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「ごめん、ぶつかりそうだったね」
近い距離で耳に直接声が響くと、心の奥の波が大きく|畝《うね》る。
「う、うん、大丈夫」
三崎君がスッと離れて歩き出した。
すると、途端に見捨てられたような寂しさを感じてしまう。
三崎君が手にカゴを持って戻って来ると、ちょっとした出来事に揺さぶられている感情に戸惑う。
「お菓子、決まった?」
「このイチゴのチョコと新発売の厚切りチップスにしようかと……」
私の言葉を聞いて三崎君は、同じものを2つづつカゴに入れた。
「いいね!食べるのが楽しみだね。飲み物も買おう」
そう言って、私の手を引き冷蔵庫の前に移動する。
三崎君に握られた手の熱ばかり気になって、上手く気持ちが処理できない。
「やっぱり、仕事終わりは、ビールかな?あ、限定がある」
三崎君は私の手を離すと、冷蔵庫を開けて、缶に桜の絵柄が付いたビールの500ml缶を2本入れた。
そして、ホットのミルクティーもカゴに入る。
レジに行ってカゴをレジに出すと三崎君が店員さんに声を掛けていた。
「袋を2つにして、分けて入れてもらえますか?そう、1つづつで、あ、それだけ2つとも袋に入れて、ありがとう」
2つずつ入れていたのは、初めから分けるつもりでいたんだ。
あ、お会計しなきゃ、と思っていたら三崎君がスマホをかざし電子マネー決済のレジがワンワンと鳴いた。
それが可愛く聞こえて、クスクス笑ってしまった。
「はい、どうぞ」
と、お菓子とビールとの入った袋を渡され、ありがとうと素直に受け取った。すると、三崎君の温かい手が触れる。今までだったら、そんなに気にならない事でもヘンに意識してしまう。
「帰り心配だから、家の側まで送って行くよ」
「三崎君、色々ありがとう。急な連絡に駆けつけて来てくれて、仕事で疲れていたのにごめんね」
「いいって、車に乗ったタイミングで電話が掛かって来て間に合って良かったよ。何かあってからだと取り返しがつかない」
三崎君が車の助手席のドアを”どうぞ”と開けてくれて、”お邪魔します”と乗り込んだ。
三崎君は運転席に座ると神妙な顔をして、口を開いた。
「心あたりなんて……ないよな」
「えっ? 今日、つけられた事? そんなの初めてだったから、心当たりも何も突然の事で……。でも今日の事は、たまたまだと思う」
「でも……。たまたまじゃなかったら、明日もあるかもしれない」
こんな事が続くなんて、考えたくなかった。しかし、明日は大丈夫と言う保証もない。
また、知らない誰がつけて来る。それを考えると足音が追いかけて来る恐怖がよみがえり、膝の上でギュッと手を握った。
その様子を見ていた三崎君が、コンビニのビニール袋からホットミルクティーを2つ取り出し、そのうちの1つを”はい、どうぞ”と手渡してくれた。
その温かさにホッとする。
「甘い物でも飲んで落ち着こうよ」
受け取ったミルクティーに口を付ける。ミルクティーの甘い味が口に広がりホッとする。
私が、リラックスした様子を見計らって、三崎君は言葉を続けた。
「美緒さんを怖がらせたい訳ではなく、危ない目に合わせたくないんだ」
三崎君の優しさが、心に沁みる。今日だって、心配して直ぐに駆けつけてくれた。
気持ちが落ち着いてくると、思考が動き出す。
心当たりが無いと言ったけれど、やっぱり果歩が何かしたのでは?と思ってしまう。
デパートで会った時に、いくら頭に来たからとはいえ、慰謝料だなんて言ってしまったばかりに、逆恨みされてしまったのかも……。
そう思い当たるとゾクッと背筋に悪寒が走る。
「じゃ、帰ろうか」
三崎君の言葉にうなずくと、車がゆっくり動き出す。徒歩で帰っても10分とかからないその距離は、車で行けばあっという間だった。
マンションの前に車が停まった。
「三崎君、今日はありがとう。おかげで安心して帰れました」
「美緒さんさえよければ、状況が落ち着くまで送るよ」
「そんな……。三崎君だって、仕事で疲れているだろうし、悪いよ」
「いや、美緒さんに何かあったらと思うと、精神衛生上良くない。そんな思いをするなら、送らせてもらう方が安心できるよ。それに、俺が美緒さんを送りたいんだ」
三崎君に甘えすぎていると思う。
それでも、初めてのひとり暮らしということもあって、不安も大きい。
「あの……三崎君の都合が良い時にお願いします。タクシーを使ったり、防犯グッズ持ったり、工夫するから、無理のない範囲で……」
そう言うと、三崎君は安心したようにフッと微笑む。
「了解、都合が悪い時は、ちゃんと言うよ」
「うん、本当にありがとう。三崎君が助けてくれるから、心強いよ。おやすみなさい」
「おやすみ」
三崎君の車のゆっくりと動き出す。小さくなるテールランプを見送ると寂しさを感じた。
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