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こげ丸
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‐本文11,370字‐
20☓☓年9月28日午前2時37分───。
女性が一人で歩いていたところ公衆電話ボックスの中で男性が座り込んでいるのを発見。
不思議に思った女性が扉を開け声をかけたが、男性は腹部を刺され既に亡くなっていた───。
───20☓☓年9月28日午前8時20分。
サイレンが鳴り響く中、 公衆電話ボックスから半径10メートルの範囲に規制線が張られ、その外には一般市民が何があったのかと押し寄せている。
「はいはいはい、すみませーん。」
警視庁捜査一課第3係所属刑事、斉藤裕貴。
「通らせてくださーい。警察です。どいて。」
人をかき分けながら通れるように声をかけ規制線にたどり着くと制服警官へ手帳を見せる。
「お疲れさまです!」
「お疲れさま。」
ピシッとした敬礼に、軽い敬礼を返して規制線の中へ入っていく。
内ポケットから手袋を出し装着する。
「よお、おはよう。それで?今どんな感じだ。」
「斉藤さんじゃないすか!久しぶりっすね!奥さん、怒こってませんか?」
「いや、妻にはキツく説教された。『もっと家族が増えた自覚を持て』だとよ。別に俺だって考えてないわけじゃないっての。」
「たまには奥さん労ってあげてくださいよ〜。娘さん生まれてすぐでしょう。」
会話の相手は、斉藤よりも6年後輩で斉藤と同じく捜査一課第3係所属の刑事、鈴木大翔。
朝の挨拶として何気ない会話をしたあと、いよいよ本題へ入る。
「被害者は20代男性。死亡推定時刻は午前2時15分頃。女性が発見する22分前に殺されたかと。」
「なるほどねぇ。名前は。」
「所有していた財布の中身をみる限り、名前は山田彰太朗。二駅先の会社に勤めていたようです。 ───でも斉藤さん、聞いてくだいよこの被害者も大学でなかなかヤンチャしてたみたいっすよ?」
淡々とした口調で一通り説明したあと、息を短く吸って被害者の過去の行いを話題に出す。
「発見から数時間でもうそこまでわかっているのか…。相変わらず仕事が早いな。」
「へへ、それほどでも」
「別に鈴木、お前のことは褒めてない。」
斉藤は鈴木の顔を真顔で見つめて冷たく言い放つと、しばらくの間、沈黙が走る。
お互いに眉をひそめ見つめ合い、頭上にはハテナが浮かぶ。
「…そう、っすか。」
先程までとは違いしょんぼりと下を向く鈴木に慌てて声をかける。
「ああっいやっでもそうだよな?お前は誰よりも仕事が早くて、誰よりも早く俺に事件の内容伝えてくれるもんな!」
斉藤がそう言うと曇っていた顔がパーッと明るくなりニコニコと笑いながら照れくさそうにする。
「こいつの扱いは本当に難しいな…。」
「なんか言いました?」
首を横に振り、手を合わせてから、被害者の身体に触れる。
被害者の服装は白のTシャツに、チェック柄のシャツ、そして青みがかったジーンズ。
至って普通の服装だ。
何かないかと衣服を触っていると、ズボンのポケットから紹介制バーの会員証が出てきた。
「なあ、コレ。見たか?バーの会員証らしいが。」
「いや、知らないっす。ちょっと貸してもらえます?他のに聞いてみるので。」
鈴木に手渡すと会員証を持って別の場所を視ている刑事の方へと歩いて行く。
しばらくすると斉藤の元へと戻ってくる。
「見落としてたみたいっす。どうっすか。なんか他に出てきましたか。」
「そうか。こっちももう特には。あとは鑑識課だな。」
「じゃあ、バー、行ってみませんか。そんな遠くないですよ」
会員証を指でさしながら鈴木が提案する。
「おっし。じゃあ行くか。」
───現場から歩いて15分、少し路地に入り込んだ場所にある小洒落たバー。
「『BAR HOSHINO』…。ここっぽいな。」
ネオン看板に崩文字で書かれた店名と、会員証に書かれた店名を照らし合わせる。
店の扉を押すと扉の上に掛かったベルが柔らかい音を店内に響かせる。
バーテンダーがこちらに振り向き、少し申し訳なさそうに口を開く。
「すみません、うちは紹介制でして。 来ていただく際は、うちに来たことがあるご友人様も一緒なければならないんです。」
「ああ、実は私たちこういう者でして。ちょっと、お話いいですか。」
手帳を出し自分たちの身分を提示する。
バーテンダーは手帳と2人の顔を何回か交互に見ると額に汗が滲む。
「うちが何かしてしまいましたか…?」
「いえ、そういうわけではないです。───ここじゃ話せない内容なので、外でも?」
「あ、裏が空いてるので、そちらにどうぞ。」
カウンターにいるもう1人に声を掛けてから、こちらへどうぞ、とスタッフルームに通される。
バーテンダーと向き合うかたちで座ると、緊張を多少和らげようといつも以上に声のトーンをあげて斉藤が口を開く。
「未明にこの付近で殺人事件があったんです。“山田彰太朗”という名前に聞き覚えは?ここに通っていたようなんですが。」
名前を聞くと目を見開き身を乗り出す。
「っしょ、彰太朗さん───…山田さんに何が…?すみません…もし報道されているようなら、ニュースは観ていなくて…。」
後半に行くにつれ声が弱まり俯いてしまった。
「申し上げにくいのですが、山田さんは何者かに殺され発見されました。」
「まさか…そんな…大切なお客様が…。」
拳に力を入れ俯き、黙り込むバーテンダーの隣に鈴木が歩み寄り、肩に手を回すと同情するように肩を撫でる。
───山田彰太朗はバーの常連で昨夜も2時間ほど立ち寄っていたようだった。
時間帯は午後10時から12時過ぎ頃。
かなり酒が入り店を出る頃には足取りがかなりふらついていたらしい。
始めて来た時から印象は悪くなく、他の客や店員に話しかける際もラフながらどこか礼儀を感じたそうな。
それ故、恨みを買うような人とも思えないのだとか。
「あんま事件解決の手がかりに繋がるような話は出てこなかったっすね〜。」
「そんなつまらなそうにするなって。まあまあ重要そうな事聞けたじゃねぇか。」
「えっ、なんすか。」
「確か…午後10時から12時過ぎまで居たと言ったな。」
「ええ、そうですけど。それがどうかしましたか?」
わからなさそうにしている鈴木に斉藤が続ける。
「山田の家はあのバーから約1時間。それで、死んでいた場所は家とは反対方向だ。 」
「酔っぱらって家の方向間違えただけじゃないですか?」
「さっきも言ったようにあそこから山田の家は約1時間だ。発見された場所はバーから15分。」
先程まで宙を仰いでいた目がハッと斉藤を見る。
「空白の時間ができる…!───あっでも、それだと“他の店に寄っていた”…というのも説としてはあり得るのでは?」
「もちろんそれも否定はできない。だが。」
「だが?」
「山田は普段フラフラになるまで飲まないそうなんだ。自分でも何軒も入れるほど酒は飲めない、と何回も言ってたらしい。 」
「それなら山田はいったい───。」
───「空白の時間どこでなにを?」あれから目立った手がかりは掴めず、早3日が経とうとしていた。
20☓☓年9月30日午前11時8分。
今朝も変わらず先日の件で、デスクに突っ伏してパソコンを触っていると、1本の電話が入る。
「はい、こちら捜査一課…はい?殺人…本当ですか!すぐ向かわせますので!」
電話の内容にその場の人間全員に緊張が走る。
電話に出た人間が受話器を置き、一呼吸してから1人ずつ目を合わせていき言う。
「また、公衆電話のボックス内で遺体が発見されたようです。」
その言葉に皆がざわつく。
すると黙らせるように係長が椅子から勢いよく立ち上がる。
「手が空いている者は至急現場へ直行だ!」
一斉に返事をし半数以上が鞄やジャケットを手に部屋から出ていく。
「鈴木、俺たちも行こう。」
───サイレンの音がうるさく鳴り響く中、いつものように人が押し寄せている。
それをいつものようにかき分け規制線へたどり着く。
2人は先に到着し捜査をしていた鑑識官に分かっていることを聞く。
「お疲れ様です。被害者は?」
「20代女性、腹部に包丁のような物で刺された跡あり。持ち物など特に荒らされた形跡はなし。…そこで1つ気になることがあるんです。」
「気になることってなんすか?」
「死亡推定時刻が大体午前4時から午前6時の間、そして発見は11時。その間に人が何人も通ってるはずなんですよね。」
斉藤と鈴木が顔を見合わせ、同時に話す。
「「ってことは、別の場所で殺され…運ばれた?」」
鑑識官はおそらく、と小さく頷きそこで別れる。
「そうなってくると、山田も別の場所で殺された可能性が出てきますね。空白の時間も辻褄が合うっす。」
───20☓☓年9月30日午前12時5分。
“公衆電話男女連続殺人事件”として捜査本部が置かれ、いよいよ本格的に捜査が開始された。
「今朝発見された女性の名前は村上咲良、隣町の大学に通っており殺される前日も村上の友人が会っていました。『特に変わった様子はなかった』との事です。そして───」
今判明していることを発表していき、情報を共有しまとめる。
被害者はどちらも刃渡り18センチほどの物が使われ、 血溜の範囲が狭かった事や、女性が発見された時間から男女ともにその場で殺されたのではなく別で殺され運ばれたと推測した。
「───携帯電話のバッテリーも切れておらず公衆電話を使う必要性が感じられなかったことにより、犯人がわざわざ運び込んだと思われます。」
ようやく1人目が終わると斉藤が手を挙げる。
「最初の被害者ですが、殺される2時間前にバーで酒を飲んでいた、と前に言いましたが…あの日友人らしき人物もいたようです。その人物も視野に進めます。」
「では次───」
───20☓☓年9月30日午前11時40分。
先日話を聞いたバーテンダー、星野から突然斉藤の元に電話が掛かってくる。
『思い出した事があるんです。実はあの日、山田さんの他に女性が来ていたんです。初めて見る方でしたので名前は分からないんですが…随分と楽しそうに話していました。』
「本当ですか!!その女性の特徴は?」
『巻き髪で、身長は160センチくらい…大人しい方でした。顔は…女性の方、すごく濃い化粧をしていて、あまりよく分かりませんでした…。』
「そうですか。情報の提供ありがとうございます。参考にさせてもらいます。」
電話を切ると鈴木に誰かと聞かれ、バーテンダーだと答えた。
───20☓☓年9月30日午後4時28分。
また星野から電話が掛かってきて、出ると大焦りで話し出し、落ち着くよう言うと深呼吸をする音が入り、次は冷静に話し出す。
『ニュース、ニュースを観たんです。今朝亡くなられた女性、あの人…。』
そこからしばらく黙るとため息が聞こえてくる。
『山田さんと来ていた女性です。ニュース観た時、化粧の関係で最初は誰かわからなかったんですけど…口元がよく似ていて、思い返してみたら…。』
斉藤が礼をして電話を切り眉間を押さえる。
椅子に深くもたれ掛かり天井を見上げる。
「鈴木ぃ、山田の連れてた女、リストから外しとけ。」
「えっ、どうしてっすか。」
「その女が村上だった。」
会話を聞いていた周りの人間たちが一斉に視線を斉藤へ移す。
斉藤は何人にも向けられた視線に驚き思わず姿勢を正した。
「えっと───」
言いかけた時、扉がバンッと音を立てて勢いよく開いた。
「公衆電話付近で同じナンバーの車が通っていました!!映っていた時間帯も、遺体発見時間と近いです!」
───ホワイトボードに今ある情報を全て書き出す。
「まず、被害者の名前は1件目が山田彰太朗、2件目が村上咲良。どちらも死因は、刺されたことによる出血性ショック。───」
どちらも他で殺され、車で運ばれた。
公衆電話はちょうど防犯カメラには映っておらず、犯人がいつ運び込んだかは不明。
だが、公衆電話の付近で同じナンバーの車が見つかった。
犯人は持ち物を狙った通り魔かとも思われたが、2件とも財布の中身、スマートフォンと持ち去られた跡も、荒らされた形跡もなかった。
今回殺された被害者2人は、現時点の調べでは交友関係にあり、男性が殺された日も会っていたという。
女性は男性より1時間早く帰っていたことが新たに判明。
「山田と村上が友人だった事を犯人は知ってたんすかね?それとも偶然か。それにしては必然的すぎる気も…。」
鈴木が首を傾げ、不思議そうに言うと、皆が偶然と言い切れない様子だった。
───20☓☓年10月1日午前8時00分。
月は変わり10月の翌朝、斉藤は眠そうにする鈴木の腕を無理やり引き、村上の通っていた大学に向かっていた。
「朝から聞き込みするのキツイっすよぉ、斉藤さぁん。」
「そりゃお前、遅くまでパソコンとにらめっこしてたせいだろ。───あ、居た。あの人だ。」
村上と前日まで話していたという女性に近付き声をかける。
「橋木日奈子さんでお間違いないですか?」
「そうですけど…もしかして警察の方ですか?」
そうだと答え、手帳を見せると橋木は警戒の目をやめ頷く。
「授業が始まるまでなら大丈夫ですよ。って言っても話せるような事なんてないんですけどね…。前来た方にも言ったんですが…。」
橋木がベンチに座ると、さっそく話題を出す。
「村上さんの周りに不審な人物はいませんでしたか。」
「あの子、ストーカーとかそういう人は寄せ付けないタイプだったんです。だから、付きまとわれてるとかいう話は聞いたことないです。この感じだと…犯人はまだ捕まってないんですね…。」
「一刻も早く捕まえますので。前日も変わった様子はなかった、との事ですけど、別の日もそんな調子でしたか。」
「ええ、…あっ、でも咲良は前日に、やっと彼氏と別れられたって喜んでました。それと…こんな事言っては悪いんですけど…実は、浮気してたんです。ニュースでやってた山田って人と。」
衝撃で言葉が出ずにいる斉藤とは逆に、それを聞いた途端、ずっと斉藤の隣で黙っていた鈴木が興味津々に話し出す。
「それって本当ですか!その彼氏の名前ってのは知ってたりします?」
「遠藤です。遠藤陸。咲良と同じ学科にいた気がします。すみません、もうすぐ授業なんで、失礼します。」
お辞儀をして橋木を見送る。
大きく手を振る鈴木に気付き斉藤は咄嗟に腕を下げさせた。
「ったくもう、目立つだろうが。鈴木にしては珍しく食いつきがよかったな。」
「だって、浮気してたんすよ?被害者2人で。きっと彼氏は振られてから、たまたま浮気してること知って衝動的にこう、ガッと。こういう男女のドロドロとしたの好きでつい…。」
微妙な顔をする斉藤に慌てて訂正をする。
「いやこれは違うくって、そのー…だから、そう!殺人はもちろん許せません!!」
「そうかよ。ほら、目も覚めたろうし、授業終わるまで時間つぶした後に遠藤って男探すぞ。」
今だ勘違いだと騒ぐ鈴木を軽くあしらいながら大学を出る。
───警視庁に帰って戻る時間はないので授業が終わるまでの90分ほどをカフェで時間つぶしする。
「斉藤さん、聞いてもいいですか。」
「なんだ、聞きたい事って。」
「コレ朝ごはんのつもりですか?」
その問に真顔で真面目に答える斉藤を見て思わず鈴木は苦笑いする。
「だって…だってですよ…!?朝食に生クリームたっぷりなパンケーキはキツイっすよ…!!女子高校生でもあるまい!」
「そうか?俺はよくそれ食いに来るけどな。休日とか。」
「斎藤さんって意外と甘党なんすねぇ…じゃなくて!!じゃあなんで今あんたはカツサンド食ってんすか!俺もそれがよかったすよ!」
「あーあーうるさいうるさい。迷惑だろ、黙れって。じゃあ交換な。…ん?」
せっかく交換すると言ったのに、どこか譲りたくなさそうな表情をする鈴木の顔を見て交換しようとする手をとめる。
「女みてぇだな…。本当にムズいわ…お前を扱いこなすの…。」
「お腹空いてんで、これでいいっす。」
「なあ、おい。電話なってるぞ。」
「俺だったんすか。げっ、例の先輩っす。ちょっとすみません。」
席を外すといい、店の外に出て行った。
相手は第3係の中で一番怖いと恐れられている人間。
5分ほどして頭を掻きながらダルそうな顔をして席に戻る鈴木に、どうしたのか聞く。
「色々あるみたいで、一回警視庁の方戻ります。間に合ったら来ますわ。」
「ああ、分かった。代わり来たりするか?」
「来るっすよ!一番若いのが。じゃ。」
全然食べられていないパンケーキをデカデカとナイフで切ると、それを口に無理矢理突っ込み鈴木はカフェを去る。
───時間をつぶしたので大学にまたやって来た。
まだ10分あるのでベンチに座り、そこでとりあえず代わりに来る人間を待つ。
後ろから斉藤を呼ぶ声がし、振り返ると手を振りながら走って向かってくる姿が見えた。
躓き転びそうになったのを見て斉藤が立ち上がる。
「さ、さい…斉藤さんで、合ってますよね…!?僕、第3係に最近来た、えっと…っ。」
「分かった、分かった。1回呼吸整えろ。」
深呼吸を何回かしてからピシッと服装と体勢を直し、ハキハキ自己紹介を始める。
「最近新しく来ました!大久保海渡です!元々第7係にいたんですけど、なんか移されちゃって…。」
「第7係って…。結構な大物揃いじゃねぇか。」
「先輩たちはですけどね。僕は例外っちゃ例外なんで、大した成果も挙げられず…。そしたらなんか、空きがあったらしい第3係に。」
「おいおい、そしたらそいつらにこう言っといてくれないか。お前らは宝石の原石を逃したって。」
わかりやすく尻尾を振り目を輝かせる大久保の肩を組むと、大久保がまたニコニコと笑う。
授業が終わったのか、次の授業に向け学生が外へと出てくる。
「おっじゃあ早速人探しってところだ。」
「たしか…遠藤陸ですよね。」
斉藤は頷き、二手に分かれて遠藤を探す。
斉藤の携帯が鳴る。
出ると、大久保が見つけたらしい。
「電話番号よく分かったな。」
『鈴木さんが。それより、───』
───「───遠藤、今は無理、と。代わりますね。」
「とにかく今は無理なんで。昼にしてもらえません?忙しいんですよこっちも。」
無愛想に返事を返され切られてしまった。
彼女に浮気をされ振られたかと思えば、次の日には彼女が殺される。
これだけ短期間にいくつも辛い出来事が積み重なれば、誰にも関わってほしくないのは当たり前だろう。
むしろ、今大学に来れているのはすごい事だ。
───20☓☓年10月1日午前9時20分。
遠藤にああ言われてしまった以上、付きまとうわけにもいかないため、大学の昼休みまで内勤で今回の事件について情報を見たり、報告書に書いたりして待つ。
「斉藤さんっ。彼、どうっすか。」
「ああ、大久保くんの事か。いい子だと思うよ。仕事も期待してる。」
「“くん”って、早速かわいがってるじゃないすか。俺の事も『鈴木くん』って呼んでくれていいんすよ。」
「やめろよ気持ち悪い。いいか、大久保くんとお前は違う。」
鈴木の顔を押し退けるが、力を入れて近付こうとしてくるので斉藤はさらに強く押し退ける。
「でも彼、たしかぁに、いい子ですけどあの第7係から追い出された人間すからね。」
急に声のトーンを下げ、ヒソヒソと話す鈴木に眉間にシワを寄せる。
「言ってやるなよ。可哀想だろ?手柄なんて第3係で挙げりゃいいだけじゃんか。」
斉藤がそう言うと驚いたように目を大きくし、耳元に近付き言う。
「知らないんすか!大久保って手柄なかったから外されたんじゃなくて、手柄の横取りばかりされて、見かねた第7係の係長が外したんすよ!」
「まじで言ってんかよソレ…!大久保くん原石どころか宝石じゃねぇか!」
コソコソ話していると、係長に叱られてしまい、鈴木は自分の席に戻る。
「まあ、とにかく大久保が追い出されたのは手柄の取りすぎによる、大物たちの嫉妬っすよ。嫌っすねぇ。」
去り際にそれだけ言うと大人しく席に着いた。
───20☓☓年10月1日午前12時30分。
再び大学に足を運び、遠藤を探す。
すると向こうからこちらへ来てくれた。
「話、あるんですよね。何なんですか。」
「遠藤陸さんで合ってますよね。村上咲良さんの事について、お話伺えますか。」
聞いた途端、目を逸らして少し黙った後、下を向いたまま小さく頷いた。
カフェテリアに案内されて、そこで話を聞く。
今回は斉藤、鈴木、の他、大久保も連れてきた。
「言っておきますけど、俺は何も知りませんから。俺が殺したんじゃないかって、噂してんでしょうけど、浮気されて別れてても、好きな気持ちは変わってません。」
「そうですか。本当に何も知りませんか?村上さんが不審な人物に狙われてた、とか。対人トラブルがあったとか。」
「知りません。咲良、もう1年は浮気してたみたいなんです。そんなのにも気付けない俺が、それに気付けるわけが…!」
気が荒くなる遠藤をなだめ、今日は引き取るという選択をした。
───あの男女の件から公衆電話での殺人は一切なく、警官の間ではやはり、関係を知ってでの犯行なのではないかと言われている。
「大久保くんは何か分かりそうか?」
「何言ってんすか斉藤さん、あれだけの会話で分かるわけが…。」
「あくまでも僕の推測なんですが…。殺害した犯人は橋木だと思うんです。」
2人は足を止め、大久保に詰め寄る。
「わぁぁぁっ!」
「いいから説明しろ。俺らには分かんねぇんだよ…!悔しいけど…!!」
「そうだぞ大久保!!」
「だから、その…───」
大久保曰く、今朝橋木に話を聞いた時、わざわざあのタイミングで山田と村上が浮気関係にあった事を言う必要が本当にあったのか?
あそこで浮気という単語を出し、彼氏が遠藤だったと言う事で、自分ではなく、遠藤に疑いの目が向くよう仕向けたのではないか、と。
「「これがあの第7係を脅かした男…。」」
「何ですか2人揃って…。」
「いや、流石だ。やはり突きどころが鋭い。大学が終わり次第、橋木を連れてく。」
───20☓☓年10月1日午後7時00分。
正門から出てきた橋木の前に立ちはだかり、手帳を出し、肩に手を置く。
「警視庁の方まで、来ていただけませんか。」
抵抗は一切せず大人しく車に乗り込んだ。
移動の車の中でソワソワする大久保に斉藤がどうしたのか問う。
「これで彼女が何もしてなかったらと考えると…心配で…。」
「大丈夫だ、心配する必要はない。令状取るまでは恥かかずに済むってもんさ。」
緊張で拳に力を入れる大久保の手をそっと、片手で包む。
「片手運転は道路交通法違反ですよ。」
「うっせ。いいか?疑える人間は疑えるうちに端から疑え。」
大久保の顔から緊張がほぐれ柔らかく笑い返事する。
───20☓☓年10月1日午後7時28分、警視庁にて橋木の取調べが開始される。
マジックミラーの向こう側では大久保と鈴木がつばを飲みながら様子を眺める。
「9月28日と30日に起きた殺人事件で、あなたが被疑者として現在挙げられています。単刀直入に言います。山田彰太朗さんと村上咲良さんを殺害しましたね。」
「そんな事…って言おうと思いましたが、飽きたので、全て話します。」
声から演技が消え、面倒くさそうに話す。
「随分とあっさり吐いてくれるじゃねぇの。」
「でも、なんでわかったんですか?私、あなたにも、他に聞きに来た人たちにも、私が疑われるような事言ってませんよ。」
橋木はゆっくりと首を傾げる。
「腕の利く後輩が仮説を立てた。あそこで浮気、遠藤、その単語を出す事で遠藤を怪しませた。だがそうだな。あの状況で彼氏を疑うのも無理はない。こちらがあなたの立場だったら疑うだろう。」
「それならどうして?」
「遠藤から聞いたよ。浮気を教えたの、お前なんだろ。」
その質問に下を向いて、そうだと答える。
「お前は友達思いを必死に演じてたんだろうが、色々と足りてないんだよ。友達殺されたのに悲しんでるように見えなかったし。」
突然机を強く叩き、橋木が声を荒げながら話し出す。
「だって…仕方がないじゃない!!あの女、私が遠藤くんの事好きだって知ってたのよ!?ようやくいい感じになれたと思ったら!あいつが遠藤くんと…!!!」
橋木が遠藤を好きだと知っていながら、ある日、村上はわざとらしい謝罪の演技をして、付き合った事を報告してきた。
その日から村上は橋木に惚気の話題ばかり出すようになり、憎くて仕方がなかった。
元々そういう面があり、今までは許していたが、
好きな人となるとどうしても許すという考えが頭に浮かばず、少しずつ距離ができていった。
付き合って数日で村上はたまたま街で知り合った山田と浮気を開始。
村上に恋人が居て、浮気相手にされている事は知っていたそう。
自分の好きな人を奪い、それなのに浮気をし、別れてから嬉しそうにする村上に、溜まっていた物が全て溢れ出し決行したのだという。
「なぜ先に山田さんを。」
「山田を先に殺して、愛してる人間を突如として奪われる絶望をあの女にも味わってほしかった。」
「公衆電話に遺体を置いた理由は。」
声のトーンや話すスピードは変えずに冷静に質問を進める。
「あの2人ね、浮気がバレないようにって交代で公衆電話から掛けてたの。そうしたら、ニュースを見た咲良は、愛しの人が死んだ絶望と、浮気がバレてた、次は私かもしれないっていう。───」
橋木は上を向き笑いながら続ける。
その様子に斉藤は眉間にしわを寄せ、睨みつける。
「不安に駆られておかしくなると思って。」
「そうか。じゃあ最後に殺した場所は。」
「車の中で殺しました。山田は酔ってたから、私が咲良だと言ったら気付かず簡単に付いてきました。咲良には、顔暗いよ、と言ってドライブに誘うフリして。」
斉藤は席から立ち上がり、扉の方へ歩いて行く。
「けど、惜しい事したな。あそこで必死に演技してれば、お前は今頃、疑われなんかしなかった。」
去り際にそれだけ言って、取調べ室を後にする。
取調べ室から出ると鈴木と大久保が缶コーヒーを斉藤に手渡す。
───公衆電話連続殺人は晴れて解決。後日令状はすぐに取得でき橋木日奈子は正式に逮捕された。
ニュースは全国報道され、公衆電話には更にたくさんの花が並んだ。
「お手柄だったな。大久保くん。」
「僕も自信はなかったんで…先輩たちのおかげです!」
「斉藤さんに大久保ー。俺は?俺の事も褒めてくれないんすか?」
「鈴木もお手柄だった!」
「そうですね。色々ありがとうございました!!」
照れくさそうにする鈴木の肩を組んで、今日は飲みに行くかと提案すると鈴木も大久保も賛成した。
ー公衆電話ー
‐メイン登場人物一覧‐
警視庁捜査一課第3係
斉藤裕貴
鈴木大翔
大久保海渡
被害者
山田彰太朗
村上咲良
犯人
橋木日奈子
‐サブ登場人物一覧‐
咲良の彼氏
遠藤陸
バーテンダー
星野武