「 聴覚過敏 」
もとぱ
「 ねぇねぇ、あれ可愛くない?この色、元貴に似合いそう! 」
ショッピングモールの雑貨屋の前。
滉斗はウキウキと元貴の腕を引っ張るように歩く。
元貴は曖昧に微笑みながらついて行ったけど
正直、少しだけ顔が引きつっていた。
__人が多い
__音が多すぎる
__蛍光灯の「ジー」という音でさえ、頭に刺さる。
「 ……ひろと、ごめん ちょっと…… 」
「 ん?なに? 」
滉斗が振り返る。
その瞬間、元貴はふらりとよろめいて、壁に手をついた。
「 耳が、うるさくて……。声も 音も、全部ぐちゃぐちゃに響く…… 」
滉斗は驚いたように目を見開き、すぐに元貴のもとに駆け寄った。
「 元貴、大丈夫!? どこが痛い?何が聞こえるの!? 」
「 ……うるさい、声……大きい……ごめん……でも、頭が…ぐらぐらする…… 」
元貴の声が怯えるように震えていた。
周囲の雑音がどんどん膨らんで、脳を締め付ける。
アナウンス、子供の笑い声、音楽___
全部が刺すようなノイズになって、元貴の鼓膜をひたすらに打っていた。
「 ちょっと、こっち来て 」
滉斗は迷わず、元貴の手を握って人気のないベンチへ連れていく。
そして、元貴の耳をそっと、自分の手で包み込んだ。
「 ……大丈夫、大丈夫。もう何も聞こえないよ。 」
「 ここ、俺の手の中だけだよ。」
「 ……ひろと…… 」
「 ゆっくり、深呼吸。周りなんか全部無視して。元貴が苦しくない場所だけ見て。」
耳を塞いでくれている滉斗の手から、微かに体温が伝わってくる。
その温もりだけが、現実を繋ぎ止めてくれていた。
「 ……もう、だめかと思った。倒れそうだった 」
「 そんな時は 俺のところに倒れて。ちゃんと受け止めるから。」
しばらくして、耳の奥の痛みと音の洪水が少しずつ引いていく。
元貴はようやく 落ち着いた表情で滉斗に目を向けた。
「 ……ありがと。ほんとに助かった 」
「 当たり前だろ。俺、元貴の彼氏……ってまだ言ってないけど、もう名乗っていいよな。」
「 今更すぎて笑った 」
そう言って、やっと元貴が笑った。
その笑顔に 滉斗の表情も柔らかくほどけていく。
「 ……お店はまた今度行こ。今日は 俺がちゃんと耳の代わりをするから 」
「 ……うん、滉斗の声だけで 充分 」
耳鳴りも、人のざわめきも 遠ざかっていく。
滉斗の手の温もりだけが、まだしっかりとそこにあった。___
#9.「 耳鳴りと手の温もり 」
わぁぁ!大森さんの体調不良書いてて楽しすぎておかしくなりました。
コメント
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ぇ、やばい最高過ぎてぴぬ(⁇ やっぱ天才だっ👀 次回も楽ちみ💞
久しぶりの物語最高でした!次も楽しみにしてます!