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結葉ゆいはなら絶対幸せになれるから。俺が保証してやる! だからもう泣くな。――な?」


――俺が幸せにしてやる、という言葉は、結葉ゆいはが望んでくれないと言えないから。


そうは喉元まで出掛かったその言葉を、寸でのところでグッと飲み込んだ。



***



結葉ゆいはは自分も悪いのだから仕方がないと言うような諦めに似たことを言っていたけれど、結局偉央いおとの離婚が成立してから――と言うより元義父母から子供を成せないとレッテルを貼られてから数日。


表面上は元気にしているけれど、一人にしておくと明らかに塞ぎ込んでいる様子なのが分かるから、そうはとても気になっている。


そうの告白への返事は、全てのことが片付いたら……と話してくれた結葉ゆいはだったけれど、その日はいつ来るだろう、とふと自分本位なことまで思ってしまって自己嫌悪のそうだ。



***



結葉ゆいは。今度の休みさ、一緒に映画でも観に行かねぇ?」


そうは自分の気持ちを持ち上げる意味も込めて、結葉ゆいはにそう持ちかけてみた。


思えばマトモなデートの誘いは、結葉ゆいはをあのマンションから救出した日以来だ。


「映画?」


夕飯後、リビングの片隅で本を開いて、一人ぼんやりとしていた結葉ゆいはが、ゆるゆるとそうの方をふり仰ぐ。


さっきから、結葉ゆいはが手にした本のページを全くめくっていないことを、そうは知っていた。



「うん。前に観に行った時に『面白そうだな』って話したパニックものの映画があっただろ? あれ、昨日から公開になってんだよ」


「そうなの?」


「しかも4DX3Dフォーディーエックススリーディーだ」


「本当っ⁉︎」


前回連れて行った際、結葉ゆいはは体感型の上映システムをとても気に入っていたから。


あれに連れて行けば、少しは気が晴れるかな?と思ったのだが、思いのほか食いついてきてくれて、そうはちょっと驚いてしまう。


「前行った時、楽しかったもんな?」


「うんっ! すっごく!」


久々に結葉ゆいはが心から笑うのを見た気がしたそうだ。


単純だけど、自分もそれだけで物凄く嬉しくなる。


「じゃあ、行こうぜ? ついでに携帯の番号も変える手続きしてさ。気分を一新するのとか、どうよ?」


モールの中には携帯ショップも入っているからちょうど良いかな?と思って。

何気なく聞いたら、結葉ゆいはが途端泣きそうな顔になった。


そうと目があったらすぐ、慌てたように持ち直してくれたけれど、失言だったな、と思ったそうだ。


そんなそうに、結葉ゆいはは淡く微笑むと、「ごめんね、そうちゃん。私が落ち込んでたの、気付いてたよね」と小さく吐息を落とす。


「ん? ああ。まぁ……そりゃあ、な。――ほら、何ちゅっても俺、子供の頃からずっとお前ばっか見てるからさ」


開き直っておどけたようにククッと笑ってみせたら、物凄く照れ臭そうな顔をされてしまった。


「……もぉ、そうちゃんっ。恥ずかしいから少しはオブラートに……」


「包む必要ねぇだろ? 俺、お前に好きって気持ち、思いっきり伝えちまってんだから。今更隠しても仕方ねぇわ」


悪びれもせず、ニヤリとして言い募るそうに、結葉ゆいははますます照れて、俯いてしまう。


そんな初々しい態度を取る結葉ゆいはのことが、堪らなく可愛いなと思ったそうだ。


「あー、ホントやべぇな。……やっぱ俺、お前のことすっげぇ好きだわ」


あふれ出す気持ちを抑えられなくて、心のおもむくままにそうこぼしたら、結葉ゆいはがますます恥ずかしくなったのか、きゅぅ〜っと身体を縮こめて真っ赤になった。


そうに表情を見られたくないみたいに伏せられた顔の両サイド、艶やかな黒髪を割ってちらりと覗いている耳も赤らんでいて。


そうは吸い寄せられるようにそこへ触れていた。


「ひゃ、ぁっ」


いきなり耳に触れられて、可愛く声を漏らしてビクッと身体を撥ねさせた結葉ゆいはに、そうはダメだと思うのにもっともっと触れたくて堪らなくなる。


何とか自粛じしゅくして、スルリと掠めるみたいに撫でるに留めた結葉ゆいはの小ぶりな耳は、熱を持ってとても熱くなっていて……。


触れた指先から結葉ゆいはの熱が伝播してきて、自分の身体も熱を帯びてくるような錯覚を覚えたそうだ。



「なぁ結葉ゆいは。頼むからこっち向いて顔見せて?」


かがみ込んで結葉ゆいはの顔の横へ唇を寄せると、熱源みたいになってしまった彼女の耳へ、優しく言葉を投げかける。


「あっ、やだっ。そうちゃ……。それ……くすぐったいっ」


途端、結葉ゆいはが堪らないみたいに白くほっそりした手指で耳を隠そうとするから、その手首を捕らえて阻止すると、「ほら結葉ゆいは。やめさせたいならこっち向けって」と、わざと耳に吐息を吹きかけるようにして促した。



逃げ場を失った結葉ゆいはが、観念したようにオロオロとそうの方を見上げてくる。


「ん。やっぱお前は世界一可愛いな、結葉ゆいは。そんな美人なのにいつまでも縁を切った人間のことでクサクサしてんの、もったいねぇと思わねぇか?」


もうかれこれ一週間になるのだ。


「お前が気持ち切り替えんのが下手くそだってぇのはよく知ってる。――けどさ、そろそろ他のことで思い悩んだって……きっと、バチなんか当たんねぇぞ?」


そこで、そうは両手のひらで結葉ゆいはの両頬をギュッと挟み込むと、

「なぁ、結葉ゆいは。どうせ考えるなら俺とのことにしとけ。その方が絶対実りあんだろ」


わざとおどけるように言ってみせたのは、結葉ゆいはが「もう、そうちゃんってば何バカなことを言ってるの?」と一蹴いっしゅうできる余地を残してやりたかったから。


それに、もしそうならなかったとしても、いまそうが言ったことを真に受けて自分のことを考え始めてくれたなら儲けものじゃねぇかとも思ったそうだ。


「……そおひゃ……」


頬をむぎゅっと押し潰されたままだから、マトモにそうの名前が呼べない結葉ゆいはだったけれど、それがまたそうには堪らなく可愛く思えてしまって困る。


そうは、自分も大概重症だな、と思ってしまった。



結葉ゆいはに、どこまでも深く深く、黒く潤んだ瞳でじっと見つめられて、そうは〝今日は告白への返事はもらえなくてもいいかな〟と思う。


何故ならもう少しだけ……そう自身、〝もしかしたら結葉ゆいはから色良い返事がもらえるかもしれない〟という夢を見続けていたかったから。

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