TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

(うへぇ、躰が重ダルい。おかしいな……。昨日の荷物の搬入は、キツいものじゃなかったはずなのに。もしや陽さんを感じさせようと、昨晩頑張りすぎちゃったせい?)


ベッドの中で痛む腰を撫でながら、ある部分の違和感も感じていた。力を入れてみるが、余計に変な尻応えがある。

まるで使い込んだみたいな感覚に、眉根を寄せながら隣で寝ている橋本に視線を飛ばした。


「……何で俺が寝てるんだ?」


隣で寝ているはずの橋本が、そこにはいなかった。その代わりに見慣れた顔の自分が、カーテンの隙間から入り込む光を受けて、とても幸せそうな面持ちで寝ている。

茫然としたまま痛む腰にカツを入れて起き上がり、そっと布団を捲った。

昨夜美味しくいただいたブツが、堂々とぶら下がっているのを目の当たりにし、慌てて布団を被せた。


「ひっ、ひゃあぁっ……」


意味なく両頬を撫でさすってから、髪の毛に触れてみる。

短髪のごわごわした髪じゃなく、絹糸のような柔らかな手触りを感じて、恐れおののいた。大好きな橋本の髪は、寝る直前まで宮本が撫でまくるものなので、間違いようがない。


(――俺ってば、陽さんになっちゃった!)


他にも叫びだしたい衝動を塞ぐために、手で口元を押さえながら、心の中でシャウトする。


どうして、こんなことになってしまったのか。どうやって、元に戻るのか――どんなに考えを巡らせても寝起きの頭では、到底解決するはずがなかった。

入れ違ったまま生活するには、かなりの支障をきたす。

デコトラを運転する自分が、橋本が運転している黒塗りのハイヤーのハンドルを握らなければならない。しかも乗せる客は、高収入の偉い人ばかり。キョウスケのような気さくな人物ばかりじゃないのは、目に見えていた。

困ったことは、そればかりじゃない。

中身は橋本だとわかっていても、自分を相手におっ勃つ自信がなかった。行為に及ぼうとキスするのに目をつぶるが、鏡で見慣れた顔を直前まで見つめ続けるのである。

あまりに困難すぎる状況に、がっくりと萎えるであろう。

間違いなく橋本も同じ心境に陥ることが、容易に想像ついた。


「これは夢だ。そうに違いない。寝たらもとの姿に戻って――」


呟きながら頬をつねってみる。摘まんだ感触から捻りあげる痛みまで、しっかり感じることができた。


(あ~そういえば、登場人物が入れ替わりするアニメや映画があったな。なぜだか前前前世的な曲が頭に流れるのはしょうがないとして、トラックに轢かれてもとに戻るという手は、危ないから絶対にできない)


腕を組んで知ってるアニメを思い出しながら、戻る方法を考えてみた。しかし次の瞬間には違う内容が、宮本の脳裏を駆け巡る。

普段の自分なら、顎に手を当てて考えようが腕を組もうが、どんなポーズをとっても様にならない。だが、今の姿は橋本なのである。きっと、ものすごく格好いいだろう。

静かにベッドを抜け出し、床に落ちている下着を手に取りかけてハッとした。


「危ない危ない。これは俺ので、あっちは陽さんの」


橋本の下着をきちんと着用し、棚に置いてある手鏡を取りに行った。足の長さが違うせいでバランスをとるのが難しく、トランクスを履くだけで一苦労するとは思わなかった。

手鏡を顔の前に掲げて、ドキドキしながら覗き込む。


「陽さんだ、陽さんがいる!」


顔も橋本、唇を動かして声を出しても橋本。大好きな橋本になってしまった嬉しさは、筆舌しがたいものがあるけれど――。

微妙な腰痛と違和感が残る尻について、眉根を寄せつつ昨夜のやり取りを思い出した。

それは行為を終えてシャワーを浴び直し、布団にくるまったときだった。


『雅輝、インプのブレーキパッドが減ってることに、気がついていたか?』

「むぅ? ちょっとだけブレーキの利きが悪いなとは思っていましたけど、原因はやっぱりそれでしたか」


ついこの間、インプを運転したときに感じたことを思い出しながら、ぽつりと返事をしたタイミングで、頭を殴られた。


『異変を感じたらすぐに言えよ、クソガキ! 俺が乗らなかったら危なかったろ』

「すみません。ちょっとだけだったので、大丈夫かと思って」

『お前の場合は高速走行するんだから、実際はちょっとじゃなかったはずだぞ。クレイジーな雅輝のことだ、そこのところを喜び勇んで曲芸みたいな技を使って、難なくやり過ごしたんだろうが、もっと大事に扱ってくれなきゃ、インプが持たなくなる』


じろりと睨む橋本の視線が突き刺さり、身の置き場がなくなった。両手で布団を引き上げ、目の下まで覆いかぶせる。

不器用なふたり この想いをトップスピードにのせて

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

33

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚