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長期任務中盤・夜営天幕
外は吹雪。
焚き火は既に落とされ、天幕の中は静寂だけが支配していた。
その静寂を破ったのは――
荒い呼吸。
ドットーレは記録端末から視線を上げる。
ド「……」
隣の簡易寝台。
カピターノが身体を強張らせ、浅く息を繰り返している。
ド「副作用発現か」
昼間。
治癒促進薬の投与を提案した際、彼は拒否した。
興奮作用を知っていたからだ。
だが。
ドットーレはゆっくり立ち上がる。
ド「予測通り、治癒が追いついていない」
寝台脇に膝をつく。
ド「このままでは壊死が進む」
カ「……投与は不要だ」
声が低い。
だが明らかに呼吸が乱れている。
ド「説得力に欠けるね」
カ「理性が鈍る薬は使わない」
ド「任務中に機能停止する方が非合理だ」
返答は無い。
ただ呼吸がさらに荒くなる。
ドットーレは小さく息を吐いた。
ド「……一度は納得したが、撤回する」
薬剤注射器を取り出す。
カ「やめろ」
ド「拒否権はない。君は患者だ」
カピターノが腕を払おうとする。
だが負傷で力が入らない。
そのまま――
ドットーレは彼の手首を寝台に押さえつけた。
ド「動くな。針がズレる」
カ「……ッ」
布越しに触れる体温が異様に高い。
ド「既に発熱している。
興奮作用は投与後さらに増幅するだろう」
カ「分かっているなら……」
ド「だからこそ観察価値がある」
一瞬の沈黙。
そして。
針が、打ち込まれた。
カ「……ッ!!」
肩が大きく跳ねる。
薬液がゆっくり注入されていく。
ド「完了」
針を抜く。
だが――
変化はすぐに現れた。
ド「副作用発現か」
呼吸がさらに深く、重くなる。
胸部装甲の隙間から覗く肌が、
熱を帯びて赤い。
ド「心拍数上昇……予想以上だ」
記録を取ろうとした瞬間。
手首を掴まれた。
強い力。
カ「……触れるな」
声が低い。
だが震えている。
ド「薬効だ。理性が揺らいでいる」
カ「分かっている……だから離れろ」
ドットーレは逆に距離を詰めた。
ド「興味深い反応だ」
空いている手で、首元に触れる。
ド「体温は……」
カ「ドットーレ」
低く名を呼ばれる。
その声に、普段の威圧が混ざらない。
ド「どうした?」
カ「……これ以上、近付くな」
吐息が白く混ざる距離。
だがドットーレは動かない。
ド「拒否反応か、それとも」
指先で脈を測る。
ド「別の衝動か」
次の瞬間
身体を引き寄せられた。
仮面同士がぶつかる距離。
荒い呼吸が、至近で混ざる。
カ「……観察は……終わりだ」
ド「終わらないね。まだデータが――」
言葉が止まる。
掴む力が強い。
体温が、異常に高い。
ド「……なるほど」
声がわずかに低くなる。
ド「興奮作用、ここまでとは」
だが彼は笑う。
ド「面白い」
カ「……ッ」
さらに距離が縮まる。
吐息が、仮面の隙間を掠める。
ドットーレは一瞬だけ手を伸ばし――
その頬装甲に触れた。
ド「理性はどこまで保つ?」
沈黙。
荒い呼吸だけが響く。
そして――
カ「……これ以上は、任務に支障が出る」
低く、絞る声。
カ「離れろ」
ドットーレは数秒観察し――
ゆっくり手を離した。
ド「了解した、隊長殿」
距離が戻る。
だが空気は熱を帯びたまま。
ド「今夜は観測記録が忙しくなりそうだ」
カ「……記録するな」
ド「それは無理な相談だ」
吹雪の音の中。
二人の呼吸だけが、
しばらく重なり続けていた。