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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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総務部秘書課へ異動してから、数週間。
秘書として必要な業務をひと通り教わった小笹瑠璃香は、今日から正式に新沼社長補佐の専属秘書として動くことになっていた。
(……いよいよだ)
少し早めに出社し、今日の予定をもう一度確認する。
午前中は社内会議が二件。
午後からは取引先との打ち合わせが一件。
その合間にも、確認してもらわなければならない書類がいくつかある。
研修中にも何度か実務にはつかせてもらっていたけれど、今日からは〝研修生だから〟という言い訳は出来ない。
もちろん、いきなり何もかも一人でやるわけではなかった。
藤代有馬を筆頭に、他の秘書課の先輩たちからも分からないことがあればいつでも聞くように、と言われている。
それでも。
(緊張する……)
手元の予定表を見つめながらそっと息を吐いた、その時だった。
エレベーターの到着を知らせる音がして、瑠璃香は反射的に顔を上げる。
開いた扉の向こうから姿を現したのは、大好きな人。
すっかり社長補佐の任が板についた新沼晴永が、ダークカラーのスーツに身を包み、こちらへ歩いてくる。
秘書課へ異動してきてから何度も見てきた姿なのに、今日ばかりは妙に緊張してしまう。
瑠璃香は手にしていた予定表を抱え直すと、晴永へ向かって頭を下げた。
「おはようございます、新沼社長補佐」
一瞬。
本当に一瞬だけ、晴永の足が止まった。
「……おはよう、小笹さん」
(うわぁ……。何だろう、この感じ! 物凄くくすぐったい!)
企画宣伝課にいた数年間、晴永のことはずっと〝新沼課長〟と呼んでいたし、瑠璃香は晴永から〝小笹〟と呼ばれていた。
そう。会社で苗字を呼び合うことには慣れていると思っていたのに、何故だろう? 彼のことを〝新沼社長補佐〟と呼ぶことにも、自分が彼から〝小笹さん〟と呼ばれることにも、なんだかソワソワしてしまう。
変化なんて、どちらもとても些細なはずだ――。
(プライベートでは、お互い普通に名前で呼び合ってたから余計かも……!)
昨夜も、電話でいつものように他愛のない話をした二人だ。
電話では満足に触れ合えない分、やたらと甘々な雰囲気を醸し出す晴永に、瑠璃香もつい甘えモードに入ってしまう。昨夜もそうだった。なのに、会社ではそんなことなかったみたいにスンと澄ましている晴永に、脳が戸惑っているのかもしれない。
(昨日まではそこそこに距離があったから……)
秘書課に配属されても、まだ晴永の専属として実働していたわけではない。
程よい距離感と、先輩方の同行が、瑠璃香に平常心を保たせてくれていた。
でも、今日からは晴永と行動をともにする時間が格段に増えると思うと、どうしても意識してしまう。
社長補佐とその秘書ともなると、企画宣伝課時代のように同じフロアで互いの仕事に打ち込む、といった上司と部下の関係とは一線を画す。だって今の瑠璃香の仕事は、ほぼ晴永のためだけに存在しているのだ。
晴永の予定を把握して、必要な資料を揃え、会議や来客の準備をする。
仕事をする晴永の、一番近くにいて彼を支えるのが、これからの瑠璃香の役目だ。
(私が、晴永さんの専属秘書……)
改めてそう思うと、じわじわと実感が湧いてくる。
嬉しい。
もちろん緊張もしているけれど、それ以上に嬉しかった。
コメント
2件
課長時代は「小笹」って呼び捨てだったよね(* ̄m ̄)
いや〜もう、タイトルからして「来た!」って感じでしたね!瑠璃香が晴永さんの専属秘書として動き出す初日、あの「なんだかソワソワする」感覚がすごく丁寧に描かれてて、読んでるこっちまでドキドキしました。会社では「小笹さん」「社長補佐」って呼び合うのに、プライベートでは名前で甘々な関係ってギャップがたまらない…! スンとしてる晴永さんに脳が戸惑う瑠璃香の描写、めちゃくちゃ共感しました。次が気になる…!!