「 木洩れ日の奥で 」
もりょき
秋の文化祭当日。金木犀の香りがふわりと校舎を包み、校庭では模擬店の声がにぎやかに響いていた。
だけど──
「 …はあ……ぅ、うっ…… 」
保健室のベッドの上。元貴はこわばった顔で吐き気と闘っていた。
せっかく頑張って登校したのに文化祭開始前から体調を崩してしまったのだ。
涼架が背中をさすりながら冷たいタオルで額を拭く。
「 ごめん、涼ちゃん…また……台無しにしちゃって… 」
「 馬鹿。そんなことどうでもいいでしょ、今は元貴がしんどくないようにって、僕が一番に思ってんの 」
その声に元貴は少しだけ目を細めた。
息はまだ浅くて、顔色も真っ青。それでも──
「 ね、あとで…一緒に、ちょっとだけでも、文化祭……見に行けたら…いいな 」
「 無理すんなって 」
「 ううん……涼ちゃんと一緒なら……大丈夫、かも 」
涼架はその手をそっと包み込んだ。
もう、触れられることに怯えてはいない。少しずつでも、前を向こうとしている元貴が、そこにいた。
──午後。人の波が少し落ち着いたころ。
涼架は、元貴のために準備していた“とっておき”を取り出した。
「 じゃーん、特製お好み焼き! 3-Bのやつ、こっそりもらってきた 」
「 …食べられるかな 」
「 ひと口だけでも。ほら、ちょっと甘めだから 」
元貴はおそるおそる口に運んだ。
ふわっと広がる香ばしいソースの香りに、目を丸くする。
「 …おいしい……! 」
その笑顔に涼架の胸がきゅっと締めつけられる。
もっとこの顔を見たい。もっと、笑っててほしい。
「 僕は元貴のためにここにいる。……だから、頼ってくれていんだよ 」
「 涼ちゃん…… 」
その声に元貴はそっと微笑んだ。
窓の外では、秋の空がやさしく揺れている。
──ふたりが初めて手を伸ばしあえた、文化祭の日。
少しずつほどけていく心と、信じることを覚え始めた時間。
この一歩がこれからの“ふたり”の未来を変えていく。
#8.「 手を伸ばしたその先で 」
最近雑談に来てくれる方多くてもう好きです(?)
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