。
カ「……了解した」
戦闘終結後
焚き火の前。
応急処置は終わっているが、出血量は多かった。
カピターノは座ったまま動かない。
ドットーレは向かいに腰を下ろし、記録端末に何かを書き込んでいる。
ド「しかし興味深いね」
カ「……何がだ」
ド「君の反応だよ」
視線を上げる。
ド「私が危険に晒された瞬間、 君の行動速度は通常比の1.8倍」
カ「測るな」
ド「測るさ。研究者だからね」
焚き火が爆ぜる。
沈黙。
そしてドットーレは、少しだけ声を落とした。
ド「……死ぬつもりは無いよ、私は」
カ「……」
ド「君に庇われるほど、 無防備でもない」
カピターノは何も言わない。
だが視線だけが、一瞬こちらに向く。
ド「でも──」
ドットーレは肩を竦めた。
ド「今回のは、少しだけ」
火を見つめたまま続ける。
ド「計算外だった」
風が吹く。
焚き火の火が揺れる。
ド「次からは気を付けるよ。 君に無駄な損傷を与えるのは、非効率だからね」
わずかな間。
そして。
カ「……そうしてくれ」
低く、短い返答。
吹雪の夜は続く。
だがその火の前だけは、奇妙な静けさに包まれていた。
観察者と、被観察者。囮と、盾。
それでも。
互いの距離は、確実に以前より近付いていた。
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