テラーノベル
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マイコニドを充分味わい、十層へ下りてきた。やれやれ、やっとかという気持ちと、ようやくたどり着いたという安堵に加えて、今日のキノコパスタはどのキノコを使おうか、などと考える余裕も生まれてくる。
キノコの種類にそれぞれ名前がついてたりするんだろうか。するんだろうな。現実のキノコと同じ名前がついてるキノコもありそうだ。そもそもキノコの同定すらしてない現状、これがどのキノコと同じで……みたいな話はあるんだろう。
そっちの道を極めている菌類学の学者の所へ持っていって、これどんなキノコっすか? と質問を投げ掛けるぐらいはしているだろうし、その作業を通り抜けなければ、そもそも食用だと認識できないし、一般向けの説明としてもこのキノコは食用だから食べていいですよ、とは言えなくなるだろう。
やはり、俺の知らないネットワークやダンジョンとは専門外の知識や研究も行われているのだから、ダンジョンに潜ることがダンジョン学部の仕事とイコールではない、という大泉先生の言い分は正しいのだろう。ダンジョンに潜って新しいものを見つけるだけなら他の人でもやれるが、それが一般的な物なのか、それともより大きいスケールやエネルギー、美味しさなんかのパラメーターを持っている物なのかどうかを研究するのが我々の役目、というところか。
十層に下りてしばらくはモンスターがいなかったが、三分ほど歩いたところでシャドウウルフとご対面。威圧でじっとさせてその間に倒す、というお手軽戦法でどんどん先へ進んでいく。もしかしたらホブゴブリンも、今日拾ったスクロールが威圧だった場合にあっさり倒させてくれるようになるかもしれないな。
そうなると生活費稼ぎや、爺ちゃんに連絡して扶養に入らないことを宣言した上で確定申告を自分でやって、きちんと税金を払っていく方へ進むという可能性もある。ここでならともかく、家でホブゴブリン相手にしているとあっという間に扶養控除限界金額まで稼いでしまうので注意は必要だ。
なんせ、既に50万ほどは稼いでいるのだから、ざっくり言ってあと半分ぐらいしか稼げない。これならいっそのこと稼いでしまってきちんと申告した方がお得な場合すら出てくる。しかし、一回生二回生の授業の暇もあるし、それだけ稼ぐほどダンジョンに潜ってないことを突き詰められると専用ダンジョンのことがバレる可能性だってある。
それは避けたい……いや、そもそも他の人には見えないし入れないんだからどうしようもないのではないだろうか。モンスターが溢れ出てこない限りはバレる可能性は低いのか。そう考えれば安心して探索を進めようという気になってきた。悩むのは問題が発生してからにしよう。
シャドウウルフをサックリ倒しながら地図通りに進んで三十分。ボス部屋前にワープポータルがあった。どうやらここのダンジョン主も、どうせボス部屋アタックするじゃろ? という感じでボス部屋前にワープポータルを置いてくれてあるらしい。
ボス部屋前においてくれるということは、ボス待ちの行列がそれなりにあるということでもあり、二パーティーほどがボス部屋前で休憩を取っていた。ちゃんと俺たち以外にも探索者パーティーが居たんだな、ということが確認できた。良かった、ちゃんと人がいて。
そのままワープポータルで一層にもどり、そのまま退場手続きを取って、換金カウンターのほうへ向かう。こちらは駅前ダンジョンほど広くはない。やはり、探索者人口の違いなのか、それとも時期的に少ないほうなのか。換金ついでに聞いてみるか。
「いらっしゃい、換金していくの? 」
換金カウンターのお姉さんに気軽に話しかけられたので、こっちも同じようにフランクに接していく。
「お願いします。今日はなんだか他のパーティーに出会わなかったみたいですけど、普段からこんな感じなんですか? 」
「普段はもう少し多いわね。やっぱり、探索者サークルの実地活動が始まるまでは少なめになるのはしょうがないことよ。新入生の囲い込みのほうが大事だからと、今の所一生懸命各学部を回って説得に回ってるんじゃないかしら。貴方たちは何学部? 」
お姉さんが魔石と品物を鑑定しながら慣れた手つきと素早い腕前で次々に鑑定していく。
「ダンジョン学部です。今の所学部生全体に対して探索者サークルからスカウト……というのは来てないですね」
「それはそうかもね。ダンジョン学部はダンジョンに潜る側じゃなくてダンジョンから拾ってきた物資の研究やそれを使った新技術の開発ってイメージが強いみたいだから、フィールドワークは講義でやるなら講義でやるだろうし……と思われてるんじゃないかしら。えっと……二等分でいいのかしら? 」
手際よく終わった換金にちょっと驚きつつ、素直に聞かれたことに答える。
「はい、二等分でお願いします。そう言うことでしたか……ならもうしばらくは取り合いをせずに済みそうですね」
「そうかもね。はい、じゃあ確認してください」
支払いを受けたレシートと共に、買い取り金額、一人当たり34500円を受け取る。サラマンダーの革とビッグバットの魔石がかなり金額にプラスされているようだ。
「さて、とりあえずドロップ品は一通り出した……ということで、次はスキルスクロールの鑑定だな」
「【威圧】か、【精力絶倫】か。後はこの二枚のスキルスクロールがどちらもエネルギーボルトだった場合にどうするか、とか。いずれにせよ金額に直すと今日は結構な収入になったな。全部高額で売り払っていれば……一日で70万ぐらいにはなっているはずだ。それを現金化せずに品物のまま使おうというのもなかなか贅沢な話じゃないか」
影がかかっていたりしないように彩花に持っていてもらって、スクロールの文面を順番にスマホで撮影していく。バッグに忍ばせていた付箋紙に123と番号を振って、番号通りにスクロールを鑑定サイトで確認する。
まず、オークチーフのスキルスクロールだ。鑑定結果は……セーフ、【威圧】だった。精力絶倫だったら俺は今年から自営業扱いで探索者として収益を上げるべく頑張る所だった。危ない危ない。これは覚えよう。
続いて、雷スケルトンから落ちてきた二枚のスキルスクロールを鑑定にかける。……結果はどちらもエネルギーボルトのスキルスクロールだった。
「どうする? 換金する? 彩花の利益にもなることだし、まだまだ余裕があるそっちの収入具合を考えたら一枚二枚は売り払ってもいいと思うんだけど」
「そうね……じゃあ一枚だけ売りましょう。本来なら二枚とも売って現金に……と考える所でしょうけど、そこまで今のところお金に困ってないし、売る時は幹也のタイミングで良いし、お金に困ったらその時に取り出してもらうってことで保管してもらっておいていいかしら」
「わかった。そういうことにしておこう。じゃあこの一枚は保留で。こっちは……」
その場で【威圧】のスキルスクロールを覚えてスクロールから文字を体に転写させる。これで威圧のレベルが11になったかな。11あればホブゴブリンも威圧に引っ掛けることができるかもしれない。後で専用ダンジョンで試してみよう。
「すいません、こちらのエネルギーボルトのスキルスクロールだと思われるものを売却したいんですが」
「聞こえてたからおおよそ大丈夫よ。一応こちらでも鑑定をかけさせてもらうわね」
「はい、お願いします」
そういうと裏側へ行き、各ギルドに置かれているという噂の精密鑑定機にかけているようだ。これ一つで億単位の金がかかっているという噂であり、ギルド職員以外の使用を固く禁じられている。
しばらくして、二等分の金額とともに換金担当のお姉さんが戻ってきた。
「お待たせ、今の相場が30万円で、ギルド取引手数料とスキルスクロール仲介手数料をそれぞれ一割ずつ抜いて、24万円の二等分で12万円ずつの支払いになります。スキルスクロール仲介手数料については納得してもらっている、と考えていいのよね? 」
スキルスクロール仲介手数料の確認をされる。ここで確認されるということは、以前仲介手数料が発生することについて知らなくてごねた相手がいた、ということなのだろう。しかし、相場は21万から30万という話のはずだったので、上限で売り場を掴めた、ということになる。これは美味しい話ではあるな。
「はい、以前も同じことをしましたので。では、レシートと……はい、レシートも二人分出してくれてあるようで何よりです」
「そこはちゃんとしないとね。お金に関するところだし、大学生になって税金ですぐさまもめたりしないように、探索者サークルでもダンジョン学部でも同じように指示はされるはずだから問題はないと思うけど……二人は探索者サークルに入っているの? 」
「私たちは入ってないわ。いわゆる個人探索者の範疇ね」
「というわけで、税金の話もある程度は頭にあるので大丈夫です。悩んだら……まあ、なんとかしますよ。レシートさえきっちり耳をそろえておけば、税務署に相談しに行くこともできると思いますので」
「そう、それだけしっかりしてれば大丈夫そうね。今日はお疲れ様でした」
それぞれ12万円を受け取ると、今日の合計金額は154500円になった。例えばだが、週一でこれだけ稼いでたら今年の収入は700万円ほどになるだろう。そこまで稼ぐつもりもないが、必要分だけ仕入れていくようにしていこう。探索者の税金お悩み窓口みたいなものもあるだろうし、それを淡々と語っていくサイトも探せば見つかるだろう。
そのまま彩花と別れて部屋に戻る。部屋のいつもの現金預け入れ用の引き出しのカギを開けて10万円ほどを入れておくと、残りは財布に全部入れておくことにした。さて、今日の探索は儲けも含めて充分な金額になったぞ。
ダンジョン学部生として今日の探索で思い返して、よく考えてみる部分については何か。それをノートに記しておこうかな。ある程度数が溜まったら見返して、感じたことを再編集してダンジョンとはどういうものなのか、というのをはっきり観察しておくことも必要だろう。
とりあえず今日はキノコパスタだ。余った分のキノコは両隣のドアノブにぶら下げておいて、メモを挟み込んでおいてダンジョン産の食えるキノコでおすそ分けだと記しておこう。
コメント
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読み終わりました!今回は探索後の「お片付け」パートが中心でしたけど、結構な収入になってて正直ホッとしました笑。スキルスクロールが無事【威圧】で良かったですね…【精力絶倫】だったらどうなってたんだろうと考えちゃいました。換金所のお姉さんの「ダンジョン学部は潜る側じゃない」って台詞、なるほどな〜って思わされました。主人公の研究者的な視点と実務感覚のバランスがとてもリアルです。最後のキノコパスタとおすそ分け、ほっこりしました。お疲れ様でした!
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