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「はい、今日もお疲れ様でした!」
「「お疲れ様でした!」」
宿屋の食堂で、夕食を前にしながら労いの挨拶をする。
朝から依頼を2件こなしてきたけど、やっぱりとっても疲れるね。
「今日の報酬は……ガルーダ討伐で金貨1枚銀貨25枚、岩盤破壊で金貨2枚銀貨25枚……っと。
合計で金貨4枚分だね」
「これくらいのペースでいけば、諸々の出費を差し引いて……1日あたり、金貨2~3枚程度は稼げそうですね」
「ふむふむ、なかなか……かな?」
「もし怪我をしても、アイナさんやわたしがいますから。
怪我をしてしまうと治すのに時間やお金が掛かりますけど、このパーティならそういったところは大丈夫そうです♪」
「とはいえ、油断していると全滅ということも考えられます。
引き締めるべきところは、しっかり引き締めていきましょう」
ルークがエミリアさんの言葉をフォローする。
全滅なんてしたら、治す治さないどころの話ではないからね。
それにしても1日の稼ぎが金貨2~3枚……ここでは2.5枚とするとして、それで1か月も稼ぎ続ければ……2.5枚×30日=75枚!
……いや、さすがに毎日は厳しいから、週2日を休みにすると……2.5枚×22日=51枚!
そこから3人分のお小遣いやお給料みたいなものを考えていくと……残るのは40枚くらいかな?
さすがに金貨40枚もあれば、ミラエルツでの金策は終わらせても良さそうだ。
むしろ少し多めの感じもするし、それならこの街で色々と買い揃えるのも良いかもしれない。
それに1か月もあれば、セシリアちゃんからガルルンの置物が少しは届くだろうし。
……うん、1か月か。
キリも良いし、ミラエルツの滞在は1か月にしようかな。
「特に問題なければ、ミラエルツの滞在は1か月にしようと思うんだけど……どう?」
「長くもなく、短くもなく、私は良いと思います」
「アイナさん、わたしも大丈夫です!」
ミラエルツは、クレントスから王都までのおおよそ3分の1の場所にある。
この街でのんびりし過ぎていても、仕方が無いからね。
「それじゃ、1か月の滞在ということで。
それまではこの街で色々やっていこー!」
「はい、分かりました」
「わたしも分かりましたー」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……食事も終わって歓談中。
エミリア春のパン祭りの話をしているときに、私たちに話し掛けてくる人がいた。
「やぁ、こんばんわ。
今晩はとても良い夜だね。一緒に遊ばない?」
見るからにキザな優男……といった感じの男。
こういうのはきっぱり断らないと面倒になるよね。
というわけで――
「はい、間に合ってます」
ばっさり。
「おや、つれないなぁ。でもそういうの、僕は好きだよ?」
あーもう、うっとうしい。
ルーク、どうにかして――
……と思った瞬間には、ルークは既に優男の後ろに回っていた。
「おい、貴様。失礼な口で話し掛けるな」
「あいたたたっ!!」
優男は途端に痛がり始めた。
ルークが優男の左腕を取って、後ろ手に関節を極めているようだ。
「ちょちょちょ、穏やかじゃないなぁ。ちょっと誘っただけじゃないか!
それより、2人もいるんだから良いだろう? 1人くらい僕に――」
「……黙れ。
まだ言うなら、折る」
「折れる折れるっ! やめろーっ!!」
珍しく、ルークが怖い。
数秒後、ルークは優男の左腕を振り払うように手を放した。
優男はそのまま床に倒された。
……受け身も取れずに。
「ちょっとお客さん! 喧嘩は困りますよ!」
優男が倒された後になって、ようやく店員がやって来る。
ただ、そんなに怒ってる様子は無くて、むしろ――
「……おい、ジェラード。お前もいい加減にしてくれよ。
他の客の迷惑も考えてくれ」
それだけ言って、すぐに去ってしまった。
つまり私たちにも、このジェラードという優男にも、特にお咎めは無し……ということだ。
「はぁ、あいたたた……。
仕方ない、今日はこの辺でお別れにするよ。レディたち、また今度ね♪」
そう言いながら、投げキッスを送ってくるジェラード。
もし使えるのであれば、反射魔法を使いたいところだ。
「そして君――」
……ジェラードは、ルークの方に向き直った。
「次は、僕も一緒に飲ませてね♪」
「まだ懲りて――」
……ルークの言葉を待たず、ジェラードはその場から去っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……はぁ。何だったんだろうね、あの人。
ルークもありがとね。
何だかぐいぐい来るタイプだったから、私たちだけだったら困ったことになってたかも」
「そうですね! 追い払うにしても、わたしには攻撃魔法しか無いですし……」
それは……ガルーダをも撃ち落とした、シルバー・ブレッドのことですかね?
確かに追い払えはするけど、下手をすれば殺人になってしまうほどの威力があるから……。
「アイナ様もエミリアさんも、ああいった輩にはご注意ください」
「「はい」」
ルークの言葉に、私たちは素直に返事をしていた。
――そこへ、酒場で飲んでいた逞しい男が声を掛けてきた。
「よう、兄ちゃんたち、大変だったなぁ。でも、見ていてスカッとしたぜ!
ジェラードのヤツ、いい加減に鬱陶しいからなぁ」
「あの人を知っているんですか?
……店員さんも、知っているようでしたけど」
「ああ、この辺りの酒場じゃ有名だぜ!」
「へぇ……? どういった方なんです?」
「おう、話してやっても良いぜ」
そう言いながら、男は空のグラスを煽った。
「おおっと! 酒が切れちまったぜ。あー、切れちまったナー?」
……。
進んで教えてくれるなんて奇特な人がいると思ったがけど、何てことは無い。酒をおごれということだ。
少し悩ましいけど……しばらくミラエルツに滞在することだし、ひとつの情報として聞いておこう。
「はい、お好きなものをどうぞ。何を頼みますか?」
「お、嬢ちゃん気が利くね。
おーい、マスター! 一番高い酒を頼む!!」
――おおおおおいっ!!?
「よぉし、それじゃ話してやろう!」
注文を済ませた男は、ルンルン気分で椅子に座る。
ちょっと待って? 一番高い酒ってどれ……?
えぇっと、1杯で金貨1枚……。
何でこんな酒場に、こんなお酒が置いてあるのーっ!?
メニューを覗き込む私を置き去りにして、その男は話し始めた。
「……ヤツの名前はジェラード。ジェラードはとても有名なんだ……。
というのもな、女へのナンパがウザいんだ!」
「そ、そうですね? 私たちも、それで声を掛けられましたし……」
「だろう? この街の宿屋や酒場をハシゴして、毎晩必ずどこかでナンパをしているんだ。
嬢ちゃんたちも、この街にいる間はくれぐれも気を付けろよ!」
「そうですね、分かりました」
そこに、店員さんが注文のお酒を持ってくる。
「はいよ、『一番高い酒』」
「お、来た来た♪
……って、おい! これ、いつもの安酒じゃねぇか!」
「生憎と、うちには『一番高い酒』なんて名前の酒は無いからな。
旅のモンつかまえてケチなタカリしてるんじゃねーよ!」
店員は男に注意をしてから、こちらにウィンクを送ってきた。
店員さん、グッジョブ!!
「……ところで、教えてくれるのはそれだけじゃないですよね?」
私はにっこりと、男に圧力を加える。
「お、おう!? ……嬢ちゃん、無駄に迫力があるな……。
うーん、注意したいことはもう注意したし……。
安酒になっちまったけど、奢ってくれたわけだしなぁ……」
「奢るのを取り消しても良いですよ?」
「いやいや! これはもうタダ酒だから!
今さら金を払う気なんて起きないから!」
……なに、それ。
「それではもう少し、何か情報をお願いします♪」
「うーん、そうだな……。
面白くはない話になるが、それでも良いかい?」
聞いてみて、つまらなかったら止めることにしよう。
……というか、今までのところでも面白いことは特に無かったけど。
そう思いながら、私たちは話の続きを聞くことにした。