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(うへぇ、躰が重ダルい。おかしいな……。昨日の荷物の搬入は、キツいものじゃなかったはずなのに。もしや陽さんを感じさせようと、昨晩頑張りすぎちゃったせい?)
ベッドの中で痛む腰を撫でながら、ある部分の違和感も感じていた。力を入れてみるが、余計に変な尻応えがある。
まるで使い込んだみたいな感覚に、眉根を寄せながら隣で寝ている橋本に視線を飛ばした。
「……何で俺が寝てるんだ?」
隣で寝ているはずの橋本が、そこにはいなかった。その代わりに見慣れた顔の自分が、カーテンの隙間から入り込む光を受けて、とても幸せそうな面持ちで寝ている。
茫然としたまま痛む腰にカツを入れて起き上がり、そっと布団を捲った。
昨夜美味しくいただいたブツが、堂々とぶら下がっているのを目の当たりにし、慌てて布団を被せた。
「ひっ、ひゃあぁっ……」
意味なく両頬を撫でさすってから、髪の毛に触れてみる。
短髪のごわごわした髪じゃなく、絹糸のような柔らかな手触りを感じて、恐れおののいた。大好きな橋本の髪は、寝る直前まで宮本が撫でまくるものなので、間違いようがない。
(――俺ってば、陽さんになっちゃった!)
他にも叫びだしたい衝動を塞ぐために、手で口元を押さえながら、心の中でシャウトする。
どうして、こんなことになってしまったのか。どうやって、元に戻るのか――どんなに考えを巡らせても寝起きの頭では、到底解決するはずがなかった。
入れ違ったまま生活するには、かなりの支障をきたす。
デコトラを運転する自分が、橋本が運転している黒塗りのハイヤーのハンドルを握らなければならない。しかも乗せる客は、高収入の偉い人ばかり。キョウスケのような気さくな人物ばかりじゃないのは、目に見えていた。
困ったことは、そればかりじゃない。
中身は橋本だとわかっていても、自分を相手におっ勃つ自信がなかった。行為に及ぼうとキスするのに目をつぶるが、鏡で見慣れた顔を直前まで見つめ続けるのである。
あまりに困難すぎる状況に、がっくりと萎えるであろう。
間違いなく橋本も同じ心境に陥ることが、容易に想像ついた。
「これは夢だ。そうに違いない。寝たらもとの姿に戻って――」
呟きながら頬をつねってみる。摘まんだ感触から捻りあげる痛みまで、しっかり感じることができた。
(あ~そういえば、登場人物が入れ替わりするアニメや映画があったな。なぜだか前前前世的な曲が頭に流れるのはしょうがないとして、トラックに轢かれてもとに戻るという手は、危ないから絶対にできない)
腕を組んで知ってるアニメを思い出しながら、戻る方法を考えてみた。しかし次の瞬間には違う内容が、宮本の脳裏を駆け巡る。
普段の自分なら、顎に手を当てて考えようが腕を組もうが、どんなポーズをとっても様にならない。だが、今の姿は橋本なのである。きっと、ものすごく格好いいだろう。
静かにベッドを抜け出し、床に落ちている下着を手に取りかけてハッとした。
「危ない危ない。これは俺ので、あっちは陽さんの」
橋本の下着をきちんと着用し、棚に置いてある手鏡を取りに行った。足の長さが違うせいでバランスをとるのが難しく、トランクスを履くだけで一苦労するとは思わなかった。
手鏡を顔の前に掲げて、ドキドキしながら覗き込む。
「陽さんだ、陽さんがいる!」
顔も橋本、唇を動かして声を出しても橋本。大好きな橋本になってしまった嬉しさは、筆舌しがたいものがあるけれど――。
微妙な腰痛と違和感が残る尻について、眉根を寄せつつ昨夜のやり取りを思い出した。
それは行為を終えてシャワーを浴び直し、布団にくるまったときだった。
『雅輝、インプのブレーキパッドが減ってることに、気がついていたか?』
「むぅ? ちょっとだけブレーキの利きが悪いなとは思っていましたけど、原因はやっぱりそれでしたか」
ついこの間、インプを運転したときに感じたことを思い出しながら、ぽつりと返事をしたタイミングで、頭を殴られた。
『異変を感じたらすぐに言えよ、クソガキ! 俺が乗らなかったら危なかったろ』
「すみません。ちょっとだけだったので、大丈夫かと思って」
『お前の場合は高速走行するんだから、実際はちょっとじゃなかったはずだぞ。クレイジーな雅輝のことだ、そこのところを喜び勇んで曲芸みたいな技を使って、難なくやり過ごしたんだろうが、もっと大事に扱ってくれなきゃ、インプが持たなくなる』
じろりと睨む橋本の視線が突き刺さり、身の置き場がなくなった。両手で布団を引き上げ、目の下まで覆いかぶせる。