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マッドハッター~魔のサーカス テント内にて~
アルマロスの体内で目的地に着くまでの間、私は地図を確認していた。 ここ、エスタエイフ地方は全部で九つの大陸があるのだが、そのうちまだ一つしか訪れていない。それが、スパイキーとスパイクがいた<ザーロ>。 <ザーロ>は、年を通して温帯な地域で小麦の栽培が他の地域より豊富なため、小麦粉を使った料理が人気だという。実際、私もその小麦粉を使ったスープを口にしたが、薄味で少し物足りなかったのが少し残念だった。
そして、今回向かうのはここより少し移動したところ、<ユナティカ>を目指している。 <ユナティカ>とは、海に近く、唯一船を使って他国と交易が出来る町だ。漁師が多いため、見たことのない魚が大量に釣れるんだとか。おまけに、魚料理が絶品ときた。 しかし、残念ながら今回は観光目的で<ユナティカ>を訪れるのではない。
「ハッター!」
私の背後で、<ハッター>と呼びながら子供のようにスタスタ歩いてくるスパイキーとスパイク。二人のいた町を出てから数日しか経っていないが、どうやら、この暮らしに慣れたようだ。 その証拠として私を<ハッター>とあだ名のように呼んでいる。
「<ユナティカ>?って場所には、どのくらいで着くの?」
わくわくした様子で私に尋ねてくる可愛らしい道化師。初めて訪れる場所だから楽しみで仕方ないのだろう。
「そうだな、後半日ってところか。潮の香りはしてるから近いのは確かだ。」
「そうなんだ? <ユナティカ>って、お魚が美味しいんでしょ? ハッターは食べたことあるの?」
いつの間にか肩まで登ってきたスパイキーとスパイク。一緒に地図を見てはいるのものの、何がなんだかわからないだろう。
「そうだな。サメとタコなら食べたことあるぞ。」
「タコ!?あんなグロテスクなの食べたことあるの!?」
タコと聞いて、スパイキーとスパイクはべーっと舌を出した。確かに見た目がぬるぬるしてて、触手もたくさんあって未知なる生物感が凄いが、<ユナティカ>ではそのタコが当たり前のように食べられている。
「ま、一度食べてみたら印象はガラッと変わるかもな?」
「えー!?」
食べさせること前提で話をしていると、アルマロスの動きが止まったのか少し内部が大きく揺れた。机の上のものや棚においてあったものもいくつか床に落ちた。
「うわあ!? な、何?」
「…アルマロスが止まった。」
「え? 何で何で??」
その原因を突き止めるため、私は近くの窓を勢いよく開け、身を乗り出してアルマロスの様子を確認する。肩に乗ったままのスパイキーとスパイクも周りをきょろきょろする。
「まずいな。」
「え?」
ドドドドドド…。
アルマロスはゆっくり体を地面におき、手足を甲羅、もとい城に収め始めた。これはアルマロスが睡眠をしようとするときに行う動作であり、一度こうなったら翌日まで起きないのだ。
「アルマロスが寝る。」
「えええ!? もう少しで到着なのに!?」
「亀だからな。マイペースな分怠慢が凄いんだ。」
自分で創造しておきながら言うのもあれだが、どうして亀にしたのか。守りに特化している分この性格と体質? はマイナスな方向に傾いたようだ。 私は、やれやれと言わんばかりにため息をついて窓を閉めた。
「仕方ない、今日の移動はここまでにしよう。」
「えー? <ユナティカ>に行けないの?」
「アルマロスが寝てしまったんだ。こうなったら、やつが起きて動き出すまでどうにもできないからな。」
唯一の移動手段であるアルマロスが動き出すまで、<ユナティカ>には今日中に着きそうにもない。
「さて、お茶の時間にでもしようか。」
私は帽子のつばを左右対称に整えて、キッチンへと歩き出す。 今日は、どのフレイバーにしようか。