コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夕食も終わって、今は宿屋の部屋で一人きり。
今日はアドルフさんのお店で『なんちゃって神器』の剣を注文して、あとは結局、街をふらふらして終わってしまった。
……でも、たまにはこういう一日も良いよね?
先を急ぐ旅でも無いし、今のこの時間は今しか流れないのだから。
例えば王都に着いてしまうと、エミリアさんは私のパーティから離脱してしまう。
そんなことを少し考えるだけで、切ない気持ちが湧き起こる。
人生は出会いと別れの連続だ――
……とはいっても、それはそれ。
簡単に割り切ることができないのが人間というものだ。
「……まぁ、そこら辺は置いておいて」
そろそろアドルフさんから聞いた貴重な情報の、錬金術の『置換』を試してみようかな?
『置換』とは『何か』を『別の何か』に置き換える、という意味だ。
まぁぶっちゃけそのままの意味なんだけど、こと錬金術においても同じ意味であると信じたい。
私はとりあえず、以前作った『超豪華なアイアンダガー』をアイテムボックスから取り出してみる。
超豪華……とはいっても、そう作ろうと思っただけで、実際は変なでこぼこの付いた出来そこないのダガーだ。
ひとまずこれは使い道が無いし、今回の実験に役立ってもらうことにしよう。
ちなみにこのアイアンダガーは、端から端まで全てが鉄で出来ている。
今回の実験では、この『鉄』の部分を全部『炭』に置き換えてみることにしよう。
つまり、成功すれば『炭の剣』になるわけだ。
……『炭の剣』。
成功しても、さらに使い道が無くなりそうだけど……。
「さて、それで?
『置換』ってどうやればいいんだろう?」
当然のように出てくる疑問。
しかし何はともあれ、私の錬金術のスキルはレベル99なのだ。
事前知識も無くできるのでは……と思うのは甘えだろうか。
「とりあえずアイアンダガーをアイテムボックスに入れて……れんきんちかーん?」
バチッ
いつもの音と共に、手の上に現れたのは『超豪華なアイアンダガー』……の形をした、黒い炭。
「……出来てしまった」
世の中の錬金術師たちには申し訳ない。
ちなみに少しいじったら、刃のところがポキンと折れてしまった。
さて、次は『アイテムの一部を置換できるか』を確認してみよう。
アイアンダガーみたいに、全てが同じ材料でできているアイテムの方が珍しいからね。
「とりあえず実験用に丁度良いアイテムが無いから作るかな……。
れんきーんっ」
バチッ
手の上に現れたのは、赤いルビーが嵌まったシンプルな鉄製の指輪。
私の錬金術は、シンプルなものしか作れないのが玉に瑕だ。
「さて、このルビー部分を何かに変えてみようかな?
……さすがに炭はもったいないから、他の宝石にしてみるか……」
分かりやすく、アメジストとか?
「はい、れんきんちかーんっ」
バチッ
手の上には、青いアメジストが嵌まったシンプルな指輪が現れた。
おっけー、おっけー。
ちゃんとルビーをアメジストに置き換えることが出来たぞ。
つまり複数の素材で作られたアイテムであっても、狙った一部を置き換えられるということだ。
『なんちゃって神器』にガラス玉が埋め込まれてあっても、私なら自由に置き換えられる……ってことになるわけだね。
ちなみに補足しておくと、『置換』によって置き換えられた方――
……『超豪華なアイアンダガー』の『鉄』の部分や、『ルビーの指輪』の『ルビー』の部分については、しっかりアイテムボックスに格納されていた。
つまり何回置換しても、無くなるものはない。とてもエコな仕様である。
「ふぅ、少し休憩……。
お茶でも飲もうかな」
誰にともなく言いながら、『お湯』を作ってお茶を淹れる。
この一連の流れも、最近ではごく普通の動きになったものだ。
――さて、と。
ここのところ色々なことが起きていたし、その辺りの情報も少し整理しておこうかな。
色々ありすぎて、ややこしくなってるからね。
今現在、私たちは鉱山都市ミラエルツに滞在している。
この滞在はそもそも金策のためだったのだが――
……ダイアモンド原石とジェラードの活躍により、手持ちのお金は金貨6500枚程度に大きく膨らんでしまった。
正直いって稼ぎ過ぎたのだが、今のところ誰にも迷惑を掛けていないので良しとしよう。
コンラッドさんは、奥さんの浪費を嘆いていそうだけど……それは置いておくとして。
そして、ミラエルツ滞在中に増えた仕事。
まずはコンラッドさんから受けた、『浪費癖を治す薬』の依頼。
これは必須では無いけど、可能であれば対応していきたいかな。
……でも、何をどうすれば良いのかは分かっていない。
次に、『なんちゃって神器』の作成。
これはアドルフさんに依頼済みで、そして支払い済みだ。
あとはもう待つだけなんだけど、ミラエルツを離れる頃には出来上がっているかな?
そして次、ガルーナ村からガルルンの置物を受け取って流行らせようと思っていた件は――
……残りの2週間では、何も出来なさそうだ。
ミラエルツで広めるのは諦めて、次の街か王都で頑張るのでも良いかもしれない……。
辺境都市クレントスから王都までの、3分の1ほどの場所にあるのがこの鉱山都市ミラエルツだ。
もう少し先の、3分の2ほどの場所にある街も大きいそうなんだけど、そこに滞在する理由はあるのかな?
何も無いのであれば、一気に王都に向かってしまうのも良いかもしれない――
「……ああ。
でもそうすると、エミリアさんとのお別れが早くなるのか……」
恐らく、王都にはそれなりに長く滞在することになると思う。
エミリアさんとお別れするのは、王都に戻ったときなのか、それとも王都から離れるときなのか……そこでもずいぶん変わりそうだ。
もし前者、戻った時点でお別れになるのであれば、次の街に滞在しても良いかもしれない。
……エミリアさんにも、あとで聞いておくことにしよう。
――そして最後に、私の旅の目的……神器作成についても触れておこう。
そもそも何故王都に向かっているのかといえば、神器に関する情報収集をするためだ。
私がどういう神器を作るかはまだ決まっていないものの、唯一見たことのある神器『神剣デルトフィング』の素材はこんな感じだった。
──────────────────
【『神剣デルトフィング』の作成に必要なアイテム】
・オリハルコン×10
・ミスリル×3
・氷竜の魂×1
・浄化の結界石×1
・氷の魔導石×24
・光の魔導石×8
──────────────────
『神剣デルトフィング』と同じジャンルの『剣』を作るイメージでいるから、オリハルコンとミスリルは必要になるだろう。
『ミスリル』についてはミスリル鉱脈から採れること、高価ながら市場に流出する場合があることは分かっている。
いざとなればダイアモンド原石を大量に作って、それを売ったお金でミスリル買う……というのも選択肢としては有りかもしれない。
『オリハルコン』については、エミリアさんからの『自然界には無い』という情報しか今のところは無い。
仮に錬金術で作るとしても……私の勘ながら、『賢者の石』が必要になると考えている。
何せ、ミスリルを錬金術で作る場合にも必要だからね。
……それなら、『賢者の石』はどうやって作るのか? これまた情報が無い。
しかし『賢者の石』は、各種の創作物を見てみると錬金術の究極の目標のひとつであることが多い。
だから、錬金術師がたくさんいそうな王都であれば、何かしら情報が入るかもしれない。
……そして、情報すらあるのか分からないのが竜の魂。
その名前の通り、いわゆる竜の魂なんだろうけど……これは一体、どうやって手に入れるのか?
そもそも竜を倒す必要があるのかな?
そこら辺からして、完全に謎なんだけど……。
それ以外の残りの石については、そこまで大変では無いと考えている。
仮に集めたところで、ここまで同じにしてしまうと神剣デルトフィングが出来てしまいそうだし……。
私が作る神器は、既にあるものではなくオリジナルのもの――
……と思っていたんだけど、そういえばオリジナルって何だろう? などとふと思ってしまう。
そもそも自分で全部を設計しなければいけない?
いや、そもそも神器のレシピって決まったものがある?
そもそも自由自在に作れるの?
……そこら辺をひっくるめて、今のところ見通しは全然立っていない。
「はぁ……、分からないことだらけだ……」
前人未踏の領域を進むのだから、それはもう仕方の無いことだ。
それが大変であり、面白くもある。
しかし――
「……そういえば、今ある神器は全部で3つ……なんだよね?
それって一体、誰が作ったんだろう……?」
現存する3つの神器は神様が作ったのだろうか?
もしくは昔、私と同じように『極限の創造技術』……神器を作り得るスキルを持った人がいたのだろうか?
どこかに情報が残されているなら、それも調べてみたいところだけど――
「……そう考えると、さっさと王都に行って情報収集をしたいなぁ……」
色々な感情が、私の中で渦巻いてくる。
あっちを立てればこっちが立たず。何だかそんな感じだ。
「はぁ、上手くいかないものだね――
……ふわぁ」
あくびを噛み殺しながら時間を見ると、そろそろ24時になるところだった。
明日は普通に冒険者ギルドの依頼を受ける予定だし、もう寝ようかな……?
それにしてもミラエルツでは、現在進行中でいろいろやってるから……。
残りの期間で、ちゃんと上手く終わるように考えていかないと――
……ああ、もうダメだ。
目が重くなってきた……。
今日はもう寝――……