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水曜日の午後、私は弁護士の山崎先生と共に警察署へ訪れた。
告訴状を提出するためだ。
警察は、告訴状を提出されたなら、それを受理し、捜査を始めなければいけない。
しかし、捜査機関が一度、告訴、告発を受理すると、捜査のためそれなりの人員と時間を割かなければいけなくなる。限られた人員と時間で、いくつもの事件を抱えているため、貴重な人材を割く事になる。
そのため、途中で示談になりそうなケースなどは、告訴状を受け取るのを渋るケースがあるそうだ。
弁護士の先生を同伴して警察署を訪れたのは、こちらの本気度を警察に伝え、告訴状を受理してもらうためだ。
「山崎先生、ご足労頂き、ありがとうございました」
「いえ、菅生さんの本気が伝わったんですよ」
そう、無事に告訴状を提出できた。
これで、最低でも果歩が容疑者として捜査が入る。
「離婚の慰謝料についても、こちらの希望通りの金額で、菅生健治さんから了承が取れました。これで、離婚届を提出すれば、離婚成立です」
山崎先生の言葉を聞いて、直ぐに返事が出来なかった。
健治と離婚するのは、希望していた事だし、決めていた事だ。
けれど、離婚が現実のものとなった瞬間、心が動揺している。
そして、そんな自分自身にも驚いていた。
マンションの部屋に戻ると、ドッと疲れが押し寄せた。
慣れない警察署での手続きに、気持ちが張っていたのだ。
ベッドに腰かけ、スマホの画面を見ると時刻は17時を過ぎたところ。
「あー、疲れた」
そうつぶやき、そのまま後ろに倒れ込んだ。
必要最低限の物しかない部屋中で、天井を見つめていると、自然と涙がこぼれた。
泣いてしまうのは、しょうがない。
涙を流すことで、副交感神経が刺激され、ストレス解消の効果があるらしい。
だから「疲れているんだ」と自分に言い訳をする。
ひとしきり泣くと、少し気持ちの整理がついた。
涙を拭い、スマホの画面を見つめる。
その中にあるメッセージアプリを立ち上げ、ポチポチと入力をする。
『健治へ 弁護士さんから慰謝料の事聞きました。離婚届の提出を今週の土曜日にしようと思います。それと、残りの荷物を取りに行きたいのですが、都合はいかがでしょうか?』
入力を終え、何度も読み返してしまう。
「はぁ」と息を吐きだし、送信ボタンをタップした。
スマホをベッドの上に投げ出し、立ち上がる。
「さあ、お風呂に入ろう」
感傷的になってしまうのは、仕方ない。
これまで、積み上げて来た生活が終わりを告げるのだから。
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