「れんきーんっ」
バチッ
いつもの平和な掛け声と共に、私の右手には爆弾が作り出された。
そしてその後は、こちらもお約束の――
「かんてーっ」
──────────────────
【初級爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:30、範囲:7
※追加効果:攻撃力×2.0
──────────────────
鑑定で確認すると、やはり安定のS+級である。
初めて爆弾を作ってみたけど、作り方は薬とあまり変わりないね。
あまり、というか、同じだね。
「というわけで、爆弾が出来ました」
「うわー。アイナさん、本当に作りたいものを見るだけで作れちゃうんですね……」
エミリアさんがしきりに感心している。
冒険者ギルドで販売用の爆弾が置いてあったので、それを参考に早速作ってみたのだ。
「ふふふ。でも、ここだけの秘密ですよ?」
「……あ、そうなんですね。
確かにこんな技術、わたしも初めて見ましたし……。分かりました、黙っています!」
エミリアさんの素直さも、先日見せたプラチナカードのおかげだろうか。
……いや、元の性格かな? 多分、元の性格っぽいな……。
「しっかり作れたから、岩盤破壊の依頼もいけそうだよ!」
爆弾を見せながら、ルークにもそう伝える。
「では、この依頼は受けることにしましょう。
あとはこちらの魔物討伐も場所が近いですし、このふたつを受けるということでよろしいですか?」
「うん、おっけー。エミリアさんも良いですか?」
「はい、大丈夫です。しっかりフォローしますね!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――とは言うものの」
魔物討伐の場所に到着して、私は空を見上げてぼそりと零す。
「戦闘では、私は無力だからね。フォローも出来ないよ?」
「大丈夫です、私にお任せください」
私の言葉に、ルークが素早く返事をくれる。
「うーん、それはありがとう。
で、今回討伐する魔物って……あの大きな鳥、だよね?」
いわゆるガルーダというやつが、高い岩場の間を飛んでいる。
普通に攻撃をするにしても、全然届きそうにないんだけど。
「はい。今回の討伐依頼はあのガルーダを5匹、ですね。
倒した証拠として、頭部か足のどちらかを5つ持ち帰る必要があります」
どちらかを5つ。……うん、なるほど。
『頭部か足のどちらでも』だと、1匹倒して頭部と足で2カウント……みたいな誤魔化しが効いちゃうからね。
どちらか、ということで承知しました。
証拠品を持ち帰るためには、倒したあとにガルーダの|躰《からだ》を解体する必要がある。
ゲームのようなフラグ管理で終われば楽なのに、現実はなかなかにワイルドな感じだ。
「……それで、あのガルーダはどうやって倒すの?
あんなに高いところを飛び回っているんじゃ、攻撃も当たらなさそうだし」
「ガルーダは縄張り意識が強いので、近付いていけば割とあっさり襲ってきてくれます。
そこを遠距離攻撃で狙うことが出来れば楽なんですが――」
「地面くらいまで降りてきてくれたら、わたしの魔法の射程範囲に入りますよ」
エミリアさんが、気合を入れながら言う。
「それでは私がガルーダの注意を引きますので、エミリアさんは後ろからガルーダの翼を狙ってください」
「はい、分かりました!」
「ルーク、私は何をすれば良い?」
「そうですね、私のことを信じていてください」
「あ、はい」
……イケメンかよ!
いやまぁ、客観的に見れば格好良いんだろうけど。
ルークがガルーダに近付くと、ガルーダは群れを成してルークに襲い掛かった。
さすがに5匹からの波状攻撃では防戦一方だ。
しかし――
「シルバー・ブレッド!!」
「グギャアアァ!!」
エミリアさんの攻撃魔法が当たって、一匹二匹と撃ち落とされていく。
プリーストって強いなぁ……。
何だか私の想像よりも、ずっと攻撃的なんですけど……。
地面に落ちて暴れるガルーダの首を、ルークは一閃二閃と斬り飛ばす。
いつもの爽やかさが嘘のように、手際良く修羅のように狩っていく。
……結局、交戦時間は10分にも満たなかった。
「やっぱりルークって強いねー!
エミリアさんも強い! さすがー!」
私はエミリアさんと一緒に、ルークを迎えに行った。
「1匹ずつであれば、そんなに強くはありませんからね。
それに私には、アイナ様の応援と、エミリアさんの支援がありましたから」
イケメンかよ!(2回目)
エミリアさんはエミリアさんで、少し照れながらルークにヒールを掛けている。
ちなみに私は、当然のようにやることが無い。
「いやぁ。私は戦闘になると、本当にやることが無いね……」
「私の出来ないことをアイナ様はたくさんされているのですから、戦闘くらいは私たちにお任せください。
……さて、ガルーダの頭を回収しなくては」
足でもいいんだけど、頭部はもう5匹全部斬り飛ばしているからね。
「ところでその頭って、どうやって持って帰るの?」
「え? それはもちろん、この皮袋に詰めて――」
「それなりにかさばるから、私がアイテムボックスに入れて持っていこうか?」
「あ……なるほど。それでは、お願いしてしまってよろしいですか?」
「おっけー。
少しはやることが無いと、肩身が狭いからね。助かるよ」
「いえ、こちらこそ助かります!
頭を5つ運ぶのは、なかなか手間ですから」
うん、魔物討伐でも私にはやることがあったぞ。
……荷物持ちだけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次に向かったのは、ガルーダたちを倒した岩場の近く。
広いけれど、浅めの洞窟だ。
依頼主とは道中で落ち合ったのだが、洞窟の中で説明を受けてから一旦外に出てもらった。
爆弾を使う関係で、危険な場合があるからね。
「さてと、この岩盤を壊せば良いんだよね。
……っていうか、何でこんな依頼があるの? 依頼主が自分で壊せば良いんじゃない?」
少し声を潜めて、ルークに尋ねる。
「確かに、冒険者ギルドでも爆弾は売ってますからね。
しかし失敗したときは自分の責任になってしまうので、責任の所在を移す意味で依頼を出しているのだと思います。
私たちが失敗すれば、依頼者はお金を払わないで済みますから」
……ふむ、なるほど。
それに爆弾を使うと、怪我をしてしまうかもしれない。
やりたくない人も当然いるよね。うん、納得。
「それじゃ、早速やってみますか。
二人とも下がってー」
「あ、もし良ければ私がやりますが」
「まぁまぁ。ここは私にやらせてよ。
それじゃ、いきまーす」
火を付けて――ぽいっとな。
ドカ──────ン!!
(ドカ──────ン)
(ドカ──────ン)
「……おっと、響くね」
「そうですね……。
もしかしたら、火力が高いせいかもしれません。S+級の爆弾だけに」
しばらくすると爆発の煙が収まっていった。
そして、砕けた岩盤が見えてきたのだが――
「……砕けたけど、これじゃ足りないよね?
岩盤の向こう側まで、貫通させるって話だし」
「はい、そうですね」
残念ながら、岩盤は途中までは砕けている……という状態だった。
あとどれだけ砕けば良いのかは、今のところ分からない。
「今の爆弾だって、普通のものより威力は2倍あったんだけど……。
いや、これを見越して依頼が出されていたのかな……?」
「そうかもしれませんね。これはなかなか厳しいかもしれません。
どうしますか? このまま進めるか、もしくは依頼を破棄するか――」
「できれば、破棄はしたくないよね」
……とはいえ、このままだと何発の爆弾を使うことになるのか分からない。
爆弾については詳しくないけど、威力を上げる工夫は何か無いのかな……?
私は『創造才覚<錬金術>』に意識を傾けて、手持ちの素材から作れる爆弾を確認していった。
「……お、これは何だか聞き覚えがあるぞ……。
いけるんじゃないかな? れんきーんっと」
バチッ
──────────────────
【初級指向性爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:3~57、範囲:1~13
※追加効果:攻撃力×2.0
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何を作ったのかと言えば、指向性の爆弾である。
爆発の向きを一方向に偏らせて、その分だけ威力を上げるという逸品だ。
「うん、おっけー。
次はこれで挑戦してみるね。セットするのを手伝って!」
私はルークの手を借りて、岩盤に指向性爆弾をセットしていく。
「アイナ様、これは投げて使えないんですか?」
「うん、特定の向きに爆発させる感じだから、最初にしっかり向きと位置を固定させるの」
「なるほど、そんな爆弾もあるんですね……」
「……これでよし。
それじゃいくよ、離れてー?」
全員が離れたことを確認してから、導火線に火を付ける。
火は導火線を伝って――
……ドガン!!
(ドガン!!)
(ドガン!!)
大きな音が、洞窟を揺らした。
煙が収まると……見事に、岩盤を貫通した光景が目に飛び込んでくる。
「よーし、いけたいけた♪」
「おお、すごい……。
それにしてもこの岩盤、結構な厚みがありましたね。これはなかなか壊せないはずですよ。
依頼の報酬金額も、少し安すぎる気がしてきました」
「確かにねぇ。
……それじゃ依頼主さんを呼んでくるね」
依頼主さんを呼んで、状況について確認をしてもらう。
どう見ても貫通してるから、確認自体はあっさり終わったんだけど――
「……たった2発で済んだんですか……?
自分たちでやれば良かったかなぁ……」
……なんて言い出す始末。
やっぱり、壊しにくい岩盤だったのは把握していたようだ。
その後、報酬の引換証をもらってから依頼主さんとは別れることに。
この引換証を持っていけば、冒険者ギルドの窓口で報酬をもらえるそうだ。
「それじゃ、そろそろ帰りますか」
「アイナさん!
少し疲れましたし、お茶でも飲んで休憩しませんか?」
……安定のエミリアさんである。
でもまだ日も高いし、それも良いのかな?
「分かりました、30分くらい休んでいきますか。
実は今日、ちょっとしたお菓子も持ってきているんですよ」
「わーい、アイナさん気が利くー♪」
その後、しっかり休憩を取ってから街に戻ることになった。
全体を通してみれば、初めて受けた依頼にしてはスムーズに終わったんじゃないかな?
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