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少女は困惑した。

脱がされて、包帯を取られて、一糸纏わぬ姿で脱衣場に立っている。


(よく考えたら、怪我の手当てしてもらった時とか、襲われた時って、裸だよね……とっくに全部見られてるんだ。今更恥ずかしがる事なんて……やっぱり意識すると恥ずかしい!)


頭をブンブン振って、恥ずかしさをごまかし始める。

その時、脱がされたはいいけど、なぜか放置されている事に気が付いた。


「みゅ…みゅーぜ?」(えっと入ったらいい……のぉ!?)


少女が振り向くと、自らの下着を下ろしているミューゼの姿があった。

白い肌から紫色の下着が取り除かれ、少女と同じく一糸纏わぬ姿へと変貌する。


(え、ええっ……えええええええ!?)「みゅ……みゅ……!?」


突然の光景に、体が動かなくなってしまった。


「おまたせ。さ、洗ってあげるからねー」


そう言って、正面から少女を抱っこして、浴室に入って行った。


(!?!?!?!?)


突然の密着に、少女は静かにパニックを起こしていた。


(みゅーぜ! ちょっとだれか! あたってる! やわらかい!)


手足をジタバタ動かそうとするも、抱っこされている状態ではうまく動かせないでいる。

かなり控えめだが、お腹に当たる柔らかな感触に、少女は心の悲鳴を上げ続けた。

なんだか楽しそうなミューゼは、蛇口のある所で少女を降ろすと、タオルをお湯で濡らし、少女を磨き始める。


「まずは怪我をしていない所からね。痛かったらごめんね」

(どどどうしよう…みゅーぜに洗われてる……こんな綺麗なおねーさんに洗われてる……以前だとお店でしか出来なかったやつだ)


前世と違って今は小さな女の子の体なので、女性の体で身体的に欲情する事は無い。大人になって同性を意識するようになれば話は別だが。

しかし今の少女は、前世の知識のせいで混乱し、ただ恥ずかしがる事しか出来ない。

すっかり固まってしまった少女の体を、怪我に気をつけながら磨き、特に先程汚れてしまった下半身は2度3度と磨いては流していく。

足を開くと少女の顔がさらに赤くなり、そんな表情をミューゼは優しい母のような目で見ていた。


(恥ずかしいのね、可愛いんだから……このままお嫁さんにしたいくらいだわ)


ミューゼは割と真剣にそう考えていた。

やがて少女を洗い終わると、桶で一度お湯をかぶせ、次は急いで自分の体を洗い始める。


(ゆっくり洗うのは明日にしよう、この子が風邪引いたら困るし)


土や手当てした時の返り血などを落とし、ある程度さっぱりしたら、再び慌てる少女を抱え、お湯の入った桶に浸かる。


(あ、お風呂……あったかい、きもちいい……)

「あ、急に大人しくなった。お風呂好きなのかな?」


すっかり落ち着いた少女を撫で、ミューゼはこの後の事を考え始めた。


「パフィが戻ってきたら晩ごはん、結構疲れてるからすぐに寝たいけど、その前に……名前つけてあげなきゃ。手当ては明日でいいよね」

(……気持ち良くて眠くなってきた)


ウトウトとし始めた少女に気づいたミューゼは、独り言を止め、お風呂から上がった。




一方食堂へと向かったパフィはというと……


「そんな事がねー。焦ったとはいえ、大失態だし」

「そうなのよ。絶対に責任取らなきゃいけないのよ」


店主と2人で、森での話に花を咲かせていた。


「それにしても、言葉が通じない森の中の女の子か……一体何があったんだし?」

「1人だったのに、大事にされていたような形跡はあったのよ。最低限の家具や食べ物なんかは揃っていたのよ」

「なにそれ不思議だし。いつかその家の周辺調査した方が良いと思うし?」

「そう思うのよ。でもミューゼの感知魔法にも何も引っかからなかったのよ」


パフィにとっても、情報の整理ということで、信頼出来る店主に相談している。

しかし、気が楽にはなるが、結局謎は深まるばかりだった。


「面倒見ながら調べていくしか無いんじゃないし?……よし、出来たし。ランチセット4人前」

「ん? 頼んだのは3人前なのよ? それに今はランチじゃないのよ」

「店は昼しかやってないし。ボクもまだ食べてなかったから、一緒にいくし」

「はぁ、分かったのよ」


カウンターからパフィと同じ年頃の女性が出てきた。

彼女はクリム。昼営業の食堂『ヴィーアンドクリーム』の店主で、パフィの幼馴染。

青いポニーテールを揺らしながら、作りたての弁当を持って、パフィと共に店を出る。

2人は雑談しながらミューゼ達の待つ家へと向かった。


「そういえばお代は──」

「お肉分けてもらったし大丈夫だし。おっと、これお釣りだし。ランチセット2人前の代金だけ抜いておいたし」

「……頼んだのは3人前なのよ?」

「それはオマケだし。ま、会わせてもらうのが代金だと思っていいし」


店と家はそれほど離れていない為、手に持った弁当が温かいまま家に到着した。


「ただいまー、クリムも入っていいのよ」

「おじゃまするしー」


そのままリビングに向かうと、大きなシャツを着た可愛らしい少女が待っていた。キョトンとした顔で、ソファに座っている。

すぐにミューゼが、隣のキッチンからやってきて、コップをテーブルに置いていく。


「あれ? クリムも来たの? いま飲み物出すね」

「突然ゴメンだし。一緒に晩ごはん食べるし」


テーブルに作りたての弁当を4つ広げ、ミューゼがコップを1つ追加してから、少女を椅子に座らせた。

甲斐甲斐しく世話をするミューゼと、おとなしい少女を見て、クリムはニヤニヤとパフィを見る。


「すっごい可愛い子だし。確かにこれは責任とらなきゃいけないし」

「責任無くても養いたくなるのよ。まだ会話も出来ないけど、凄く良い子なのは明らかなのよ」

(この人誰だろう、ぱひーの友達?)


突然の来訪者に、少女はどう話しかけたら良いか困っていた。もっとも、通じないのに話しかけるも何もあったものではない。

ミューゼは少女にフォークを渡し、弁当の蓋を開けた。焼肉と野菜、そして米が入った焼肉弁当だった。

良い匂いが部屋中に立ち込める。


「あ、美味しそう」

「良い肉を渡されたし、仕事で疲れてると思ったし。だから早く作れてガッツリしたものを作ったし」

「食堂にいた時からもうお腹空いちゃってたのよ。はやく食べるのよ」

(凄い、米があるんだ! それに美味しそう!)


少女は食べて良いのかという視線をミューゼに送った。

なんとなく察したミューゼは、少女の弁当の肉をフォークで刺して、口元に持って行く。すると一瞬だけ迷ったものの、すぐに肉にかぶりついた。


「むぅ……ちょっと大きすぎたし……子供用のサイズまで切ればよかったし」


全部を口に入れる事は出来ず、切り身の4分の1だけ噛みちぎり、モキュモキュ食べる。他の3人は、緊張した面持ちでそれを観ていた。


(すっごい見られてるけど……美味しい! 味ついてる!)


飲み込んで笑顔になると、ようやく3人は安堵して、自分達の弁当に手を付け始めた。

ミューゼもフォークから肉を外し、自分のフォークを使うようにと指で教える。すぐに少女は理解して、自分のフォークで弁当を食べ始めた。


「食べてる姿も可愛いし。時々餌付けしに来てもいいし?」

「餌付けて……まぁ別に良いのよ。もし仕事で一緒にいられなかったら、世話をお願いするかもしれないのよ」

「どんとこいだし!」


今後の少女の身の振り方が勝手に決まっていくその向かいで、なんだかお姉さんになった気分のミューゼは、上機嫌で弁当を食べながら、隣の少女を見守っている。

右腕は怪我をしなかった為、フォークを使って食べる分には不便は無かったようだ。


(森の時は、芋みたいなのとほうれん草みたいなのがあったから、ひもじい思いはしなかったけど、ここには米もあるし、味だってつけられる。味があるってこんなに嬉しい事だったんだ……)


森で目が覚めてから、特に出来る事も無いまま彷徨って、毎日同じ物を食べて、トラブルがあったものの、ようやく人に会えた。

昨日は緊張で味わう事が出来ていなかったが、今は自分の手で食べて、味を感じる事が出来ている。

弁当を半分程食べたところで、少女の目からは涙が溢れてきた。


「な、なんで泣くし!?」

「大丈夫!? パフィ何か拭くもの!」

「はいタオルなのよ!」


突然の涙に、3人は大慌てである。


「ガツガツ食べながら泣いたって事は、きっとマズかった訳じゃないのよ」

「ずっと見てたけど、顔は嬉しそうだったし……」


涙を拭いてもらった少女は、水を飲んでからもまた弁当にかぶりつく。


「……ねぇ、この子が森で食べてたのって」


ミューゼとパフィは、森の家で見た事を話した。


「整理すると……この大きな芋と謎の葉野菜、家の裏に湧き水、そして焚火と鍋。それでずっと1人で暮らしてたわけだし? こんな小さな子が」


自分達の弁当を食べながら、少女に関する考察をしていく。


「……パフィ、この芋モドキと葉野菜と水と火だけで出来る料理を考えてみるし。調味料は禁止だし」

「奇遇なのよ。私も言おうとしてたのよ。ミューゼはその子の面倒見ててほしいのよ」


話し込んでいるうちに、少女の弁当は空になっていた。

ミューゼも急いで食べ終わり、片づけはパフィ達に任せて、少女と一緒にソファで寛ぐ事にした。


(さっきは嬉しすぎて泣いちゃったけど、みんなに変に思われてないかな……というか、あのお姉さんの名前教えてもらってない)

「ねぇ、貴女は今までどうやって生きてきたの? どうやったら知ることが出来るの?」


少女はクリムの事を、ミューゼは少女の事を知りたがっていた。森での境遇を想像しただけで、ミューゼの胸は苦しくなる。

自分を後ろから抱きしめるミューゼに一瞬戸惑った少女だったが、辛そうな表情を見て、自然とミューゼの頭を撫でていた。


「どうしてこんな良い子が……ごめんね、もっと早く見つけていたら……」

(みゅーぜ辛そう……ここは大人として僕がしっかりせねば!)


自分の事で悩んでいる事は知る由もなく、元大人として意気込む少女。

しばらくの間、2人はお互いを慰め合っていた。


「ミューゼ、大丈夫だし?」


話と後片付けを終えたパフィとクリムが、ミューゼの元へとやってきた。


「……うん、この子の今までの事を考えてたらちょっとね」

「そう……私達もその話をしていたのよ。想像でしかないけど、泣いた理由はなんとなく察したのよ」

「『味』を感じて、嬉しかったんだと思うし。パフィが森で作ったのと違って、下ごしらえもしたし」

「この子が食べてたのは、いつも同じ芋モドキと葉野菜だったと思うのよ。肉は狩れないし狩った形跡も無かったのよ。味は薄いしずっと同じだから、味なんて無いようなものなのよ。森では私達と初めての味でビックリして、リアクション出来なかったんじゃないかって思うのよ。怪我してたのも原因かもしれないのよ」

「あとはもっと小さい頃に、味がある物を食べた事を思い出したかもしれないし。火の点け方と簡単な料理の仕方は、ちゃんと親に教わった可能性もあるし」


本人から聞くことが出来ない以上、状況からの考察しか方法は無い。それでも1度体験しているミューゼとパフィにとっては、納得の内容だった。

しかし、2人は少女の保護に必死だった為に気づかなかったが、燃えていた薪は普通の木ではなく、打ち付けるだけで火が点き、決して燃えつきる事の無い不思議な薪だった。不思議なのは野菜だけではなかったのだ。気づいていれば、間違いなく持って帰っていただろう。


「昨日のパフィの料理では泣かなかったのに今回泣いたのは、緊張から解放されたのもあるかもしれないし。森の中って危険だし」

「そっか……そうだよね」


考えれば考える程、心が痛んでいく。

一体こんな小さな子に何があったんだろうと、考えてしまう。

一方、ミューゼの腕の中でも、少女は真剣に悩んでいた。


(むむー、お姉さんの名前教えてほしいけど、なんだか今は真剣な顔してるし…………ヤバイ、だんだん瞼が重くなって……)


一瞬カクンと頭が傾いたが、なんとか気力を振り絞って持ち直した。


「あっ……眠たいのね。今ベッドに連れてってあげるから待ってて」

「深刻な話は小さい子には退屈だし。仕方ないし」

「私はお風呂も入るから、今日は任せるのよ」

「うん、でも1つだけ大事な話があるの。ずっと考えてたんだけど……」


どうしても話したいと思っていた事……それは──




ウトウトとし続ける少女を連れて、ミューゼは自室へとやってきた。戦ったり悩んだりして、ミューゼ自身も疲れ切っている為、すぐに寝るつもりである。

暗い部屋で少女を抱えたままベッドへと入る。するとすぐに寝息が聞こえてきた。

腕の中に小さなぬくもりを感じながら、ミューゼは少女に向かって優しく呟いた。


「おやすみ、アリエッタ……」

からふるシーカーズ

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