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vnotの場合
「ねぇ音鳴」
「どした?」
「俺が吸血鬼になったって言ったら驚く?」
「はい?」
現在、この街では吸血鬼化する歪みが多発しているらしい。
突然降りかかった己や仲間の変化に街中は大混乱。
……というわけでもなく、少し変化が起こっただけで、街は早くも新しい日常に順応し始めていた。
そんな街でまた一人、歪みに取り憑かれた男がいた。
「てことで、なっちゃいました」
「なっちゃいました、じゃないねん」
ツッコむとケラケラと笑う刃弍。
随分楽しそうだが、こちらは全然楽しくない。
「冗談ちゃうよな?」
「そんな冗談言わないって。……といっても証拠っぽい証拠は無いんだけど」
強いて言うなら……と口を開けてほんの少しだけ伸びた犬歯を見せてきた。
「血とか欲しくならんの?」
「いや別に。あー、でもなんいつもより食べる量が増えた気がする」
「それは単純に腹が減ってるだけやろ」
「そうとも言う」
「そうとしか言わんねん」
他になにか証拠になりうるものはあったかと思考を巡らせる。
「あ、ほな、日光は?」
「今朝ふつうに浴びてきた。溶けてない」
「にんにく」
「昨日ラーメンに入れた。うまかった」
「十字架」
「そんなもん家にないでしょ」
「……せやな」
聞けば聞くほど、吸血鬼らしいところが一個もない。
ちょっと牙が伸びて、ちょっと飯が増えただけ。
それはもう、ほぼ人間なのでは。
「まあ、困ってへんならええわ。なんかあったらすぐ言えよ」
「……なんでも?」
「あぁ、まぁ出来ることなら」
その言葉を聞いて刃弍はへらりと笑い、それからふと、音鳴の顔をじっと見た。
いや、顔ではなく、その少し下。首のあたり。
その視線に気付いた音鳴は思わず手で首元を隠す。
「……なに」
「いや?」
首をかしげて鼻をすん、と小さく鳴らす。
「音鳴さ、なんか今日いい匂いしない?」
無言で一歩下がる。
「……血は飲まん言うたやろ」
「うん、言ったね」
肯定しながらもゆっくりとこちらへと近づいていく刃弍。
「でもなんかさ、無性にお腹空いてんだよね」
後ろに下がった分だけ、刃弍が詰めてくる。
一歩、また一歩。
気付けば背中が壁にぶつかっていた。
自分の危機を察し、背中に冷や汗が垂れる。
「ね、ちょっとだけならいいでしょ?」
気付けば肩を掴まれ、逃げないように捕らえられていた。
首筋に、ひやりとした息がかかる。
心臓が嫌になるくらい大きく跳ねた。
喰われる覚悟を背負って目を閉じる。
「……なんちゃって!嘘だよ〜」
「は?」
翠♪(不定期投稿)
87
きなこもち
102
ℙ𝕚𝕖𝕣𝕣𝕠𝕥
95
目を開けると、すぐそこに刃弍のいつもの、へらっとした笑顔があった。
肩を掴んでいた手も、いつの間にか離れている。
「ごめんごめん、あまりにも音鳴がビビってくれるから脅かしすぎちゃった」
「……は?」
口から出たのは、それだけだった。
数秒遅れて、じわじわと理解が追いついてくる。
「なんやそれぇ!!」
叫びながら思いきり刃弍の脇腹に肘を叩き込んだ。
「いった!?ちょ、本気で痛い!」
「本気で叩いとるんやから当たり前やろ!!なにが嘘や!こちとら本気で覚悟決めとったんやぞ!?」
「だからそれはごめんって!」
──────────
大型後にふらふらとどこかへ向かう刃弍を追いかけたのが間違いだった。
気がついたときには、人気のない裏路地に連れ込まれていた。
いつもと雰囲気が違うことに気付いたのは、声をかけるより前だった。
おぼつかない足取りで奥へ進む背中に、嫌な予感がじわりと湧く。
「刃弍!」
肩に手を置いた瞬間、刃弍がびくりと反応して振り返る。
「音鳴……?」
「なにしてんお前。疲れとんならさっさと帰るで」
「……ごめん、ちょっと、頭がぼーっとしてて」
声にいつもの張りがない。
焦点の合わない目で、それでもまっすぐ見つめてくる。
その視線が、じわじわと首元へ落ちていくのが分かった。
思わずこの前と同じように首元を手で隠す。
冷や汗で濡れた手のひらが気持ち悪い。
首元を隠した手の甲に、刃弍の視線がまとわりつく。
「……刃弍?」
「……」
答える代わりに、刃弍の手が音鳴の手首をそっと掴んだ。
振り払おうとしたが、力が全く敵わない。
ゆっくりと、首元から手が引き剥がされていく。
「な、ちょ、待て待て」
「……待てない、かも」
壁に背中を押し付けられ、逃げ場がない。
首筋に鼻先が触れる寸前まで、顔が近づいてくる。
「おい!やめろって……!」
振り払おうとした手首は、逆にきつく握り込まれるだけだった。
「頼む、待って」
声が掠れる。
渾身の力で腕を突っ張っても、刃弍の体はびくとも動かない。
踏ん張ろうとした足も、壁との間で行き場を失っていた。
逃げようと捻った体は、逆に強く引き寄せられる。
首筋に鋭いものが立てられた感覚がした。
「……っ、あ」
ぶつりと皮膚を割く音が聞こえ、痛みよりも先に、ぞわりとした感覚が背筋を駆け上がった。
体温が奪われていくような、体からなにか抜けていくような感覚がして、視界が歪む。
「……ばに」
振り絞った声は、目の前の刃弍には届かない。
薄れゆく意識の中、肩に置かれた刃弍の手に、わずかに力がこもるのが分かった。
コメント
2件
大好きです〜愛してますーvnotは神です〜!