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かくじょ~
第十話 二人きりの撮影会
日曜日。
朝。
待ち合わせ場所の駅前に着いた僕は、スマホの画面を確認した。
集合時間の十分前。
少し早かったかな。
そう思った瞬間。
「先輩!」
聞き慣れた声が響く。
振り返ると蓮が大きく手を振りながら走ってきた。
「おはようございます!」
「おはよう」
「早いですね!」
「蓮も」
「楽しみだったので!」
満面の笑み。
本当に分かりやすい。
僕も少し笑ってしまう。
「悠真は?」
「まだ来てないですね」
そう言いながらスマホを見る。
グループチャットには何も来ていない。
珍しい。
悠真は時間に正確な方だ。
五分。
十分。
十五分。
待っても来ない。
すると。
ピコン。
メッセージが届いた。
『悪い。部活の用事入った。遅れる』
「部活?」
僕が呟くと、蓮が画面を覗き込んだ。
「あー……」
なぜか微妙な顔をした。
「どうした?」
「いや、別に」
絶対何か思っている顔だった。
◇
結局。
先に撮影を始めることになった。
目的地は川沿いの公園。
休日ということもあり、人が多い。
「先輩」
蓮がカメラを構える。
「こっち向いてください」
「なんで?」
「撮るので」
「被写体じゃないんだけど」
「いいからです」
パシャ。
勝手に撮られた。
「蓮」
「良い顔です」
「消して」
「消しません」
即答だった。
◇
しばらく歩きながら写真を撮る。
花壇。
川面。
遊ぶ子供たち。
休日の街並み。
蓮の写真は前より上手くなっていた。
構図も。
光の使い方も。
ちゃんと考えているのが分かる。
「上手くなったね」
僕が言うと。
蓮は一瞬目を丸くした。
「本当ですか?」
「うん」
「……やった」
少し照れたように笑う。
普段は犬みたいに元気なのに。
こういう時だけ年相応だった。
◇
昼過ぎ。
川辺のベンチで休憩する。
「先輩」
「ん?」
「俺、写真部入って良かったです」
突然だった。
僕はペットボトルを持ったまま振り返る。
蓮は川を見ていた。
「最初はカメラなんて全然興味なかったんです」
「そうなの?」
「はい」
意外だった。
今では誰より楽しそうなのに。
「でも」
蓮が少し笑う。
「先輩の写真見て、やりたいって思いました」
僕は言葉を失った。
そんな風に思われていたなんて知らなかった。
「だから」
蓮は僕を見る。
真っ直ぐな瞳。
「憧れてます」
少しだけ胸が熱くなる。
「ありがとう」
それしか言えなかった。
◇
その時だった。
「……楽しそうだな」
低い声。
振り返る。
そこにいたのは――
悠真だった。
「悠真!」
ようやく来た。
だけど。
なぜだろう。
少し不機嫌そうに見える。
「遅かったね」
「悪い」
そう言う割には視線が鋭い。
その視線の先には。
当然。
僕の隣に座る蓮。
「何話してた」
悠真が聞く。
「写真の話です」
蓮が答える。
「へえ」
短い返事。
怖い。
なんか怖い。
◇
その後。
三人で撮影を再開した。
……はずだった。
「湊」
「ん?」
「これ撮れ」
悠真が景色を指差す。
「いい場所だから」
「確かに」
撮る。
すると。
「先輩!」
今度は蓮。
「こっちも綺麗ですよ!」
撮る。
すると。
「湊」
「先輩」
「湊」
「先輩」
忙しい。
非常に忙しい。
僕は撮影会なのに疲れていた。
◇
夕方。
帰り道。
蓮が先に電車へ乗った。
「また明日です!」
元気よく手を振る。
扉が閉まる。
電車が去る。
ホームに残ったのは僕と悠真だけだった。
少し沈黙。
そして。
悠真がぽつりと呟く。
「……あいつ」
「蓮?」
「距離近すぎる」
思わず笑ってしまう。
「またそれ?」
「事実だろ」
不満そうな顔。
本当に分かりやすい。
「悠真」
「ん?」
「もしかして嫉妬してる?」
言った瞬間。
悠真が固まった。
数秒。
沈黙。
そして。
「……してたら悪いか」
僕の心臓が止まりそうになった。
え。
今なんて?
聞き間違いじゃない。
確かにそう言った。
でも。
悠真はそれ以上何も言わなかった。
ただ少し赤くなった耳を隠すように視線を逸らしただけだった。
僕の胸は。
その帰り道ずっと落ち着かなかった。
#月日
#サスペンス
コメント
3件
第10話、読みました…! 悠真の「してたら悪いか」、あれ完全に意識してるじゃないですか…!もう心臓止まるかと思いました(笑) 湊先輩も気づきかけてるけどまだ認めたくない感じ、すごくもどかしくて可愛いです。 蓮くんの素直な憧れも眩しいけど、悠真の不器用な嫉妬が尊すぎました。この三角関係、続きが気になります…!