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担任の林田が放課後のHRで言った。
合唱コンクールがあると。
何だそれは、と雪乃は疑問を浮かべる。
要するにクラスごとに歌を歌ってどこのクラスが一番上手かったか決めるらしい。
クラスの結束を高めるという目論みもあるらしい。
そして優勝すれば良いことがあるらしい。
なるほど。と雪乃は納得した。
学校ではこういうイベントもあるんだな。
「じゃあ指揮者と伴奏者決めてくれ」
それだけ言うと教室の後ろの空いた席でテストの採点を始める林田。
放任主義とはこのこと。
「えーと、じゃあ指揮者やりたい人」
学級委員が立ち上がり教卓で話し出す。
しかし誰も手を挙げない。
「じゃー俺やる」
静寂の中手を挙げたのは五十嵐。
「出来んのか五十嵐」
「指揮者って顔してねぇだろ」
「うるせぇ。言っておくが俺は音痴だ。指揮者にしておくのが最善だと思うぜ」
自信満々に自分でそう言うので誰も何も言えなかった。
「じゃー次、伴奏者したい人」
またしても誰も手を挙げない。
自然とピアノを弾ける人がやることになるのだろうが。
「…じゃあ、私やります」
女子が手を挙げた。
「はい、じゃあミナミさんで決まり。あとパートリーダーも決めたいんだけど…」
「はーい、立花さんがいいと思いまーす」
女子の1人が言った。
「確かに。絶対音感持ってるんでしょ?」
「あの歌姫の娘だもんねー」
「どこのパートも余裕で歌えそう」
それに続きみんなが賛同する。
「えーと、どうかな立花さん」
学級委員と、クラス中の視線が立花美希に注がれる。
雪乃も窓際に座る彼女を見た。
長くて綺麗な黒髪に、スタイルのいい体躯。
そして何より美人。
しかしその表情に感情はなかった。
そして静かに口を開く。
「悪いけど、私は歌わないから」
教室の空気が凍りつく。
「…え、っと、歌わない…とは?」
学級委員が聞きづらそうに問いかける。
「そのままの意味だけど。私歌はNGなの。悪いけど私抜きでやってくれる?」
強めの口調で言い放つ。
その有無を言わさぬ雰囲気に誰も何も言えなくなる。
代わりにひそひそ声が聞こえてきた。
「何あの態度、偉そうに」
「やっぱ有名人の娘は違うなぁ」
「歌NGって、親に禁止されてるとか?」
…耳障りだ、と雪乃はため息をつく。
「えーーーっと、じゃあパートリーダーは追々決めるとして、また近々練習日決めるので詳細はまた言いまーす」
無理やりまとめて、何とも言えない雰囲気のままHRは終了した。
担任は気にせず採点を続けていた。