コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
3日後の夜、私たちはいつものように宿屋の食堂でテーブルを囲んでいた。
冒険者ギルドの依頼も問題なくこなし、報酬も順調に稼ぐことが出来ている。
手持ちの全額に比べれば微々たるものだけど、報酬のお金は使い道が決まっているんだよね。
「……というわけで、借りたお金をお返しいたします」
「これで最後ですね。ありがとうございました!」
ルークはそう言いながら、金貨を受け取った。
そう、これはルークの鎧を買うときに借りたお金なのだ。
「……はぁ。
ようやく借金が無くなって、気持ちが楽になったよ」
「アイナさん、お金はたくさん持ってるのに……」
「あれはあれ、これはこれ、です!」
「なるほど、別腹ってやつですね!」
まぁ確かに、別腹といえば別腹……なのかな?
「さて、これでミラエルツでやり残したことは『浪費癖を治す薬』と『なんちゃって神器』の2つになりました。
ガルルンの受け取りも、まぁ一応ありますが」
「そういえばガルルンって、今はどうなってるんでしょうね?」
「うーん。ガルーナ村までは移動に1日か2日掛かりますけど、そこまで遠いわけでもないんですよね。
ただまぁ……割と感動的にお別れしたので、今はちょっと戻りにくいですが」
「確かに、そうですねぇ……」
エミリアさんはうんうんと頷く。
ガルーナ村ではいろいろあったから、すぐに戻るのは少し恥ずかしい。
「……そんなわけで、様子見とかは行きたくないですね」
「アイナ様、それでしたらジェラードさんに頼んでみてはいかがでしょう。
顔も知られていないでしょうし」
「ああ、それは良いかも!
でも、ジェラードさんに連絡するにはどうすれば――」
「いえ、さっきからそこにいますよ?」
……えっ、どこに?
辺りを見回すと、すぐ近くの席でジェラードがお酒を飲んでいた。
「ちょ、ちょーっと、ジェラードさん!」
「やぁアイナちゃん、こんばんわ。
今日も可愛――おっと、ルーク君は今日もかっこいいね」
何やら途中で、ルークの話に切り替わってしまった。
また睨み付けたりでもしたのかな? うん、日常、日常。って、それよりも――
「こんな近くにいるなら、話し掛けてくださいよ!」
「ええ? でも偶然の出会いを――」
「もうそれはいいですから!
ジェラードさんは、もう私たちの仲間なんですからね!」
「……なるほど、それもそうだ。
次からは気軽に声を掛けることにするよ!」
「そうしてください!」
「それじゃ、そっちの席に行っても良いかな?」
「どうぞどうぞ」
ジェラードが席を移動して、四人で四角いテーブルを囲む。
うーん、何でか分からないけど、四人ってすごく安定した人数だよね。多すぎず、少なすぎず、というか。
「ところでジェラードさん、ガルーナ村って知っていますか?」
「行ったことはないけど、知ってはいるよ。それがどうしたの?」
「私たちがミラエルツに来る前、そこに行ってたんですけど……そこでお願いしていたことがあるんです。
ほら、前に見せたと思うんですが、例のガルルン!」
「ああ、特産品にしようっていう、愛嬌のあるアレだね」
「そうですそうです。
その置物を発注してるんですけど、今どんな状況かな~って心配になって」
「ふーん?
僕がリハビリがてら、ちょっと見て来ようか?」
「大丈夫ですか? ……って、リハビリ?」
「ああ、うん。右腕が治ってからいろいろやってるけど、まだ街の外には出ていないからね。
ガルーナ村なら片道で1日くらいだし、勘を取り戻すには丁度良いかなって」
「なるほど? それじゃ、お願いしても良いですか?」
「うん、分かった。
片道は1日だと思うんだけど、ちょっと向こうの村に滞在するかもしれないから……いつまでに戻れば良い?」
「そうですね、私たちがミラエルツを発つのが2週間後なので、それまでに戻ってきて頂ければ」
「あんまり急いではいないってことだね、了解。
……それにしても、何でガルーナ村でそんな注文をしたの?」
「えっと……、いろいろありまして?」
「いろいろ?」
ジェラードは、エミリアさんとルークの方にも目線をやった。
「そうですねぇ、いろいろありましたねぇ……」
エミリアさんが遠い目をする。
「まったくですね、いろいろありました……」
ルークも遠い目をする。
「……ちょっとちょっと! 何があったの!?」
いつも見せないエミリアさんとルークの表情に、ジェラードも慌て始める。
数週間前の話だけど……まぁ、いろいろあったからね。本当に。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……はぁ、いろいろあったんだねぇ」
ガルーナ村での私たちの話が終わると、ジェラードがそう言った。
「ほら、『いろいろ』でしょう?」
「確かに」
私が聞くと、ジェラードも納得した感じで頷いた。
「それじゃアイナちゃんは、ガルーナ村の恩人なんだねぇ。
……それにしても、何種類もの疫病か……」
ちなみに、いろいろ話したとはいっても『疫病のダンジョン・コア』の話は伏せていた。
これはエミリアさんも知らないし話だし、あんなものの話を広めるわけにもいかないし。
今後もずっと、私とルークだけの秘密にしていくのだ。
「アイナさんが村の方を治しましたし、周囲の浄化は聖職者たちが行いましたので、もう大丈夫ですよ。
ただ、同時多発で疫病が発生するのはあまりにも異常なので……王国の方には、もう報告が上がっているかと思います」
「なるほどねぇ……」
「どうかしました?」
ジェラードは少し何かを考えているようだった。
「……んん? いや、今は復興の途中なんだなぁ……って、思っただけさ。
それじゃ、ガルーナ村のセシリアちゃんって子の様子を見てくれば良いんだね」
「はい、お願いします。
いざとなれば、私の名前を出しても大丈夫ですから」
「それは心強い。
どうにも人の少ないところだと、よそ者は目立ってしまうからね」
確かにガルーナ村の人口って、今は250人くらいだからね。
「……さて、僕は今日はこれで帰ろうかな?
明日の早朝から、早速向かってみるね」
「……そういえばジェラードさん、お仕事はもう大丈夫なんですか?」
「え? 仕事って?」
「鉱山で働いてましたよね?」
「ああ、もうとっくに辞めさせてもらったよ。
これからはアイナちゃんの旅を手伝うわけだし!」
それを聞いて、私も一安心だ。
バックレるのは、社会人としてはかなりダメな行為だからね。
「ちなみに、オズワルドさんからは何か言われました?」
「あはは。
『やっと役に立つようになったと思ったら、早速いなくなるのか!』って嬉しそうに言われたよ」
「へぇ、オズワルドさんらしいですね」
「僕も、オズワルドさんにもお世話になったからなぁ……。
……たくさん怒鳴られたけど」
ジェラードは、昔を懐かしむような顔を見せた。
「私が鉱山に行ったときも、すごく怒鳴られていましたしね?」
「ははは、僕のクールなイメージが台無しだ!
さて、それじゃ僕はもう行くね。ガルーナ村から戻ったら、すぐ報告しにくるから」
「はい、よろしくお願いします!」
ジェラードは手をひらひらと振りながら、食堂を去っていった。
何かを少し考えていたようだったけど……まぁ、ガルーナ村の往復くらいだもんね。心配は要らないよね?