テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
霧が晴れた先にあったのは、静かな海だった。
空は鈍い灰色で、海面は油を垂らしたように濁っている。
空と海の境はなく、視界のすべてが混ざり合って、色を失っていた。
「……ここ、僕、知ってる」
特牛の声が震える。
「灯が、あそこにある。あの形は……」
観音埼が指を差す。
遠く、波間に見えるのは――
烏帽子島灯台。
だがその姿は、見慣れた彼の姿とはまるで違っていた。
マントは風に千切れかけ、杖は黒く染まり、
目元には影がさし、まるで“別人”のような佇まいだった。
「烏帽子島……!」
特牛が駆け出そうとした瞬間、部埼がそれを制した。
「待て。」
静かな声。けれど確かな重みがある。
「これは、俺が行く。」
そう言って、部埼は一人、濁った海へと足を踏み出した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!