マッドハッター~魔のサーカス テント内にて~
アルマロスが睡眠に入ってしまったので、今日は<ユナティカ>付近の平地で一晩過ごすことにした。自分で入れた紅茶を飲みながら、地図でアルマロスがどのくらい動いたのか確認する。
「大体、2、3キロくらいか。って、そんなに動いてないじゃないか!」
机を思いっきり叩くが、アルマロスは痛くも痒くもないだろう。自分の拳が痛くなっただけで私は大きなため息をつく。
「ねぇ! ハッター!」
机の近くの窓を開けて外を眺めていたスパイキーとスパイク。オレンジ色のカーテンに巻かれながら外をみてみてとはしゃぐ。
「どうした? 珍しい生き物でもいたか?」
「生き物ではないけれど、なんか白いものが降ってきたよ!」
<白いもの>と聞いて、私はティーカップと地図を置いて、スパイキーとスパイクが開けた窓の外を見る。 <白いもの>の正体は、雪だ。手を伸ばし、しんしんと降る雪を手袋越しに受け止める。
「これは…。」
私は、ここからでもよく見える雪山<ペレンラ山脈>を見る。<ペレンラ山脈>とは、このエスタエイフ地方でもっとも高く、止むことを知らない雪が降っている山脈だ。昔はその山脈で鉱山業があったらしいが今は封鎖されている。今では、若者たちのキャンプ地として有名になっているのだが。
「ここまで雪が…。」
「え? この雪? がなんか駄目なの?」
「正確には、この雪を降らせてるやつが駄目だな。ま、今は無視していい。窓はちゃんと閉めなさい。」
スパイキーとスパイクにはあの、<ペレンラ山脈>について詳しく話していないが今回はこの山脈のことは頭の隅に置いといていい。とにかく、<ユナティカ>を目指さなければならない。 私は、暖炉に火をつけて寒さに備える。今夜は冷えるかもしれない。
夜になり、明かりは暖炉の火のみ。 ベッドにはスパイキーとスパイクがすやすやと眠っている。私はというと、椅子に腰掛けて全神経を研ぎ澄ます。
コォオオ…。
風が獣のような唸り声に聞こえてくる。果たしてこの風鳴りが本当に自然の音なのか、私が警戒している生き物なのかそれはわからない。
コォオオ…。
こんな時、人間の体というのは不便で睡魔に襲われるとこうも抗えない。しかし、人間の三大欲求はまだ失われていないようで安心した。窓の外を見ると、月明かりに照らされて雪が反射しているせいか、夜なのに少し明るく見えた。 とうとう私は睡魔に負けて、目を閉じようとした時、窓に映る人影を薄れ行く意識の中で見た気がした。
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